民主国家実現の戦略

                    1999年5月20日改訂


1.民主国家実現戦略の策定の手順

民主国家実現戦略を策定するためには、「民主国家」とはどんな状態を言うのか、そして我々はどんな状態を目指すのかという事を明確化しなければなりません。

日本国は、制度上は民主国家のはずです。しかし、官僚国家であると言われています。どんな項目がどういう状態であれば、民主国家というのかが問題です。世の中の多くの市民運動は、民主国家の条件となる項目の一部について、改良のための努力をしているのだと思います。

民主国家かどうかを判定するための項目を明確化していき、その項目で構成されるマップ(仮に、民主度評価マップと名付ける)の上に、各市民運動をプロットしていくと、日本における市民運動の全体像が明らかになるでしょう。さらに、民主度評価マップの上に、日本の現状を表現すれば、各項目ごとの理想と現実の乖離の状態もわかるでしょう。そして、各項目の相互依存関係や因果関係を表現する図を作成し、民主度の評価が低い項目について、その原因を探求すれば良いと思います。

このような分析が終了したところで、何に対してどのように作用を及ぼすことが民主国家の実現に効果的であるか、そしてそれは、其の時点の我々の力量で可能かなどを考察して、民主国家実現のために辿るべきルートを、民主度評価マップ上に設定し、そのルートをたどる場合の行動指針や、概略のスケジュール、役割分担などを決めていけば良いと思います。

2.民主国家の実現を目指す市民運動は、組織における官僚発生のメカニズムを認識していなければならない。

制度上では民主国家であっても、その制度の運用が官僚により支配されていれば、民主国家ではなくなってしまいます。民主主義運動をしている組織は、人間組織における官僚の発生メカニズムを自覚しつつ、民主主義運動の組織を運営しなければ、自己矛盾に陥るでしょう。

ここで、官僚を「組織全体の利益のための奉仕業務をすべき立場にありながら、組織の支配や自己利益の追求をするようになった権力指向の事務局員」と、定義します。

国家でなくても、企業,組合,宗教団体,市民運動グループ,PTAなど、どんな組織であっても組織の拡大の過程で、官僚が発生して、組織の構成員から自由度が奪われていき、民主的な運営がされなくなってしまい、最後には組織全体の活力が喪失して、組織が衰退するということが生じます。

市民運動をまとめていこうとしている我々自身が、官僚にならないように自省しつつ行動しなければなりません。
そのためには、人間組織において官僚が発生するメカニズムを認識しておく必要があります。

まず、構成員が1人しかいない組織では官僚の発生はありえません。構成員が増えてきて、組織全体の管理業務の必要性が生じてくると、官僚の発生の可能性が生じます。組織の管理のためには、次のものが必要になってきます。

【組織管理のために必要なもの】
1)組織の運営規則や行動計画の作成や運用
2)構成員の役割分担(分業)や階層化
3)組織としての対外意思決定,組織内の資源配分,構成員の役割分担の決定,組織内の情報配信制御のための中枢組織

上記のようなものは、組織の運営のためには必須だとは思いますが、この運営が次のような状態で行われると、組織内に官僚が生じやすくなります。

【官僚が発生し易い条件】
1)管理業務を担当する者が固定化している。
2)管理業務の実行のために必要な情報が組織内の一部構成員に偏在している。
3)管理業務を担当する者以外の他の構成員が、組織の設立の理念や目的を忘れて、管理業務を担当する者に組織の運営をまかせてしまい、自分の意見を言わなくなり、既存の規則や行動計画に従がう事にのみ目を奪われてしまっている。
4)管理業務を担当する者が、組織の設立の理念や目的よりも、組織管理を優先して思考し、行動するようになっている。

「忙しさ」というキーワードに、組織において官僚が発生する原因が隠されている感触があります。忙しいので、効率第1主義になり、中央集権型組織や役割別の縦割り組織になり、それらを管理する者が発生し、日常業務をその組織でどんどんとこなしていると、組織の創設時の理念もふっとんでしまうのかもしれません。そして、理念よりも組織管理に魅力を感じて行動する事務局員が発生し、それらが官僚となり、人事権,予算配分権,情報流通の統制権を保持するようになり、それらの権限が組織の構成員を縛るとともに、構成員からは入手したい魅力的なものに見えるようになり、ついには組織創設の理念を全ての構成員が忘れてしまうのではないでしょうか?「大企業病」、「宗教団体や政党の腐敗や抗争」の原因もここにあると思います。

上記のような「官僚発生のメカニズム」を常に全員が認識している必要があります。

組織内に官僚が生じにくくするために、上記の「官僚が発生し易い条件」を、常に崩していく必要があります。そのためには、「管理業務担当者の輪番制」,「管理業務のための情報の全体での共有」,「運営規則や計画や組織の頻繁な見直し」,「組織管理よりも組織設立の理念を優先する思想の維持」が必要です。

3.民主国家の条件

国民による自己統治が行われている国家を民主国家と定義します。そうすると、民主国家の条件は、詳細には次のとおりになると思います。

1.国家の統治機構に関する情報を十分に国民が認識している事。(情報公開)
1.1 国家の統治機構に関する情報は、国民のものであり、公共の福祉または基本的人権を著しく阻害しない限り、国民にはその情報を知る権利があるとされている事。(知る権利の存在)
1.2 国家の統治機構に関する情報は、統一的な方式で登録され、いつでも入手可能に保管されており、そのような登録と保管が行われなかった場合には、管理責任者の責任を厳しくとえる体制となっている事。(情報の登録・保管義務)
1.3 前記の情報に、国民が簡単・迅速・無料でアクセスできる事。(容易なアクセス)
1.4 前記の情報は、国民がその内容を認識し易い表現形態で表現されている事。(認識の容易性)

2.国民が思想・表現・結社の自由を有している事。(政治的自由)
2.1 思想・表現・結社の自由を冒す行為に抗議した国民が、抗議の内容に基づいては、国や企業などの国内のいかなる存在からも、不利益も受けない事。(政治的自由の確保権)
2.2 思想・表現・結社の自由を冒す者を厳しく処罰する体制がある事。(政治的自由の確保の保証)

3.国民の意見や要求がさまざまな形態で集約できる仕組みがある事。(世論集約機構)
3.1 公平性や信頼性の高い世論調査機関が頻繁に広範囲にわたる世論調査を行い、その結果を公表している事。(世論調査の充実)
3.2 議員又は政党が自分の支持者のみならず、広く意見を収集して、それを自己の政策案に反映している事。(議員や政党の世論収集活動)
3.3 市民団体やシンクタンクが、国民の意見を広く収集して政策立案に反映している事。(市民団体などの世論集約)
3.4 インターネット上で、信頼性の高い電子投票システムが稼動していて、世論の集約機能を果たしている事。(インターネット上の電子投票システム)

4.国家が法律によって統治されている事。(法治国家)
4.1 行政指導がない事。
4.2 政令、省令、通達などのような官僚が自由に規定するものが、できる限り少ない事。
4.3 裁判のコストが安く、裁判に要する期間が短い事。

5.国民の意見や要求を法律や統治機構の政策に反映する過程で、各国民が平等な重みで取り扱われる事。(平等原則)
5.1 企業・団体による政治献金の禁止がされている事。
5.2 議員選挙における一票の重みの較差が、少なくとも1.2倍未満になっている事。
5.3 国民の意見を聴取する場合において、聴取対象者の選定を行政機関に属する者が行えないようになっている事。


6.世論集約機構が、代議員による間接民主制の場合には、代議員の明確な公約表明義務と公約遵守義務が、強制力をもって存在していること。(公約の強制力)
6.1 代議員の選挙における選挙公約が登録され公開される制度がある事。
6.2 代議員の選挙公約違反について、その代議員の選挙区の有権者が議員罷免を求める訴訟を提起できる事。
6.3 代議員は選挙に立候補する場合には、公職選挙法により明確な公約の提示を義務付けられる事。


7.世論集約機構が、国民による直接投票による場合には、直接投票制度が運用可能に確立している事と、直接投票の結果が強制力をもっていること。(直接投票制度)
7.1 国民投票法が存在している事。
7.2 国民投票を低コストで短期間に実行できるシステムが存在している事。
7.3 国民投票の結果に反する議決を議会がした場合には、議会は解散して、議員の選挙を行うとの規定がある事。


8.統治機構の組織,業務,職員を、国民が直接又は間接に評価して制御できる事。(国民による統治機構の支配)
8.1 人事院、行政監察局を国会の下部機関としての「行政評価監視院」とし、行政機関との人事交流を遮断した存在にした上で、国会の指揮のもとで内閣からも独立して行政の評価と監視をする事。(行政評価監視院の設置)
8.2 大臣の権限を実質的に簒奪している事務次官ポストが廃止されている事。
8.3 各省庁の大臣による人事権の発動義務が明示されている事。
8.4 国政調査権の発動要件を緩和して、国会議員1人の発意によっても国勢調査できる事。
8.5 行政機関のサービスを国民投票で評価し、その評価に基づいて省庁別に人件費の総枠が決まる制度が実施されている事。


9.統治機構を構成する「政策企画」,「立法」,「司法」,「行政」,「監察」の各機能が、「国民による統治機構の支配」を損なわない運営がなされている事。(統治機構の適正運営)
9.1 「政策企画」,「立法」,「司法」,「行政」,「監察」の各機能の組織間の人事交流の禁止がされている事。
9.2 天下りの禁止がされている事。
9.3 行政機関による議員や企業に対する利益誘導行為が禁止されている事。
9.4 行政機関が課税、補助金、許認可、公共事業の発注、国家試験などに関して、法で認められた範囲を越えて、便宜供与したり、不当に冷遇することを誘因として、議員や企業・団体や一般国民の行動を制御する事を企画したり実行する事が禁止されている事。


10.国民の大多数が主権者としての意識や価値観を保持している事。(主権者意識)
10.1 官僚を無条件に優秀だとは思っていない事。
10.2 民尊官卑の思想がある事。
10.3 自分の投票行動によって、国政を変える事ができるとの意識をもっている事。


4.環境問題をなかなか人類が解決できない原因

私は、環境問題を組織の問題から捉えています。人類全員が暮している環境についての問題をなかなか人類が改善できないのは、人間の組織に原因があるからだと思っているためです。「環境破壊をひきおこす組織の論理」、「組織の末端の構成員の良心によっては組織全体の行動修正ができにくい組織構造」、「国民の自己統治意志を表現するものである法律を議員が作成しにくい現実」、「人間が形成する組織の拡大とともに発生する官僚による、組織の変質の問題」について、考察してきました。どの問題も一筋縄では解決できない問題ですが、「官僚の発生を防ぎつつ組織を維持・発展させるにはどうしたら良いか?」という問題が最も重要だと思うようになってます。なぜならば、社会を改革するための組織が官僚主義によって変質し、衰退するのを防げれば、ほとんどの問題をそのような組織をたくさん作って解決できるからです。官僚とは一言で言えば、「権力指向化した事務局員」です。


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