「知る権利」の憲法上の根拠


今国会で成立することが確実になった情報公開法に「国民の知る権利」が盛り込まれない見込みです。盛り込まれなくなった事の大きな原因の一つに、「国民の知る権利」の憲法上の根拠についての学説の混乱があります。政府はこの混乱を利用していると思います。学者の中には、表現するためには「知る」事が必要だとして、国民の知る権利の根拠として、憲法第21条をあげる人がいます。

(「それゆえ、アメリカ同様、日本国憲法21条の表現の自由の保障は、「知る権利」を含むものと考えられなければならない。」 大阪大学法学部教授 松井茂記さんの著書の岩波新書 「情報公開法」 22ページ)

また、この論に真っ向から反対する学者もいます。

(「知る権利は憲法の表現の自由から導かれるなどといわれるが、表現の自由はもともと自由権で、情報の発信を妨げられない権利である。これに対し、情報公開請求権は国家に対する情報を求める請求権である。これも表現の自由から導かれるなどといわれるが、性質が違いすぎる。」;神戸大学法学部教授 阿部泰隆さんの著書「論争・提案 情報公開」、日本評論社発行の6ページ)

憲法第21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。


私は、「知る権利」の根拠を憲法第21条に求めるよりも、憲法前文の「国民主権」に求めるべきであると思います。

【日本国憲法の前文の抜粋】
ここに主権が国民に存することを宣言 し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであ つて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、そ の福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、 かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び 詔勅を排除する。


主権者である国民が国政について知る権利を持つことは当然であり、知る事無しには適切な主権の行使ができないので、知る権利の必要性もあるというものです。「知る権利」の憲法上の根拠についての確固たる理論の構築と社会通念の形成が必要です。国民が政府に対して有する主権の一つとして、「知る権利」を情報公開法に規定する事が必要です。現在の政府案の情報公開法は、国民が行政文書の開示を請求したら、開示の可否を行政側が判断して、不開示とできる場合があり、不開示処分に不満な開示請求者は不服を申し立てて、不服の妥当性が審査されることになっています。

「知る権利」を情報公開法に規定すると、この構造は、次のように変わると考えます。すなわち、行政情報は所定の一部を除いて、開示請求がなくても、その情報の発生の日から例えば30日以内に誰でも無料でアクセス可能に電子的に公開されねばならない。また、前記の所定の一部の行政情報であっても、国民からの開示請求があれば、直ちに開示しなければならない。この開示をする事に不服のある行政機関は所定の期間内に理由を示して不服を申し立てできるが、申し立てが認められなければ、直ちに開示請求者に開示することが義務付けられる。」

「知る権利」に基づいた情報公開法の体系では、開示請求がなくても公開する事が原則であるという事です。


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