連載コラム バクテノールの鼻歌

第18回 はあ?


 どうも、こんにちは。バクテノール・イヴスキーです。
 最近思うんですけど、毎週コラムを書きつづけるコツ。一つにはどんなことでもネタに
しようとする貪欲さを挙げられると思うんですね。「うん? これはコラムのネタになる
のではなかろーか!」、という視点で物事を見ていると、路傍の石といえども意味のある
ものに見えてくるものです。

 私の古い友人に「木毛」という者がおりますが(はい、ずばり「キゲ」と読みます)、
この木毛が先日メールを送ってくれました。今週は、そのメールに書かれていた物語を
私バクテノールがこきおろす物語です。木毛よ、怒るな。君は悪くない。

 ではでは、少し長くなりますが、メール中の物語を勝手に引用しますのでお読みくだ
さい。



   次のような銀行があると、考えてみましょう。その銀行は、毎朝あなたの口座へ
86,400ドルを振り込んでくれます。
同時に、その口座の残高は毎日ゼロになります。つまり、86,400ドルの中で,あなたが
その日に使い切らなかった金額はすべて消されてしまいます。
あなただったらどうしますか。もちろん、毎日86,400ドル全額を引き出しますよね。僕
たちは一人一人が同じような銀行を持っています。それは“時間です。毎朝、あなたに
86,400秒が与えられます。
毎晩、あなたが上手く使い切らなかった“時間”は消されてしまいます。それは、翌日
に繰り越されません。それは、貸し越しできません。毎日、あなたの為に新しい“口座”
が開かれます。そして、毎晩、その日の残りは燃やされてしまいます。
もし、あなたがその日の“預金”を全て使い切らなければ、あなたはそれを失ったことに
なります。過去にさかのぼることはできません。
あなたは今日与えられた“預金”のなかから“今”を生きないといけません。だから、与
えられた“時間”に最大限の投資をしましょう。そして、そこから健康、幸せ、成功のた
めに最大の物を引き出しましょう。時計の針は走り続けてます。今日という日に、最大限
の物を作り出しましょう。
1年の価値を理解するには、落第した学生に聞いてみるといいでしょう。
1ヶ月の価値を理解するには、未熟児を産んだ母親に聞いてみるといいでしょう。
1週間の価値を理解するには、週間新聞の編集者に聞いてみるといいでしょう。
1時間の価値を理解するには、待ち合わせをしている恋人たちに聞いてみるといいでしょ
う。
1分の価値を理解するには、電車をちょうど乗り過ごした人に聞いてみるといいでしょう。
1秒の価値を理解するには、たった今、事故を避けることができた人に聞いてみるといい
でしょう。
10分の1の価値を理解するためには、オリンピックで銀メダルに終わってしまった人に
聞いてみるといいでしょう。
だから、あなたの持っている一瞬一瞬を大切にしましょう。
そして、あなたはその“時”を誰か特別な人と過ごしているのだから、十分に大切にしま
しょう。その人は、あなたの時間を使うのに十分ふさわしい人でしょうから。
そして、時は誰も待ってくれないことを覚えましょう。
“昨日”は、もう過ぎ去ってしまいました。
“明日”は、まだわからないのです。
“今日”は与えられたものです。
だから、英語では“今”をプレゼント(=present)と言います
今週は、ナショナルフレンドシップ週間(“友情”の週間)です。
友だちはとても貴重は“宝石”です。それは、あなたに笑顔と、成功するための勇気を与え
てくれます。それは、あなたのこと聞いて、あなたを誉めて、あなたへ心を開いてくれます。
だから、あなたの友達に、どれほど彼らのことを心に留めているかを示しましょう。このメッ
セージを、あなたが友達だと思う人に、送りましょう。そして、もしこのメッセージが戻っ
てきたら、あなたは友達の輪を持っています。素晴らしいナショナルフレンドシップ週間
(“友情”の週間)になるように祈っています。


 さて、これを読んで皆さんはどのような感想をお持ちになられましたか。私は、ずばり
「はあ?」と、思いましたね。
そう、あの右斜め下45度の角度からえぐい目つきでしぼりあげるように繰り出す、必殺
技の「はあ?」です。
読者の皆さんにも私の気持ちの具体的なイメージをもってもらうために、今回は特別に名
匠 Mr.Rokkin の手による連続イラストで、「はあ?」を表現してみましょう。


   

 さてさて、えらく大袈裟なイラストになってしまいましたが、時には言葉よりも絵の方
がはるかに多くを語るということもあるということです。(ところでイラストが気にいっ
たお方は、ぜひ発毛時代写真館もご見学ください。)

 では、どこら辺が「はあ?」なのかというとですな。一見ハートウォーミングストーリー
なこの物語ですが、内容的にはまったく大したことを言っていない。
 一言で言えば、「一日は24時間です。時間を大切にしましょう。」である。たったこ
れだけのことを言うために、わざわざ86400ドルがどうの、銀行がどうの、とあえて
分かりにくい例えをあげてながながと説明してくれておる。さらには、「今を生きろ」だ
の「時間に投資しろ」だのと抽象的すぎて、まったく意味のないアドバイスが続く。
 ところが、こんなメールが出回っているくらいなのだから、このストーリーに激しく感
動して、「よし、俺も時間を大切にするぞー。」と啓蒙されてしまった人は少なくないに
違いない。だが、時間を効率よく使うための具体的な方策は何ら示されていないのである
から、結局何も変わるはずがないのである。世の中、抽象的な大儀を唱えることは大好き
なのに、具体的なプランになるとさっぱりなしという輩であふれているような気がするが、
こういうメールがはやるのもきっとそのせいに違いない。もちろん、自戒の念もこめて発
言しているつもりである。

 このように考えてきたとき、私はここに現代社会に根付く「新興宗教」の原点を見た!
(いやあ、今回は我ながらすごい展開ですなあ)。いわゆる新興宗教の教祖は、実は当た
り前のことを、「いかにも仰々しく」のたまって、単純な信者達を心服させる。本当は大
したことを言っているのではないのである。それをもっともらしく語るのが、教祖の真髄
なのである。そして教祖の教えを実践するために、これまたわけのわからない抽象的なア
ドバイスを連発して、対価として膨大な金銭を要求するのである。本当はここで「何かお
かしいな」と気づかなければいけないのに、偉大な演説に感動している信者達はもはや目
が見えなくなっているので、気づかないのである。この点、詐欺師の手口も一緒であろう。

 もっともらしい話は、それが当たり前のことなのか、それとも全く新しいワンダフルな
新説なのか、自分の頭でよくよく考えて判断しなければいけない。

 私は思うんですけどね、上述の物語を読んで「よし、時間を大切にするぞー」って思っ
た人はちょっと注意した方がいいですね。あなたは怪しい新興宗教や、詐欺師にだまされ
る素質が極めて高い。うっかりすると、「時間教」の信者になってしまいますよ。

 時間なんてのは、それぞれの人間が好きなように使えばいいのです。「使いきれなかっ
た」時間なんて、あるはずがない。寝ていても、ダラダラしていても、しっかり「寝るこ
と」や「ダラダラすること」に時間を使っているのだから。時間の使い方は、自分で考え
るもの。忙しい人は、時間を効率よく使う方法を自分なりに考えるだろうし、ダラダラす
るのが好きな人は、ダラダラすることに時間を投資しているんだから、人に文句を言われ
る筋合いなどないのです。大切なのは、本人が後悔しないことなんだから、ダラダラして
後悔しないんだったら、それでいいじゃないか、と私は思う。そのように考えるのが「バ
クテノール教」の教えです(by 教祖。 あれ?)。

 ただね、この物語の最後の所にもあるように、「友達は宝石である」と書いてあるとこ
ろはなかなかよいと思う。宝石という例えがいいかどうかはわからないが、友人達の存在
は私のようなひねくれ者にとってもとても貴重だ。そして、このメールを送ってきた以上、
「木毛」も私のことを友人と見とめているに違いない。

 だから、あなたの友達に、どれほど彼らのことを心に留めているかを示しましょう。

 そう、私がここにこのコラムを書いたのも、私が「木毛」のことを心に留めている証であ
る。信用するかな、木毛? 

 まあよいよい。読者のあなた、あなたが私の友人であれ、知らない人であれ、宇宙人で
あれ、なんであれ、あなたは私にとって大切な人であり、ここにこうして私のコラムを読
むために大切な「時間」を割いて頂いたことに、今週もまた感激する次第であります。

 ではでは、また来週。
 



2000.2.14.
 Bachtenor Eveski

エキタバ表紙にもどる