そのときの私と友人Sは、QY10に余暇の大半を預けていたので、そのアッパーバージョンであるQY20の発売はかなりの大事件であったように記憶しています。QY10のところに書いたとおり、結局はQY10に気分的回帰を果たしていくのですが、購入(これまた友人S)したての頃は、欠点を認めつつも、その大きめのLCD(128*64ドット、21文字*8行。ちなみにバックライトはついていません)や、シンセボイスやスィープパッド、オケヒ、リバースシンバルなど、子供心をくすぐる音色の豊富さ(ノーマルボイス100音色、ドラムボイス100音色)にすっかりまいってしまっていたわけです。

QY20のポイントはなんといってもエクスプレッションの情報が扱えるようになったことでしょう。これでアタックの遅いストリングスやパッドなどを、エクスプレッションが0の状態であらかじめ発音させておき、本来発音すべきタイミングでエクスプレッションを全開に戻すと、アタックの鋭い音に作りかえることができるわけです。あとは普通に、リリースを切ったり、フェードインやフェードアウトに使いました。
その他は、QY10とQY20はもともと仕様の似ている製品ですし、使用期間も重なっていたので、QY10で挙げたノウハウを(パンを除いて)QY20にも流用していました。ただモジュレーション(ピッチに固定でかかるのでビブラート)情報も打ち込めたのに、それはあんまり使わなかったな。なんでだろう。

QY10をさらに進化させたはずのQY20ですが、いいことずくめではありません。たとえば分解能が一挙に良くなって4分音符あたり96。これは当然歓迎すべきことなのですが、テンキーがないのでインクリメントキーとデクリメントキーだけでエディットしなくてはならないわけです。これはピッチベンドとかをゴリゴリ打ち込んでイベントエディットしまくるという心掛けには水を差しました。それにパターンの4トラックが不可分になったので、パートの差し換えで済むところを、わざわざパターンコピーして新しいパターンを登録しなくてはいけません。つまりQY20はQY10と比べると、改善されたところ(データ容量や分解能などの数量的なキャパの増大)と改悪されたところ(数値入力インターフェイスの削減)が見事にかち合った製品なのです。加えて、QY10に較べて厚味が増したことも歓迎できない点です。手の大きい人でもなければ、長時間持つと疲れます。

今聴いてみると、D/A回路のブラッシュアップの甲斐あってか、QY20の音は押し並べて小綺麗な音であったように思います。音色によってはリバーブがかかったようなものもありました。こういう言い方をすると必ず誤解するひとがいるのですが、ドラムの音色なんか、まるでミニチュアを叩いてるみたいにダイナミズムがないのです、良い意味で。いやほんとに。
ひとつの機材で曲を作ればまとまりがいいのは当然ですが、まとまり方がとてもこぢんまりとしているといった雰囲気。それが徹底的にエディットを排除した結果であることは、すぐに想像できます。この印象は恐らく、素朴な音がウリのQY10から引き続き使ったからということが大きいでしょう。QY10が素直で逞しいドーリア式なら、QY20は優美軽快なイオニア式、というわけです。

商品カタログを見てみると1992年11月の作成となっていました。それを見て結構最近だなと思うということは、機材の進歩がめざましいのか、自分が歳をとったのか。

(1998.05/29)