これも友人Sが買ったもので、ENSONIQの音源を触るのは私もSも始めてでしたから、かなり楽しみでした。その昔タイトーの『ギャラクティック・ストーム』というゲームがありまして、それにはENSONIQのチップが載っかっていた(もちろん、普通は一応自社チップが載る)というのが話題になったことがあって、シンセには詳しくなかった頃でしたが、当時ゲームセンターに通うことを日課にしていた私達にとって「エンソン」は名の知れたメーカーだったわけです。

デモが聴けないという初期不良があったものの、それまで手許にあった音源(TG300と較べるのも酷な話ですが)よりは芯のある音だったと思います。その芯というのは、私がローだと感じるよりもほんの少し上にあって、そこはちゃんと音程を判別できるところなので曲中でも前面に出る音になるんだと感じます。一方、ENSONIQを語る際によく言われる「ザラつき」に関しては、やはり浅かったのではと思います。それはASR-Xに触ってから判ったことで、ローエンドということを考えれば同価格帯の音源よりは、やはり独特の音だったのではないでしょうか。ただこの感想は最近、その当時の曲を聴き返して感じたことで、そのときは変な音というイメージを強く抱いていました。それらの感想は、元波形のクセもさることながら、ひとつのプログラムを作るのに3つのウェーブフォームを用いるという音源方式にも一因があると思います。RolandのJDやJVには4トーンでパッチを形成するシンセも多くありますが、やはり2つの波形から1音色というシンセを見慣れている目には新鮮に映ったものです。

たしかフィルターはローパスとハイパスがあってローパスは2つのPole数から選べたような気がするのですが、レゾナンスがなかったと思うんです(これ間違ってたらかなりイメージ良くないが)。その代わりレゾナンスっていうウェーブフォームがいくつかあったので、使い方によっては面白い音ができたと思います。3つの波形のうちレゾナンスだけピッチが固定された音色も作った憶えがあります。
そしてマルチウェーブとかトランスウェーブ(そりゃ最近の音源方式か)とかいう名前の奇妙な波形があったのが印象的です。なんかいろんな波形がピッチもカテゴリーも何も脈絡なく延々つながっているというもので、どういう使い方を想定して収録されたのかはまるで謎です。それでも、物は試しと使ってみたんですが、その結果、曲中のすべてのトラックを渾沌の渦に叩き込むような音だと分かりました。

昔のYAMAHAほどではないにしろ、1Uにしては押しやすい大きさのボタンでしたが、ボタンの手ごたえは強めな感触で、YAMAHAどころではありませんでした。なのにパラメータの階層を切り替えるために、Shiftか何かを押しながら上や下のボタンを押さなくてはならず、ラックということもあり、この操作性のマズさはかなりのマイナスです。アメリカ人は指が頑丈にできているに違いないと痛感したものです。

エフェクターは1系統しかなかったと思いますが、複合エフェクトなどもあるので貧弱ではありません。しかし、この一点集中なエフェクトと音源のクセから言って、マルチティンバーのわりにはマルチで使用するには適してないと思います。
一応ドラムキットもありますが、どんなものだったかあまり覚えてません。SQRを投入しても、多くの場合、当時まだ現役だったX3Rのドラムがメインだったと思います。

細かいことですが、マニュアルがバインダーっぽいものでとじられていて、真っ平にページを開いたままにしておけるのは便利です。紙の裁断面はザラザラですが、それもまたENSONIQっぽいということでしょうか。

お世辞にも扱いやすい機材とは言えません(私の知る限り、ENSONIQが本機とMR-Rack以外の1U音源を発売したことがないのもそのため?)が、ローエンドとはいえ、ENSONIQらしさの片鱗は覗かせていたし、音源としては良かったと思います。
なんか下手なフォローっぽいけど。
(1999.10/05)