7年間の空白を・・・<Chapter4>

 

 朝、目を覚ましても……眠くて仕方がなかった。
 いつも以上に重く感じる体を引きずりながら、制服に着替える。
 うー……眠いよ〜
 着替えながら3回ぐらい寝ちゃったかも………


「…ふわぁ」
 下に降りてもやっぱり眠いよ……
「ふわ…眠いよぅ」
 ちゃんと母さんと祐一に挨拶しないと……
「…おふぁようございますぅ〜」
 その後ちょっと寝てたみたい。
「…うぅ…うん」
「寝不足か?」
 祐一が呆れ顔で聞いてくる。
「…そんなことないと思うけど」
 うん…昨日はいつも通りに寝たからね。
「何時に寝たんだ?」
「んと…8時」
「それは規則正しすぎるぞ」
「…普通、だよ」
 1時ごろまで起きてるなんて信じられないよ、祐一。
「とにかく、早く食って………」
 ………………………………
「寝るなっ」
「あ…うん」
 また寝てたみたい。
「とにかく早く食え」
 そうだね、遅刻しちゃうもんね。
 母さんの作るイチゴジャムっておいしいんだよ。
 あれ?
「…祐一、ジャムつけないの?」
「あんまり甘いものは好きじゃないんだ」
 こんなにおいしいのに……
「…わたしはつけるよ、大好きだから」
 これをたべないのって絶対損だよ。
「…イチゴジャムおいしいよ〜」
 イチゴジャムをたっぷりとパンに………………………………
「寝るなっ」
「うにゅ」
 あ、また寝てた……
 イチゴジャムのたっぷりついたトースト…
 おいしそう
 それを一口齧って………………………………
「食いながら寝るなっ」
 うー…だって…
「眠くて」
 イチゴジャムの味が口の中に広がっていく。
 甘い。
 ふわふわとして……
 幸せな気分になれる。
「おいしい……」
「わたし、イチゴジャムがあったらご飯三杯は食べられるよ」
「怖いこといってないで、早く食え」
 変かなぁ……?
「祐一、もう食べたの?」
 もっと味わえばいいのに……
「食パン1枚くらい、10秒あれば食える。そろそろ行くぞ」
 そんな〜
「ちょっとだけ待って、もうすぐで食べ終わるから」
 まだイチゴジャム残ってるのに…
「却下」
「ひどいよっ、もうちょっとだけだから…」
 ねぇ、祐一お願い!
「分かったよ…。待っててやるからできるだけ急げ」
「うん。できるだけ急ぐよ」
…もぐもぐ。
…うぐうぐ。
「まだか?」
 え?
「まだ3秒しか経ってないよ…」
「分かった、俺が半分食ってやる」
「え? いいよ、自分で食べるよっ」
「遠慮するなって」
 あっという間に祐一がわたしのトーストを奪う。
「うー、ひどいよ〜」
 そしてパクパクと半分以上食べられてしまった。
「わたしのイチゴジャム〜」
 酷い…酷いよ祐一……毎朝の楽しみなのに……
「これで全部食えるだろ」
 全部自分で食べたかったよ…
「…祐一、嫌い」
 こんなことするなんて…
「…極悪人、だよ」
 食べ物の恨みは怖いんだよ……
「とにかく、急ぐぞ」
「う、うん」
「行ってきます〜」
「…お腹すいたよ」
「時間は?」
「えっと…8時7分」
「歩いてもなんとか間に合いそうだな」
「…うん」
「念のため走るか?」
「…お腹すいて走れないよ」
「…まぁいいか、時間もあるし」
「イチゴジャム…」
 こうやって、はぐらかされて……
 ついつい許してしまうあたりが……
 わたしも、変わってないんだなって思う。


「…祐一」
「ん?」
「寒いの、慣れた?」
「まだこの街に来てから3日目だぞ。そんなすぐに慣れるわけないだろ」
「でも、祐一だって昔はここに住んでたんだから」
 すぐに思い出せないものなのかなあ……
「ブランクが長すぎる」
 そんなものかな?
「うーん…」
「第一、7年前の記憶もいまいちはっきりとしないしな」
 ……思い出せないんだね……あのことも…
「歩いたら思い出すよ」
「そうか…?」
「あの時と同じ雪、同じ街並みの中を歩いたら、きっと昔のこと思い出すよ」
 思い出してよ祐一……
 思い出せないのは……
 祐一だけじゃなくて……
 忘れられた方もつらいんだよ……
「なぁ、名雪…」
「うん?」
「思い出さないとダメなのか…? 昔のことって」
 そっか…思い出したくないんだね…祐一は……
 七年前…祐一辛そうだったもんね……
 思い出したくないことがあったんだね……
 でもね…
「祐一に思い出してもらいたいって願ってる人がひとりでもいるのなら、思い出した方がいいと思うよ」
 わたしは思い出して欲しい。
 我儘かもしれない……
 でも、ちゃんとわかって欲しい……
 あの時、わたしは祐一が大好きで……
 今も大好きで……
『今』だけじゃ駄目なんだよ……
 七年分の想いを伝えたいんだよ……
 空白のままじゃ嫌なんだよ……
 ねえ、祐一……

                     to be continued...

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