INFORMAL PROMISE 3

 4.おたがいを…

朝の商店街を並んで歩く秋子と祐一。今日の天気は晴れ。太陽がやわらかく降り注いでいる。
祐一「今日のお昼は何にする予定なんです?」
秋子「そうですね…何にしましょう?」
祐一「オレ…麺類で良いです」
秋子「おうどんにします?おそばにします?それともラーメンですか?」
祐一「そばがいいと思います」
秋子「じゃあそうしましょう」
どうやら今日の昼食はそばになったようだ。

秋子「おそばは特に材料いらないですね…あとはお夕飯だけです」
祐一「晩ご飯決まってないんですか?」
秋子「ええ…なにか食べたいですか?」
祐一「オレが決めて良いんですか?」
秋子「ええ…そうしてくれると助かります」
祐一「はあ…そうなんですか」
秋子「私が先にメニューを決めていると思ったんですか?」
祐一「はい」
そう答えた瞬間、秋子さんは立ち止まる。

何事かと秋子さんを見る祐一に、
秋子「毎日のメニューを考えるのはとても大変なんですよ?」
そう言われた祐一は、
祐一「すっ…すみません…」
と謝る。
秋子「だから今日くらいは代わりに考えてくださいね?」
そう言ってにっこり微笑みながら声をかけてくる秋子さんに、
祐一「はあ…わかりました」
と答えることしかできなかった。

再び歩き出した2人。
秋子「祐一さんはなにか好きな食べ物はありませんか?」
祐一「う〜ん…そうですねえ…」
秋子「無いんですか?」
祐一「おいしいものならなんでもって感じですね」
秋子「それじゃあわからないです、お魚とお肉とお野菜どれがいいです?」
祐一「今日は肉が食べたいです」
秋子「お肉を焼いて、サラダを作りましょうか?」
祐一「いいですね、それでいきましょう」
秋子「じゃあまずはお肉屋さんですね」

肉屋で買い物を済ませてでてきた2人。その顔が心なしか赤い。
それは、肉屋の店主の一言が原因であった。

 「水瀬さんはいつ見てもお若いですね〜。おや?お隣は旦那さんですか?えっ違う?あははっ、冗談ですよ!あっ、でも若く見えるってのは冗談じゃないですよ」

それで2人そろって愛想笑いをしながらでてきたのである。正確にはそうすることしかできなかったからなのだが。

互いに何も言わず歩く。少したってから、
祐一「あの人はいつもあんな感じなんですか?」
何とか落ち着いた祐一が聞く。
秋子「え?いつもは…そんなことはおっしゃられないんですけど」
祐一「そっそうなんですか…」
再び互いに無言になる。

祐一「……つっ次は八百屋ですね!」
秋子「そうですねっ」

 「おや?水瀬さんじゃないですか。いやあ…どこの若奥さんかと思ってしまいましたよ。えっ?冗談言わないでください?いやあ…冗談じゃなく本気でそうおもっちまったんですけどねえ…」
とは、八百屋の主人の言

祐一「オレと秋子さんってそんな風に見えるんでしょうか?」
秋子「さっ…さあ、どうなんでしょう…」

それから秋子さんの顔見知りのお店の前を通るたび似たような事を言われ、家路につく頃には互いに声をかけられなくなっていた。

そして、家の前。

その門前で2人とも立ち止まり、じっと動かなくなる。2人の頭の中は混乱しつつも平静を装うために一生懸命考えていたのである。

先に動いたのは秋子さん。そのまま家の中へ入っていく。少しして、
名雪「あっ……お母さん、おひるごはん〜〜」
秋子「あら?もうこんな時間?じゃあ早速取りかからないといけないですね」
名雪「うん!ところでおひるごはんは何?」
秋子「おそばよ」
名雪「おそば?」
秋子「そう」
名雪「……めずらしいね、おそばなんて」
秋子「そうね…でも祐一さんが食べたいって言ってましたから」
名雪「そうなんだ…う〜早く作って〜」
秋子「はいはい…わかってますよ」
この会話を聞き、自分が落ち着いたことに気がついた祐一は、何気なくドアを開け帰宅した。

−昼食−

午後2時……

祐一「あれ?秋子さん、名雪はどこへいったんですか?」
秋子「お友達の美坂さんと甘味処をめぐるとか言って出かけました」
祐一「名雪らしいですね…」
秋子「そうですね……」
祐一「……」
秋子「……」
午前中の出来事がお互いの頭をよぎり、そのまま会話が止まってしまう。リビングには昼のテレビ番組の音だけが響く。互いに何も出来ずに動けないでいる。

祐一「オレ部屋に戻ってますね」
そう言ったのはその場の雰囲気に耐えられなくなったからであろう。部屋を出ようとする。
秋子「祐一さん…」
小さくささやく秋子さん。それが聞こえた祐一は、
祐一「はい?なんですか?」
と返事をする。その声が少しうわずり気味だったことに本人は気づかない。
秋子「少し出かけませんか?」
祐一「………え?どこへです?」


凍ったそれは日の光に照らされて…溶かされて…輝きを取り戻しつつあった…


2人が立っているのはとある墓石の前。秋子さんが花を供える。

祐一「水瀬…、ひょっとして?」
秋子「そうです、私の…」
そこは水瀬秋子の前夫の墓。最初に愛した男の墓。
祐一「そうですか…でもどうして…」
秋子「7年です…」
祐一「7年?」
そう聞いてきた祐一、彼女は彼を振り返りながら言う。
秋子「7年待ちました…そして思ったとおりになりました」
彼女は、彼を見つめながら言う。
祐一「すみません、話がわかりません」
彼に背を向ける彼女。
秋子「覚えていないですか?」
祐一「覚えていない?」
秋子「ええ」
風は無く。やわらかに日の光が2人を照らしている。

沈黙が続く…そして、その瞬間だけ日の光が強くなったように思えた。

祐一「朝の夢?あれ?」
彼の言葉に彼女が再び振り返る。
秋子「覚えていましたね?」
祐一「………」
彼は少しの驚きを顔に出しながら固まっていた。
秋子「………祐一さん?」
彼は動かない。
秋子「祐一さん?大丈夫ですか?」
祐一「……え?あっ?はあ…大丈夫だと思います」
秋子「そうですか」
少し安心したような表情を見せる彼女。
祐一「秋子さん…よく覚えていましたね」
秋子「ふふっ…思い出したのは今日です」
祐一「ここへはどうして?」
秋子「ここで交わした約束です、叶わせるとしても…忘れるにしても……ここから始めるべきだと思ったからです」
祐一「そうですね」
秋子「じゃあ…いいですね?」
祐一「はい」

ついさっきまではお互いがお互いの方を向いていただけだった。2人とも居ずまいを正し、顔を上げる。ついさっきとは違い、彼らは向かい合って、互いを見つめる。そして…”誓い”が始まる。

秋子「祐一さん…約束を覚えていますか?」
祐一「はい」
秋子「今でも気持ちは変わりませんか?」
祐一「…………」
秋子「…………」
祐一「…………」
秋子「…………」
祐一「……はい、変わりません」

祐一「秋子さん、約束覚えてますか?」
秋子「はい」
祐一「まだまだ子供の部分もありますが…やっとこの年になりました、返事をくれませんか?」
秋子「はい」
祐一「…………」
秋子「もし迷惑でないのでしたら、私と一緒にいてください」


そして、凍っていたそれは溶かされて、太陽の光を受け優しく輝きだした。



2人が家に着いたのは空が暗くなった頃。家にはいると……
名雪「あ〜!!お母さん!!どこ行ってたの〜〜」
秋子「あらあら…どうしたの?」
名雪「帰ってきたら誰もいないし…晩ご飯作ろうにもおかず何かわからないし…作っても1人で食べるのやだし…待ってたらこんな時間になっちゃったし…」
秋子「ごめんなさいね…ちょっといろいろあってね。今から急いで作るから待ってくれない?」
そう言って台所へ向かう秋子さん。

名雪「うん…早くしてね…」
おなかをすかせた子猫のようにつぶやく名雪。祐一は靴を脱ぎ、名雪の横を通りリビングへ向かおうとしたが、
名雪「あれ?」
と声をあげられては聞かないわけにはいかない。
祐一「どうしたんだ?」
名雪「祐一からお母さんの香水のにおいがする…なんで?」
祐一「さあ?」
名雪「あれ?祐一…口紅付いてない?」
祐一「!!……どっどこにだ?」
名雪「唇だよ〜」
祐一「気のせいだろう…」
名雪「そうかな……う〜ん…」
じっと自分を見てくる名雪にびくびくしながら、どうごまかそうかと考えていたが…

秋子「名雪、お料理手伝ってくれない?」

との一言で名雪はあっさりと台所へ行ってしまった。どうやら夕飯の方が大事なようである。
良いタイミングで声をかけてくれた秋子さんに感謝する祐一。そして、一度ため息をもらしリビングへ向かう。そのため息から、今彼が本当に幸せであることがひしひしと感じられた。

そした、その彼の心には…墓の前で誓った言葉が浮かんでいた。

「あなたが守るはずだったものをオレが守っていきます。だから…許してください。秋子さんを泣かせることはしません。名雪がいつも笑っていられるように支えます。だから…秋子さんをオレにください……」


………vol4へ

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どうも・・・やっとできました・・・vol3・・・
シナリオ的にかなりむちゃくちゃになってます。改訂が必要かも(^^;;
 vol4は、原案はできてます。これから打っていくつもりです。
今回はこれで・・・

 私のSSを楽しみにしてくださっていた方々、
 またHP管理者のaquaさんに感謝して…

      2000 1/19                 時の孤児 拝
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