舞−希望と言う名の力

 

『私のせいで……また佐祐理は傷付いた』
『そして自分だけが……』
『…こうしてのうのうと傷付かずにいる』

「もう終わったんだよ、戦いは」
 祐一はそう言った。
 魔物は私の力だと祐一は言った。
 それは、わかる。
 でも、だからこそ、断ち切らなければならない。
 独り歩きしているこの力を。
 この力で母さんを傷つけた。
 佐祐理を傷つけた。
 祐一を傷つけた。
 この力は忌むべき力。
 こんなもの持ってるから、
「あの日の男の子は…みんなと同じように私から逃げた」
 そう、祐一は逃げた。
「違う。舞、違うんだ」
 あれは本当の別れだと祐一は言った。
 そして再び出会ったのだと……
 だから一緒にいようと……
 ずっとそばにいると言ってくれた。
『わからないことがあったら、俺がいつも隣にいて教えてやる』
『泣きたくなったら泣けばいい』
『そうしたら俺が慰めてやる』
『道端だったら、泣きやむまで隣に立って待ってやる』
『ご飯中だったら、俺も食べるのをやめて舞と話をしてやる』
『寝る時も、お前のそばにいる』
『泣き声が聞こえたら、すぐに起きて、温かいものを入れてやる』
『俺の知らないところになんて、舞は行かせない』
『舞は俺のずっとそばにいさせる』
 言葉の一つ一つが嬉しくて、
 本当に嬉しくて………
 でも、私の力は確かにここにあって、
 それが祐一や佐祐理を傷つけてしまうかもしれない。
 それが怖くて、
 嫌で、
 どうにも出来ない自分が嫌で、
「祐一のことは好きだから」
「いつまでもずっと好きだから」
 だから、私は……
 もう傷つけたくないから、
「ずっと私の思い出が…」
「佐祐理や、祐一と共にありますように」
 力もろとも消えてしまって、思い出の中に生きようと思った。
 そうすれば誰も傷付かないと思って……
 自分の腹部を貫いた。

 こうして終わると思ってた。
 これで幸せになれると、みんな幸せになれると思ってた。
 でも、祐一は泣いていた。
 でももう私にはどうすることも出来ない。
 悲しみの中にいる祐一を救えない。
 また、傷つけてしまった。
 でも、あの力があれば、祈りを叶える力があれば……
 私は初めて力を受け入れた………

 そして時を遡り、10年前のあの日……
 全てを元に戻すのはまいにとって造作もないことだった。
 でもそれでは舞が祐一と出会い、別れ、佐祐理と会って、祐一と再会した、あの日々さえも無に帰してしまう。
 だから……
 約束をするように祐一に言った。
 未来のまい、力を受け入れた舞のそばにいると、
 全てを受け入れると……
 そう約束するように……
 そうすればもう力が独りあるすることはないから…
 そして祐一はそれを受け入れる。

 自らを檻に閉じ込めた少女は再び邂逅の時を迎え、檻を抜け出し自らの全てを受け入れる。希望という力を持って。

(もうすぐくるよ)
 そう『力』が言っていた。
「くるね」
 あたしは答えた。
 そして、私たちは、私たちを受け入れてくれる人を迎える。

 もう私は不安じゃなかった。
 この力で人を傷つける心配なんてない。
 この力は私の中にあるから、
 もう独り歩きしないから、
 そして、遠い日の約束があるから…………

『ずっと舞のそばに居るよ』
 私の全てを受け入れてくれた祐一との遠い日の約束……
              *
              *
「おい、これはなんだよ舞」
「朝ご飯」
 テーブルの上に並ぶ黒焦げになった判別不可能な料理。
「あははーーっ」
 佐祐理は苦笑している。
 舞と佐祐理が卒業してほどなく三人はマンションの一室で共に暮らすようになった。
「仕方ない…俺が作る」
 ぼかっ。
「いて、舞何するんだよ」
「食べられる…」
「どこが?」
「卵焼きのこの辺………」
 真っ黒だった。
「……わかったよ。食べよう」
 ごく普通のありふれた生活。
 それは、舞には初めて見る日常。
 10年の時を超え舞は檻の中から一歩、また一歩と歩み始める。
「あ、祐一さん時間大丈夫ですか?」
 まだ高校に通っている祐一は時計を見上げる。
「あ、やばい遅刻する!」
 慌てて立ち上がる祐一の腕を舞が掴む。
「まだ、食べ終わってない…」
「そんなこと言ってる場合か!」
「あはははーっ。舞、祐一さんを困らせたら駄目ですよ」
 
 舞の凍りついた時間はまだ動き出したばかり。
 希望という名の力に導かれ、
 物知らずな物語のヒロインは歩き始める。
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 舞編は難しいです。(^^;)
 書いていて自分でもこんがらがってきました(おい)
 僕なりの解釈です。
 感想、批判、なんでもOKです。コメントお願いします。
 多属性のエコノミー5でした。
 希望は奇跡の種。
 皆さんの希望が花開きますように…… 

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