栞は気付いているのだろうか?
 最近あたしが見舞いに行く回数が減ったことを………



            




             ジングルベルは聞こえない<第3章>











 春が終わり……暑い夏の季節が訪れる……
 日焼けは肌に悪いから……
 出来るだけ焼けないように努力はしたけれども…
 どうしても、少しは焼けてしまう。
 こんな姿で栞に会いに行くのが嫌だった……
 健康的に動き回ることの出来る自分が悔しかった……

 病院はデパートなどとは違って寒いくらいまでクーラーを強くしたりしないから少しだけ暑かった。
 いつものように病棟に行き、エレベーターで上って、廊下を歩いて、病室の前に立つ。
『美坂 栞』と書かれた病室の前に立って……
 そこで、大きく深呼吸する……
 こうしてあたしは、嘘つきになる……
 真実を隠し、自分の心を偽り、栞を騙す道化になる……
 扉をゆっくりと開けて、病室に入る。
「あ、お姉ちゃん」
 絵でも書いていたのだろうか……
 スケッチブックをパタンと閉じて栞がにっこりと笑う。
 夏だというのに栞の肌は白い……雪のように白い……
 病的な白さとは言わない…それは、皮肉でしかないから……
「相変わらず暑いわね……」
 汗ばむような陽気が…肌を焼く太陽が…病室の窓から差し込んでいる。
「そうだね。私もたまに外に出て散歩することがあるけど……汗かいてすぐに着替えちゃうの」
 たまに、病院のなかの緑地に出ることが許されることがあるのはあたしも知っている。
 そこで、栞は何をしているのだろうか?
 同年代の友人もいないこの病院で……
 たった一人で……
 なにが楽しめると言うのだろうか……
「お姉ちゃん…ちょっと焼けたね」
「え?」
「ちょっと、日焼けしたね」
 健康さの証明……
 自由に外にいられることの証明……
 それが日焼け……
 栞には当てられないものの証明でもある。
「ええ」
「私も、外に出るけど…あんまり焼けない体質みたい……」
 あはは、と笑いながら栞。
 外に出ることが許されるのはそう長いはずが無いから、
焼こうにも焼けるはずがない。
 体質…と言ったのは栞の気遣いなのだろうか?
「そんなの、肌を痛めるだけよ。日焼けは将来しみになるんだから」
「そうだね……あ、そうだお姉ちゃん。時間ある?」
「え? あるわよ」
「それじゃあ、モデルになってよ……
 病院じゃ看護婦さんにモデルになってもらうわけにもいかないから
 人の絵、書いてないんだ…」
 栞の絵ははっきり言って下手くそだ。
 何度かモデルになったけれどもどう頑張ってみても自分がモデルだとわからない。
「いいわよ」
 でも……栞が満足ならばそれでいい………
「じゃあ、そこに座って」
 栞に言われるままベッドの横の椅子に座る。
「動かないでね」
「ええ」
 栞は嬉しそうだった。
 後何回この笑顔を見ることが出来るのだろう。
 後何回話す事ができるのだろう。
 目の前にいるはずの栞が……
 下手くそな絵を描いている栞が……
 あたしを見つめながら唸る栞が……
 消えるのはいつのことだろうか……
 栞を見て思うのはいつもそんなことばかりだ……
 会うのが辛い。
 話すのが辛い。
 笑うのが辛い。
 後どれだけ押し隠せばいいのだろう?
 後どれだけ傷つけばいいのだろう?

 栞の病室を出たところでやっとあたしはあたしになる……
 ここにいるのは弱いあたし……
 気持ちを隠す必要の無いあたし……
 こみ上げる感情を抑えられないあたし……
 病院を抜け出したところで限界がやってきた。
「……っ…!」
 あたしは走った…逃げるように……
 栞から……
 悲しい事実から……
 逃げるように……
 込み上げる涙を止めることは出来ない。
 涙で視界がぼやけて前が見えない。
 でも、そんなことはもうどうでもよかった……
 ただ、悲しくて…辛くて………
 どうしようもない自分が悔しかった。

 
               to be continued...
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 どうでしたでしょうか?
 久しぶりにSSを書きます5日ぶりですね…忙しかったから……(笑)
 感想待ってます。
 では、ばーははーい!

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