転職失敗記その15

急展開の年末(下)

「現在の状態は、当社始まって以来の危機です。非常に残念なことです」
社長は、淡々と話を続ける。
「…ですから、たいへん残念なことですが、
私は今日でE社をやめます。会社をたたみます

言った、言ったよ。はったりを。

私は、みんな嘘だと知っているのかも、と思って他の人の顔をちらりと見た。が、他の社員の顔はますます 青ざめていくばかりだ。
社長の話はつづく。
「十数年間私はE社をやってきたわけだけども、その間にいろいろ変わってきた。 俺がいくら朝礼で言っても、必要な書類は出さない、報告はしない。服装についてもそうです。…」
ぐちがぐちぐちと続く。まるで中学校の朝礼だ。
「こういう社員と一緒ではとうてい現在のような状況の会社をたてなおして、続けられない。だから、E社をやめます。
私は明日、明後日と一応会社におりますから、話のあるものはその時に来るように。以上です」

社長の「以上です」で今年最後の会議が終わり、今年の仕事は終わりとなった。


社長が去った会議スペースで、社員が顔を見合わせる。
「…本当にやめるの?」
「まさか」
「おれたちに謝れってことだろう」
チーフクラスのBさんは姿が見えない。社長のところへ行ったようだ。
「おれさぁ、別な会社探すことにするよ。もうあの社長の下は嫌だ
一番長くE社にいるTさんが言う。ついに、Tさんもいなくなるのか。
「俺も。もうやってらんないよ」とDさん。
「どうしよう…○○さんはどうするの?」と女子社員のRさんに言われて、 私は答えた。
「私、この会社はある人に紹介してもらって、来たんだけど、その人にちょっと相談してみるよ…」
でも、ここで「社長の話はハッタリだ」と言えない自分の卑怯さが嫌だった。

いままでの数々のうわさ、居つかない社員、そして今日のように堂々と社員に嘘をつく社長。 いくら仕事にやりがいがあっても、こんな会社は居ても無駄だ。
私は今日の出来事でそう確信した。
だが早とちりかもしれないし、私が世の中を、そしてこの業界を知らないだけかもしれない。まずはこの状況をいろいろな人に相談してみようと思った。
私はメールを書いた。
「ご相談したいことがあります。お時間を作っていただけないでしょうか?」
宛先は、P社のYさんである。

今日でたたむという会社の入り口に、鏡もちと松飾りが飾られた。嘘が丸見えだ。

毎年、「よいお年を」と声をかけあって退社したT社の年末を思い出した。
「よいお年を」なんて、なんの気もせず言っていたけど、 「よいお年を」って言う気になれないこともあるんだな。
何も言えずただ「お疲れさま」と言ってE社を出た。

年末年始休み中は、親、学校の友達、いろいろな人に相談をした。
P社のYさんから返事が来た。忙しいYさんだが、快く承知してくださり、年が明けてから会ってもらうことになった。

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