第七話(5月20日放送)

山本るりか
〜中部戦線異状あり!〜

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
吉永尚之
西山明樹彦
山元浩

ストーリー

第七話 山本るりか 〜中部戦線異状あり!

小学校6年生の春 回想

朝。
山本家の前を小学生が通る。登校の時間。
「やーまもーとくーん」
るりかの兄を呼ぶ声。友達のようだ。「おーう」と答える兄の昌宏。
妹は、と訊く友達に、
「まだなおらんのだと」
と一言。
るりかは、ベッドで横になっていた。
(またズルしちゃった……。もう三日目……)

三日前。
授業が終わり、生徒が教室から飛び出してくる。
そんな中、日直は授業で使ったアンモナイトを戻すことを教師に言い渡された。
その日の日直はるりかと少年。
るりかはついそのことを忘れ、帰ろうとしていた矢先、友達に言われて思い出したのだった。

「ごめん、ごめんねっ」
アンモナイトの入った段ボールを持つ少年にそう言い、横に並んで歩く。
「ううん、チャッチャとやって、帰ろ」
「チャッチャとねっ! もうすっかり名古屋弁だねっ!」
日本シリーズでGが負けるの見ないといかんで、とさりげなくジョークをこぼし、
少年の持っていた段ボールをとって走るるりか。
「ほら、はよしぃやっ!」
そう言いながら、教材の保管庫のドアを開け、中に入ろうとするるりか。

――刹那。
るりかはドアの前でつまづいた。
「……えっ!?」
転ぶるりか。
――そして、目の前には段ボールの中からこぼれ落ち、割れてしまったアンモナイト。
「あぁ〜!」
絶望の表情でアンモナイトを見つめるるりか。
「どうしよう……。これ、中津川で発掘した、みんなの思い出なのに……。みんな、怒るよね……。 !!……ハバにされちゃうかも……」
「ハバって、仲間外れのことだよね……?」
夕暮れで、絶望したまま俯くるりか。
「……大丈夫だよ」
「……えっ?」
「一緒に誤ろう」

(一緒に、誤ろう……。明日こそ、行かなきゃ……)
これがるりかの三日連続の仮病の原因だった。

次の日、雨。
(バレてないよね、まだ……)

「転校!? うそぉ、どうして急に……」
「ちょっと前に決まったらしいんだけど、なかなか、言えんかったんだって」
「割り逃げ野郎の話しとんのか」
「……え!?」
「あいつ、化石割って居ずらなったで逃げたんだに、絶対」
「そんなわけないがぁん」
どうやら少年はるりかが居ない間に、誤っていたらしかった。
しかも、「一人で運んでいて、落とした」と。
それを聞き、るりかは
「そんなはずないよ!」
「……どうしてぇ?」
「どうしてってこと、ないけど……」

その日の夕方、教材保管庫にまたやってきた。
(ごめんね……、あたし、恐くて……。本当のこと言えなかった……。一緒に誤ろうって言ったのに……。あたし、ウソつきだ……)

――それから6年。あたしは、ウソをつかない子になりたいと、思い続けて生きてきた――

「行ってきまぁす!」
元気に玄関を飛び出するりか。
すると家の窓から兄の昌宏が顔を出す。
るりかにそっくりの顔。後ろ髪を結んでいるところしか違いは見受けられない。
「おい! オレの代わりなんだでな、ドジこいて迷惑かけんなよっ!」
「それがデートに供えて美容院に行く兄貴のために、コホッ! コホッ! バイト代わったげる妹に言う言葉ぁ?」
「感謝は感謝し、心配は心配だて」
「そういう態度なら、みんなに彼女と何処までいっとるか、バラしちゃうからねっ!」
慌ててやめろ、と言う昌宏。
笑いながら、るりかは走り去っていった。

ピッ、ピッ。
るりかがコンビニでバイトをしていると、自動ドアの向こうからこちらを見つめている女の子がいる。
るりかはそれに気付いているらしく、何度もそちらに目を送っていた。知らない人だ。
(何だろあれ、やだなぁ……。何か危ない人じゃないよね……)
考えていると、また咳がでる。風邪気味のようだった。
「982円になります、有り難うございましたー」
レジを終わり、出ていく客。
その時、その女の子が急に中に走りこんできて、レジのるりかの前で止まった。
あまりの衝撃にビビるるりか。真剣な表情の女の子。
「あの、山本さんですよねっ?」
脅えて声も出ないるりか。
「あの、これ、読んでくださいっ!」
バンッと、レジのカウンターに手紙をたたきつけ、そのままその女の子はまた走り去っていった。
呆然とするるりか。
手紙を見ると、ハートマークのシール。
「ウソ、だよね……?」
手紙を裏返すと、そこには「山本昌宏さんへ」の文字が――

「ああ、おったおったぁ。眼鏡の子やろぉ」
夜、昌宏は思いだしたように言う。
以前、昌宏が名古屋ドームでバイトをしていたとき。
打者の打ったボールがその女の子の頭上に襲いかかり、危ないところを、昌宏が寸前の所でキャッチして助けたのだった。
どうやらその行動で女の子は一目惚れしてしまったらしかった。

「コホッ、コホッ! まさか、それでOKしたわけ? その、今中香住ちゃんに」
「まあ、可愛かったし……」

そのとき香住は、昌宏に電話番号の小さな紙を渡した。
昌宏は「電話するよ、絶対」と言って、別れたのだった。

「じゃあ何で、今、別の彼女がおるの?」
「それが、その紙……。試合の盛り上がりでワヤクチャになってしもて……」
満塁サヨナラホームランを打ったときの、演出の紙吹雪のようなものに紛れてしまったのだった――
「それでどっかに落としたわけ?」
「うん……。まあ、縁がなかったと思って……」
「あんた、こないだテレビにうつったでしょう? あのコンビニでバイトしてるトコ」
「は? あ、ああ……」
「それ見て東京から出て来ちゃったらしいよ。電話下さいって、ホテルに!」
「ええ!? 今オレ彼女おるし……」
「だで言いなさいよきちっとぉ」
ウソついたらいかん、と言って、手元にあった携帯電話からそのホテルに電話をする。
昌宏が抵抗するも、ベランダに飛び出するりか。
昌宏が必死に開けようとするも、るりかは窓に背を向けたまましっかり押さえている。
その間に香住を呼び出するりか。
やばいと感じたのか昌宏は、
「オレはウソついとらんぞ……」
と言い残し、その場から逃げ去った。

「もしもし?」
香住が電話に出た。
後ろを振り返るるりか。しかしその部屋には昌宏の姿は、なかった……。
慌てて昌宏を追おうとしたが、しっかりと窓にカギがかかっていて、出られない。
「もしもし? もしもし……?」
ハッとして、仕方なくるりか自身が電話に出る。
「も、もしもし? 山本、ですけど……」
必死にオトコ声を作る。
「山本さんですかぁ? わぁ、かかってくるとは思わなかったから、すっごくうれしいです! 感激です!」
「え、いや、あ、あの……」
「声変わりました?」
「あ、て、ていうか、コホッ、コホッ!」
「風邪ですか?」
心配そうに言う香住。
「治りかけだから……」
そうですか、と言い、安心する香住。
(それよりも……)

「……実は私、明後日から手術でアメリカに行くんです」
「えっ!?」
もう遭えないかも知れないと思った香住は、一日でも思い出が作りたいと考え、大胆にも名古屋にやってきて、あんなコトをしたのだった。
「そうだったんだ……」
「でも、山本さん、絶対、もう付き合ってる人、いますよね?」
痛いところを突かれ、動揺するるりか。
「いえ、気にしないで下さい……。電話できただけでも感謝してます。じゃ……」
そう言い、香住は電話を切ろうとすると、
「待ってっ!」
「……はい?」
「一日、だけなら……」
「いいんですか!? やった〜!!」
あまりのうれしさに叫ぶ香住。
「じゃあ、明日10時に、えっと、ナナちゃん人形ってなののトコでいいですか?」
「え、うん……」
「じゃあ、逢えるの楽しみにしてますっ! おやすみなさい」
そう言い、香住は電話をきった。
(ああ、めっちゃんこヤバい……、兄貴、明日、デートだ……)

次の日。
男に見えるように必死にメイクをするるりか。
「……よしっ!」
「タケか、お前? ホントにええんか、それで?」
昌宏が言う。
「だって、しょうがないじゃん……」
「オレ、途中で一瞬入れ替わるぐらいは出来るぞ」
「え?」
「途中までつないどけよ、オレの代理として」
そう言い、髪を結ぶゴムを渡す昌宏。
「昌宏……」
「ウソつくのやなくせに、ったく……」
微笑を浮かべ、昌宏は言った――

待ち合わせ場所。
そこにはしっかりと、香住が待っていた。
「おはようございます!」
ぺこりとお辞儀をして言う香住。
「一瞬、ホントの女の子に見えちゃいましたよ……」
「っえ?」
動揺するるりか。当然だ。ホントに女の子なのだから。
「私、ホントに山本さんとデートしちゃうんだ……。何か、今になってメチャクチャどきどきしてきました……」

(や、やめてよ……。そんな幸せそうな笑顔されたら……)

−CM−

遊園地。
楽しそうに遊園地を回る二人。

観覧車。
「うわぁ、凄いですねっ! 名古屋ドームはどっちに見えるのかな?」
「やっぱ、ドラファンなんだよね?」
「ドームは結構行ってます?」
「わりとね」
「彼女と、ですか……?」
「いや、彼女は、いないから……」
「ホントですか!?」
「ホントだって……」
(あたしには、彼女、いないもんね……)
「そっか……」
嬉しそうに笑う香住。

その時、一緒に乗っていた目の前のカップルが手をつないでいるのを見た香住は、大胆にもるりかに手をつないでもいいですかか、と訊く。
(手ぐらいなら、いっか……)
そう言って、手を香住の手の上に載せる。
(これが、最後かもしんないんだもんね……)

手をつなぎながら歩く二人。
「次はあれがいいな」
香住はそう言って、「ICE WORLD」という看板を指差した。
中は一面氷の世界。
ペンギン、アザラシなんかもいる。
「うわぁ、寒い……」
「マイナス34度だもんね……」

(いっか〜ん! どんどんそれらしい展開になってるぅ〜!)

外に出て歩く二人。
「何か、冷えちゃったら……」
「私もです」
そう言い、トイレへとすすむ二人。
「あ、やだ、山本さんはあっちですよ」
と言い、男子トイレを指差す。
――ピンチ。

「あ、はははは……。そだね、オレ、男だもんね、んじゃ、行ってきまぁす」
(しょうがない、時間差つけて、入りなおそっと……。ええ!?)
女子トイレから出てくる香住。早すぎる。
「ど、どしたの?」
「混んでたから、やめました……。山本さんは?」
「あ、こっちも、、混んでて……」
タイミング悪く、トイレから出てきた男が、彼女と思われる女の子に「ガラガラだった」と一言。
動揺するるりか。
「あ、あは、空いてた、みたいだね……」
「どうぞ、あたし待ってますから」
「そ、そう、じゃあ……」
(こうなったら、入るしかない……。なるべく下を向いて……。るりか、ダッシュだ!)
覚悟を決め、男子トイレへとはいるのだった――

(何であたしがこんな目に……。ウソを付いたから……? ウソを……)
ベンチで呆然としていると、目の前にアイスクリームが2つ。
「はいっ! どっちがいいですか?」
ちょっと驚きながらも、笑顔を作ってアイスを受け取るるりか。
「やったね!」
「え?」
「何となくそっちかなって、思ったんです」
「すごいじゃんっ。いっつもコレなんだ、実は」
「えへへっ。また一歩、山本さんに近づいちゃった……」
顔を朱らめて香住は言う。
そんな笑顔を見て、るりかは辛い表情になる。
(こんなに元気そうなのに……。明日はアメリカで手術なんて……)
「美味しいですよね、ここのって」
るりかは決心したかのように、香住の肩に手を回した。
「えっ……」
「行こうか、水族館」
「はいっ」

水族館に向かって走る二人。とびきりの笑顔。
ところが、入場券を買う際。
高校生料金の証明のため、学生証を受付に見せることになり、るりかは自分の学生証を慌てて出しそうになる。
(あ、だめだ……。これはあたしであって、あたしじゃないんだ……。もし香住ちゃんに見られたら……)
「お、大人1枚と、高校生1枚」
そう言って入場券を購入する。
「まいったなぁ、生徒手帳忘れるなんて……」
笑いながら振り返ると、香住は目の前の海を見ていた。
「あ、山本さんっ! あれなんですか、あれ?」
海には名古屋名物(?)のシャチ丸が航行していた。
すごいすごい、都喜ぶ香住。名古屋人に言わせれば、恥ずかしいらしいが。
「ちょっと乗ってみたいですっ。」
「えぇ? また今度ね、また今度っ」
その言葉に反応する香住。
「ありでいいですか……? また今度……」
(香住ちゃん……)
沈黙。
「あ〜っ! もう2時半! 水族館水族館!」
そう言って香住は自分から沈黙を破り、入り口に向かって走り出す。
「え、2時半!?」
るりかは慌ててポーチから携帯電話を取り出す。電源が切れている。
(あっちゃ〜……)

その頃昌宏は、入れ替わると約束していた待ち合わせの場所でずっと待っていた。
「ったくアイツ、何やっとんだ……」
すると自分の携帯電話が鳴り出す。
「もしもし?」
怒った声の昌宏。相手はもちろん、るりかだ。
「おまえなぁ、オレ彼女にトイレ行く言うて待たせたままなんだぞ?」
「ごめ〜ん、何か知らんけど、ラブラブファイヤーで……」
香住に聴こえないよう、小声で話するりか。
「はぁ? 何でそうなるんだ?」
「入れ替わる、暇もうないでしょ……? あたし、なんとかするわ」
そう言ってるりかは電話をきった。
呆気にとられる昌宏――

なんとか電話の件をごまかし、水族館へ入場するるりかと香住。
「香住ちゃん、こっちだよっ!」
後ろを向きながら小走りで走るるりか。
――その時。
「うわっ!」
水族館の館内案内のポール看板(?)にぶつかり、転んでしまう。
「! 山本さんっ!」
ポーチが手から放れ、地面に落ちる。ジッパーを閉め忘れていたため、中のものが飛び出す。
――もちろん、生徒手帳も。
「う……。! あ……」
起きあがり、目の前を見ると、そこには巨大なアンモナイトが。
呆然とそれを見つめるるりか……。

「大丈夫ですか……?」
香住が近寄ってくる。
「あ、あぁ……」
「良かった、なんか放心状態だったから……」
拾ったポーチを手渡しながら言った。
「あ、ありがとう……」
「じゃ、行きましょうかっ」
そう言って、香住は前を歩きだした。
(あたし……何をしてるんだろう……)

(ウソはやだって、思ってきたハズなのに……。あたしはずっと、香住ちゃんの前でウソを付き続けてる……)
(もう逢えないかもって、その一言に動かされて、ここまで来ちゃった……。また今度は、絶対来ないワケじゃないのに)
笑顔でるりかを呼ぶ香住。
それを見ると、更にるりかは胸が痛むのだった。

夕暮れ。
「今日はホントにありがとうございました……。これで心置きなく、アメリカに行けます」
香住はそう言ってるりかと握手をする。
「もう一つだけ、ワガママしてもいいですか……?
「え……?」
香住はそう言って、るりかに、キスをした。
呆然とするるりか。顔を朱らめる香住。
「ファーストキスは、あなたにしたかったから……。じゃっ」
去ろうとした香住を、るりかは引き止めた。
「えっ……?」
るりかは決心した。
「ん、んんっ! ごめん、びっくりするかも知れないけど、あたし、本当は……」
「双子の妹の、るりかさん、ですよねっ」
「え、ど、どうして、それを……?」
「転んだとき、バッグの中の、生徒手帳が、見えましたから……」
最初に手を握ったときから、香住は変だとは思っていたらしかった。
「でも、楽しかったからいいやと思って。バーチャル昌宏さん体験かなっ。ふふっ」
「実は私も一つ、ごめんなさいがあって」
「え……?」
「手術でアメリカに行くのはホントなんですけど、私が受けるんじゃじゃないんです」
「えっ!?」
「叔父が、ペンシルバニア大学で、医学を教えてて、私、看護婦目指してるから、お世話になりに行くんです。それを、ウソにならない程度に、同情するような言い回しして……。ごめんなさいっ」
るりかは呆気にとられ、ポーチを落とし、がっくりひざをついた……。
「あはは……はははは……もうやだぁ」
「フフ……フフフ……」
二人は笑いあった――

その夜。ベランダ。
「何だってそれ? そんなのありか?」
「知らんけど……まぁ、面白かった」
「おまえに心で誓われたあいつ。あきれとるぞ、きっと」
そういって昌宏は部屋へと入っていった。

――ごめんなさい……。これで何度目のごめんなさいなんだろう……。どうして、人って、本当だけで生きていけないんだろう。あなたとなら、それが出来るかしら……。今日の反省でした。山本るりか、まるっ!――

−EDテーマ−

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