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その11 そして、上司に交渉

 ようやくWebデザインという仕事が世間でメジャーになってきて、亜弥さんの仕事も増えたせいか、 なんと、インターネット課にもう一人Webデザイン担当が来たのです。ただし外注さん。またも「なんで私じゃないの!?」と悔しくなりました。そのころには、WebデザイナーはSEの仕事じゃない、給料の安いデザイナー出身の外注にやらせろという認識が広まっていました。
 なんだか、私の状況はどんどん悪くなります。もう黙っていられない。半年ごとの面 談じゃ遅い。カオリさんだってあの、最悪な上村部長と交渉したんだ、私だって!

 私は石田課長と個人的に話して希望を伝えようと思いました。
 しかし、一体どうしたらいいんでしょう? 例えば男性社員なら。お昼を一緒に食べながら、話題のきっかけを作ることもできるでしょう。 でも私が「石田課長、今日は一緒にお昼を…」なんて怪しすぎます。それにサラリーマン 唯一の休息の時であるお昼に仕事の話なんてしたくない。 かといって、他の社員がたくさんいる課長席の前で、「おりいってお話があるのですが」 なんてことも言えません。
 しかたなく、石田課長がさりげなく一人になる瞬間を待ちます。 あ、喫煙室に入った、今だ!と後を追い掛けると、「石田課長、お電話でーす」なんて声がかかる。 トイレから出てくるところを待ち伏せしても、別の社員が一緒だったりする。 しかも課長にもなると、ほとんど社内にいないものです。客先や別の事業所など打ち合わせで 飛び回ってばかり。戻ってくれば大量の書類の事務処理に追われ、すぐまた出ていきます。 なんだかラブレターを渡す女子高生のようだ、と気付いて馬鹿らしくなってきました。

 ふと気付きました。そうです。こういうときのために、電子メールがあるのではないですか! 私は石田課長にメールを書きました。
「御相談したいことがあります。

ご都合の良い日を教えていただけないでしょうか。」

たしか管理職用のMLで会議の議事録など流れているので、メールチェックは管理職の義務なはずです。きっと読んで、反応してくれる。
 毎日返事が来るのを待ちました。一週間、10日。それでも課長は 反応なし。私はしびれをきらして、「メール送りました。読んでいただけましたでしょうか?」と電話メモに書いて 課長席に貼りました。 しかし、それを見ても課長はなんの反応もない。無視されてるの?
  ついに、事務処理で忙しい課長に直接、 小さい声で「あの…メール読んでいただけましたか?」と尋ねました。 石田課長はニコニコして、
「ああ、メール読んだよ。読んだ読んだ。だけどね、いつもたくさん来るから、すぐに 消しちゃうからね。うっかり操作間違って、 なんか変な画面にいっちゃって、消えちゃったんだよ
拍子抜けしました…消しちゃだめだよ、課長。それになんで黙っているんだよ〜。

 やっと話し合いの時間の約束を取り付けることができました。 口下手で人と話すと極端に緊張してしまう私が、どれだけ課長に話せるか、不安ではありました。 でも、この一歩を進めないと、なにも変わらないのは確かですから。
 シーンと静まり返った会議室で石田課長と二人。私は既に緊張しまくってます。椅子に座った課長は、 「…もう、我慢ができなくなったのか?限界か?」 と話を切り出しました。どうやら私が不満を持っていることはうすうすわかっていたようです。
  私はまず、今の開発の問題点を話しました。8ヶ月くらいのはずのプロジェクトが1年以上続いていること、 当初想定していなかった困難が非常に多かったこと、見積もり範囲外の機能追加も、森川さんは二つ返事で 引き受け、その負担が私に来ること…などです。
「そうか、そんなに大変だったのかぁ」
予想はしていましたが、石田課長はこのプロジェクトがこんなに問題を抱えていることを全く知りませんでした。 というのも、課内はいくつかの班に分かれていて、森川先輩の上には班のチーフがいます。プロジェクトの詳細は実質チーフにまかされていたから、チーフが課長になにも言わなければ課長はうまくいっているものだと思うわけ。
「○○さんと森川君があまり合わない、ってことはないかな?」
「いえ、それはないです。私が不満なのは仕事についてだけです」
 自分は一年以上もこの開発しかやっていない。VBのバージョンも上がりOSもWindows95になったのに、 いまやひと昔前となってしまったシステムの開発をしていてはスキルがちっとも付かない。 自分は自力でUNIXを勉強した。インターネット関連のことも 自分にはできると思うし、デザインも前から社内ネットワークのスタッフをやったり、自分の ホームページを作ったりして勉強している。Shockwaveも自前でDirectorを買って勉強している。 …などなど。
  自分はスキルがあるんだ!できるんだ!やる気もあるんだ!ということをひたすら、訴えました。 喋りが下手な私なので、いまいち情熱は伝わらなかったかもしれません。
「わかったわかった。いまの開発はほんとにしょうがないから、なんとか最後まで やってほしいんだな。それで〜その開発が終わったら、その後はインターネット関係の仕事を やってもらうようにするよ。部署を移すことも検討したいけど、なにせ人が少ないんでね。 うちの課もこれ以上人は減らせない状態なんだ。でも○○さんの要望は非常によくわかった。 検討してみるよ」
相変わらず歯切れの悪い石田課長ですが、言いたいことは言えました。ほっとしました。

 これで少しは状況が変わるはず! 今の開発さえ終われば、マルチに移れるかも!
 しかしやはり私は、甘かったのです。

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