転職失敗記その13

実態が見えてきた(2)

話がそれてしまったが、 私が手がけた仕事は、フライングロゴ、ちょっとしたCG、CMのCG、 さらに拡販用CD-ROM作成、Webデザイン。
また、それに加えて主だったのが、先に述べたような社内パソコンおよびネットワークの トラブル対応である。 このように並べると、前職のSEで得た知識も生き、非常に多岐にわたって仕事をすることができた、 ということになり、聞こえはいい。
仕事の内容は本当に問題がなかったと思う。 自分で仕事をしている実感があったし、勉強になったし、楽しかった。
なにより、周りにいる社員の人たちが個性的で、とっても面白い人たちだった。

E社で嫌だなぁと思ったことの一つに、朝礼がある。 朝全員集まって、一日の予定を話すのだ。
集まって第一声。
「なんだ、T!その服装は。
E社は私服である。皆ジーンズである。デザインや映像業界の人は皆、そうだ。が、
「そのシャツは、仕事する格好じゃないんじゃないか」
裾から出しては駄目とか、アロハっぽい柄は駄目とか、朝礼で社長の目が光る。 だがその基準がはっきりしない。どうも社長の気に入らない人には厳しいようだ。 って、中学生じゃないんだからさぁ…。
そして、各自の予定。
「今日は○○の打ち合わせ…」
声が聞こえないぞ!M、もっとはっきり言え」
そして、全員一通り予定を言い終わった後で、社長の一言。
「もっと予定を具体的に言ってください。でないと、なにかあったときに連絡がつきません。 それは非常に困ります
そういっておきながら、社長は自分の予定を話さない。 電話が来て、「社長はどこ?」「知らない」というやり取りが何度交わされたことか。
ある日、先輩がついに 「社長の予定も言ってください。でないと、電話が来たときこまります」 と言った。
「分かりました」と社長は一応は承知した。だが、他人に「具体的に言え」といいつつ ちっとも具体的でなく、困るのは相変わらずであった。

多くの会社が朝礼を廃止し、メールでのやりとりに変更している。 だが、のちにスケジュール管理ソフトが導入され、社員が話す予定はそれを見れば 分かる状態になっても、E社での朝礼は続く。 私には社長がえばりたいだけにしか思えなかった。
「コミュニケーション、顔を合わせることが重要」などと言っていた。 年くった管理職ほどこういうことを口にするが、 朝礼で形式的な話をして自分が威張って、それをコミュニケーションだと思っている のは本人だけ、である。

さて私は、なぜか社長に気に入られているらしく、 地元の同業者グループの会合に参加させてもらったり、重要なうちあわせには なにかと呼んでもらった。
新人のときの待遇も特別だったことが、 のち他の新人を見て分かった。
私の失敗も、なぜか別の人が怒られたりした。

そんな私の給料は、T社にいたときから4〜5万減、だった。 T社の給料を当てにして今のアパートを借りていたので、仕方なくT社の退職金を 少しずつ使っていた。
「たしか、面接の時には、T社とおなじぐらいの給料にする、って言っていたんじゃ…」 でもこれは私の失敗だ。書面で給料はいくら、という契約は一切なく、口約束だった。 それに私も、私のような未熟者の給料はいくらでもいいです、みたいな気持ちがあった。
ある日、先輩と給料の話をする機会があった。
「うちの会社の給料、少ないですね」
「うん、少ないよ」
「ボーナスはいくらぐらいなんですか」
「ボーナスは、結構もらえるよ。パソコンの頭金にできたし」
「(前の会社のボーナスはパソコンが買えたぞ…)そうなんですか」
「でも給料はたしかに少ないと思う。○○さんが来る前にやめた、Oって奴がいてね」
「あ、CGのすごいできる人だったそうですね。社長は大学に戻ったって…」
「違うよ。引き抜かれたの。
有名な賞も取った人で、それでこの給料は、少ないって、社長に交渉しにいったのね。

『わかった!そんなにいうなら!!』って社長は言ったんだけど、 次の給料から一気に減らされてさ。
やってられないって、別の会社いったんだ」

「…」

だんだん、E社が見えてきた。

前へ indexへ 次へ