電撃のUP、マンガ評論++++

最終更新19990823

作家別に評論しておいた。

@安達哲

「キラキラ!」:これに尽きる。 芸能科に転校した主人公・杉田慎平がアイドルの卵を好きになるという、あらすじを書いてしまうとどうしようもなく陳腐な作品に聞こえてしまうがじつは深く、そして柔らかい高校時代の心理を的確に捉えた作品。その捉え方はあまりにもリアルで残酷ですらある(彼の次の作品である「さくらの唄」では残酷な面が前面に出ている)。これを読むと、無性に高校時代に戻りたくなる。決して夢物語でない等身大の群像と「読ませる」ということの二つのバランスが絶妙にとれた一種の奇跡のような作品。最終話での主人公の心理描写は圧巻。

「さくらの唄」:綺麗なものと醜悪なもの。それを安達哲はオブラートに包まずに「素」のままに読者の前に曝け出す。成人指定にまでされてしまった(青年誌なのに)3巻は暴力とレイプ、果ては近親相姦までがなんの装飾もなく描かれている。そして「そんなのありか」と思わせるラストシーン。安達は、この作品で燃焼し尽くしてしまったのではないだろうか?この次の作品となった「お天気お姉さん」は完全な商業(コマーシャルという意味の)マンガになってしまったし、その後の作品群にもこの頃の力が見られない。この作品で「人生の崩壊」という避けて通りたがるテーマに真っ正面からぶつかっていった彼。主人公のような「その後」を送ることは、何と難しいのだろう。考えさせられる。

「幸せのひこうき雲」:久々に出た新作。全1巻。「お天気お姉さん」まで行った時には彼はどうなるんだろう、と危惧したがやっと彼らしさが戻ってきた。ただ最後のまとめ方が「さくらの唄」バリに強引だったのがやや難。もうすこし頑張って欲しかったというのが率直な印象。

*安達哲作品の評論で興味深いHPがあったので紹介しておく。ココ。

A山本直樹

「ありがとう」: 単身赴任から帰ってきた父が見たものは、不良達に占拠された家の中で薬漬けにされ、輪姦され続ける長女だった。飼っていた犬は惨殺され、ケンタッキーの箱に首を詰められ送られてきた。誤解しないでほしい。この作品は表面上の性・暴力描写により拒否反応を示す方が多いが、良く読めば分かる通り、山本流のホームドラマなのである。「家族の崩壊」が叫ばれて久しい現在、そのあり方を根本から問い、「構築」と「破壊」という過程をシャープに(シャープ過ぎる気はするが)描いた作品なのだ。「リアル」という面では安達哲と並ぶ山本直樹の金字塔。

「フラグメンツ」:彼お得意の「性行動の異常」を捉えた一品。エキセントリックな登場人物ばかりであるか、それを淡々と捉える描き方は流石であろう。読者はその部分を期待して読んでいるのではないだろうというのが残念であるが・・・

B岡崎京子

「ジオラマボーイ★パノラマガール」:オカザキの代表作といえば前期は「pink」のほうが有名だが(後期はやっぱり「東京ガールズブラボー」かな)、その時代の「間」と「気分」を素直に表現しているという点で本作を選んだ(「pink」が駄作だと言っているわけではない。むしろあの作品は現在読めばリアリティが増すと思う)。なんとなく日常生活がイヤな津田沼ハルコとなんとなく高校を中退した神奈川建一が出会い、不思議な人物がなんとなくからんできて特に事態は解決しないままなんとなく終わる。この「なんとなく」の感覚がオカザキの真骨頂だったように思う。そして80年代はオカザキの時代でもあったわけで、90年を過ぎても彼女が80年代を捨て切らなかった(捨て切「れ」なかったかのかどうかは、もはや分からない・・・)ところから彼女の迷走が始まったのだ。「私は貴方のオモチャなの」でようやく新しい面を確立しかけたかと思った96年、交通事故。現在も療養中らしいが、ぜひまた復帰して新しいオカザキを見せて欲しい。強く思う。

「リバーズ・エッジ」:ポスト岡崎といわれる作家群(具体名は出さなくても分かるであろう)はカナリの頻度でこの作品の影響を受けているであると思われる。全体に漂う疲弊感と閉塞感。80年代の彼女のあとがきはもっと明るかった。これがバブル80’sの崩壊の後の94年に作られたというのはある意味象徴的である。それで結局、彼女はこの作品で何を訴えたかったのだろうか?

C紡木たく

「瞬きもせず」:かよ子と紺野君の愛の軌跡。山口県の県立高校(木造校舎)。まさに紡木ワールド全開。もちろん「ホットロード」は名作だと思う。しかし私はこちらのほうが好きだ。ホットロードは青春の「痛み」が中心に据えられていたのに対し、本作は「切なさ」が沁み出している。男性にこそ読んでほしい作品だ。

D江口寿史

「ストップ!ひばりくん!」:もう、マンガ家としての江口寿史はいないも同然で今後まとまった作品も読めないだろうと思うと悲しいが、実はこの作品も未完のままである。奇妙な4角関係(オトコ3人、オンナ1人)が根底にあるストーリーも面白いが、本作の魅力は何よりもその絵柄。女の子を描かせたらおそらく日本一のそのポップなセンスはいまだに頂点に君臨し続けている(デニーズのイラストなど)。ビッグEの復帰を期待しているのは私だけではないと思うのだが・・・

Eよしもとよしとも

「日刊吉本良明」:やはり彼の原点はココにあると思う。人間魚雷作家としての部分が取りざたされたが、根底に流れるロックへの憧憬が手に取れる一作。あとがきが泣かせる。ただ、近年の彼は過大評価されすぎだと思うぞマジで。

F喜国雅彦

「傷だらけの天使たち」:4コマというと「コージ苑」「伝染るんです。」が取りざたされるが、その2作品以上に本作は輝いていた。いわゆる「ヤンサン全盛期」の一角を担っていた大傑作。彼はその後「月光の囁き」というシリアスなそれでいて静かに狂っている佳作を描いている(94年)。この2作品を読み比べてみるのもなかなか面白い。

G上條淳士

「TO−Y」:マイナーパンクバンドのボーカルだった主人公・藤井冬威が芸能プロの支援でメジャーデビューを果たし、芸能界で生きていく喜びと苦悩を描いた作品。ストーリーも絵柄もストイックなまでにスタイリッシュ。しかし随所にはギャグが充填されていた。謎の少女・山田二矢は、マンガ史に残る名脇役。

「Sex」:前作よりもストイックになった作品。メチャメチャカッコイイオトコとオンナしか出てこない。コレ読んで琉球大学進学を考えたぐらい。予定では全7巻で簡潔する予定だったのだが、93年(?)の第2巻発行以来続刊が出ていない。噂では今年中に書き下ろしで一気に完結させるというのだが・・・予備校のイラスト書いているヒマがあるんだっ(以下略)

H南Q太

「さよならみどりちゃん」:どこかのHPで岡崎京子と内田春菊をあわせたような感じだと書いてあったが、私は岡崎京子と桜沢エリカをあわせたような感じだと思う。内田の作品はより人間の嫌らしい部分を抉って表現しているし、全盛期の桜沢はこのパターンでストーリーを作るのがお得意であった(「世界の終わりには〜」など)。このごろ離婚したそうだが、今後の活動に影響が出るのであろうか。

I漫★画太郎

「珍遊記」:冗談なんかではなく、ジャンプ史上の最高のギャグマンガ(ただし、3巻前後まで)。そのクオリティは最低に近い汚らしい絵柄ともあいまって、「ジャンプ」の範疇を超越していた。一応西遊記がモチーフになっているがそれも玄じょう(玄奘と表記していないテキトーさがまたたまらない)が治療している場面からはほとんど無視される。戦いの場面もどーしよーもなくバカバカしい。「おれのオヤジは中村たいじだ!」「・・・・だれだそれ・・」文庫化されることもなく、愛蔵版が出ることもなく絶版。「くそまん」「地獄甲子園」なんかより、才能がほとばしっていた90年初頭の最大の変化球だった。

Jとがしやすたか

「青春くん」:高校生達が繰り広げる一大ロマン。なわけない。毎回ほとんど同じオナニーネタ、絵柄は誰でも描けそうなヘタヘタ絵(ヘタウマですらない)。キャラクターもまったく救われないダメな人間ばっかり。でも私は好きだ。ピストンやすたかのころから好きだ。いつまでも変わらないスタンダードでいて欲しい(こんなのがスタンダードっていうのも嫌だけど)。

K太陽星太郎

「今日のだいちゃん」:もはやヤンサンはこの作品以外クソだと言ってもいいだろう。しかしこの作品ももはやマンネリ化してきてしまっている。1巻の27話ぐらいまでが全盛期だったとはいえないだろうか?

L岩明均

「寄生獣」:グレート。10巻を一気に読ませる。スピード感ある展開と所々ある人間ドラマがこの作品を奥深いものにしている。ミギーが回を重ねるに連れあるはずのない「人格」が備わっていくところが泣かせる。実に真っ当な読み応えがある一品。

M蛭子能収

「明るい映画館」:本人はマンガを書くよりもTVとかに出演するほうが楽でオカネもすぐ入って好きみたいだが、彼にはゼヒもっとマンガを書いて欲しい。「ガロ」直系のシュールで残酷な(ねこぢるなど比べ物にならないと私は思う)表現が魂の暗部を狙撃する。オマケに付いてくる「エビスの映画鑑賞術」いかにも彼らしくてマンガとは無関係にオモシロイ。

N魚喃キリコ

「Water.」:画力はいうまでもなくトップクラスの彼女であるが、まだこの当時はネームがついていってないことが窺い知れる。それでもその「雰囲気」を味わえる美しく切ない佳作。

「痛々しいラヴ」:ストーリーテリングが格段に上手くなりすでに大御所的な雰囲気を醸し出してきた作品。美しくも(魚喃氏自身もかなりの美女である)危なっかしい登場人物が魅力的。ダメなオトコが数多く登場するのは作者の趣味だったのでしょうか。あえて難点を挙げるとすれば、展開が「ポスト岡崎」と言われてもしょうがないところであろうか。

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