閣議決定された「行政機関の保有する情報の公開に関する法律案」の問題点

                      1999年2月2日改訂


この法案の基本的な考え方がおかしい。この法案は、「行政文書開示手続き法案」という名称にすべきである。

この法案の考え方は、「行政情報はできるだけ国民に開示したくないから、開示請求がなくても一般に無料で公開する情報などは規定したくない。だから、開示請求などをしてきた者に手数料を徴収して、行政に都合の良い内容の文書化された情報だけを、開示してやろう。」というもののようである。

以下、問題点を具体的に指摘する。

【具体的な問題点】
1. 第1条から第5条までの問題点

(1)この法案は、「行政情報公開」の法案になっていない。開示対象を「行政情報」とはせず、「行政文書」としている。(第1条、第2条2項)
開示請求された行政文書の中の一部を、手数料を徴収して開示請求者に開示するだけであって、公開するものではない。開示請求がなければ開示しないという閉鎖的なやり方を規定している。開示請求がなくても、無料で誰でもアクセス可能に公開すべき情報を規定すべきである。

情報公開のための道具としてインターネットというすばらしいシステムがあるのだから、インターネット上で無料で誰でもがアクセスできるように行政情報を公開すべきである。

(2)国民に対して行政文書の開示請求権を限定的に認めてはいるが、「行政情報の開示を受ける権利」を国民に対して認めていない。従って、開示請求がなくても行政側が開示すべき行政情報を規定していない。(第5条)

(3)開示対象とする行政情報を「行政文書」に限定している。(第1条、第2条2項、第5条)
従って、紙やFDなどの記録媒体に記録されている情報に開示対象を限定している。すなわち、行政官が口頭で述べた情報や、議事録をとらなかった会議の内容は開示対象から除外されている。

(4)さらに、「行政文書」であっても、「当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」に該当しなければ、開示請求があっても公開しない事になっている。(第2条2項)
すなわち、薬害エイズ事件で出てきたファイルのように担当官が職務上個人的に作成したものであっても、個人ロッカーにしまいこんでいるようなファイルは、公開の対象にならない事を意味する。郡司ファイルのようなものは出てこない。

(5)開示が不都合な情報が少しでも含まれている情報は、開示すべき情報と一緒に不開示にしてしまうとの規定となっている。(第5条)

(6)第1条にある「国民主権の理念」との記載は、おかしい。国民主権は理念ではない。憲法の中心的で絶対的な規定である。憲法の前文に次のような1節がある。「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであ つて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」
国民主権は絶対的な憲法の規定であるので、この法案の第1条の「国民主権の理念」を「憲法の中心的規定である国民主権の原理」に修正する。

(7)第1条にある「政府の有するその諸活動」との記載は、日本語としておかしい。「行政機関の諸活動および状態」とすべきである。まず、「政府」とせず「行政機関」とすべきなのは、「政府」の概念の中には、「行政機関」、「国会」、「司法機関」があるためである。「有するその諸活動」もおかしい。そもそも、「活動」というものは「有したり」、「有しなかったり」するものではない。このような表現をすると、無用の解釈論を必要として、官僚による裁量の余地を拡大する原因となる。

(8)第1条にある「国民に説明する責務が全うされるようにする」には、主語がないとの問題点がある。主語は「内閣」とすべきである。また、この規定では情報公開だけで、国民に対する説明責任が全うされるとの前提があるが、これもおかしい。例えば、相互に矛盾する情報を公開したり、解釈が困難な形態で情報を公開したり、整理されていない情報を公開したのでは、国民に説明したことにはならない。したがって、この箇所は、「国民に説明する責務を果たすための前提条件を整備する」に修正すべきである。

(9)第1条にある「国民の的確な理解と批判の下にある」もおかしい。国民からの批判があった場合に、その批判を「的確な理解に基づかない批判であるので、無視する」という行政機関の態度を許容させる根拠となる可能性が大である。従って、ここは「国民の不断で厳重な監視と批判のもとでの」に修正すべきである。

(10)第2条において、特殊法人が行政機関の定義の中にはいっておらず、情報公開法の対象外になっている。動燃の事故隠しのような失態が再発する可能性が大である。

(11)第2条2項2号で、「政令で定める機関で、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理 がされているもの」は、開示対象としないと規定している。これは、重大な開示逃れの大穴である。行政機関が開示したくない文書はこのような特別な管理をすれば良いのであるから、とんでもない話である。この部分は削除すべきである。

(12)第4条1項2号では、開示請求にあっては開示対象の行政文書を特定するに足りる事項を開示請求書に記載せよと、ある。このように規定するのであれば、全ての行政文書の名称や分類などの書誌的事項を公開するデータベースをインターネットで無料アクセス可能に設置するとの規定も設けるべきである。

(13)第5条1号ロでは、「ロ  人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必 要であると認められる情報」は、不開示としてはならない情報であるとしている。しかし、このロに該当するかどうかの判断を行政機関の長が実行するのであるから、裁判手続きを経なければ実質的には行政機関にとって不都合な情報(薬害エイズ事件の時の郡司ファイルのようなもの)は、開示される可能性がほとんどない。したがって、次のように修正すべきである。
「ロ  人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、または行政機関の違法行為や怠業行為を公にするために必要な情報とは無関係であるとの文書による証明が、当該行政機関によって開示請求の日から30日以内になされなかった情報」

(14)第5条1号ハでは、「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。) に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次 に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、 公にすることが必要であると認められる情報を除く。」と規定している。これも、一見は良い規定のように見えるが、行政機関が「必要であると認めない」情報は、裁判で勝訴しなければ開示されないことになる。したがって、ここでも、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、 公にすることが必要であると認められる情報を除く」との部分を、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、または行政機関の違法行為や怠業行為を公にするために必要な情報とは無関係であるとの文書による証明が、当該行政機関によって開示請求の日から30日以内になされなかった情報を除く」に修正すべきである。


まだまだ、不適切な箇所は多いが疲れたので今日のところは、ここまでとする。



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