政野さん、議員立法における課題が良く分かりました。既存の法の改正案や、新規立 法案にしても、既存の膨大な他の法律との関係を認識して、既存の膨大な他の法律と の整合性の確保のために、どの法律のどの部分をどのように修正すべきかを把握する のが、議員側には無理な状況である事がわかりました。また、関係する法律の改正作 業を同時に並行して一斉にやるだけのパワーが、議員側にはないこともわかりまし た。 クモの巣のように入り組んでいて、整合性のある法改正ができにくいという現在の状 況は、モジュール間の依存性が高く、しかもその依存関係を記述したドキュメントが ないような、できの悪いプログラムからなるソフトウェアシステムの改造作業で直面 する問題と同じです。ソフトウェア工学の世界では、このような問題を約20年前に 解決しています。プログラムから「GOTO文」をなくし、モジュール間で共用する 変数を最小限にし、モジュールを階層的に構成するという「構造化設計」の技法が、 解決策となりました。構造化設計を具現化するためのプログラミング言語として、P ASCALやCが開発されました。これが、さらに進化して、現在ではプログラムで 取り扱うデータの属性までも階層的に管理できるオブジェクト指向プログラミングに まで到達しています。 立法情報工学は、個々の法律のわかりやすさや表現の厳密さをもたらすだけでなく、 既存の他の法律との関係をビジュアルに表示したり、個々の条文の変更が他のどの法 律のどの条文に影響を与えるかをシミュレーションするためのツールを提供できるも のにすべきだと思います。 法政大学法学部教授 松下圭一 著 岩波新書 「政治・行政の考え方」の106 ページに次のような一節があります。 【今後の課題としては、日本の現行法制をかたちづくる明治以来の膨大な個別国法か ら通達までの再編があります。とくに既成国法の再編には、市民型の法務技術ないし 立法技術の形成とあいまって、10年単位から30年単位の時間がかかるとみておく べきでしょう。この意味では、明治以来100年余つみかさなってきたような官治・ 集権型法制の蓄積をもたない後発国は、うらやましいともいえます。 明治以降の官僚型法務政策によってかたちづくられている膨大な既成国法を、市民型 法務政策によっていかに消去し再編するか。ここが問われています。これまでも既成 国法は、国会ごとに改正がくりかえされていますが、なお全体として時代錯誤の「ク モの巣」(立法学を提起したベンサムの用語)にとどまっています。<法制大改革> の時代に向かいつつあるというべきでしょう。】 行政手続き法、情報公開法、政策秘書制度、パブリックコメント制度、機関委任事務 の廃止、政府委員制度の廃止、副大臣制というように、官僚国家を民主国家に改造す るための動きはあります。しかし、議員立法の前に立ちはだかる「膨大な既存法のク モの巣との整合性の確保」を、官僚に全面的に依存せざるおえない現状を変えねば、 官僚国家は微動だにしないでしょう。まずは、「既存法のクモの巣」の状態を官僚に 記述させ、それをデータベース化して、インターネットで公開させる必要がありま す。そのためには、「既存法のクモの巣」の状態の表現形式の研究を市民側で実行す る事が必要になります。立法情報工学は、個々の法の表現形式のあるべき姿、法と法 の関係記述の表現形式のあるべき姿を明示する事から始めていかねばなりません。
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