行政に対する監視の原則

「武藤総務庁長官が、国会に行政評価監視委員会を設置し、総務庁行政監察局を廃止する
ことに消極的な発言をした。内閣法制局が、憲法の三権分立の原則から行政府を国会の機
関が監視することに疑義を唱えた。」という趣旨の新聞報道が1996年11月にありま
した。

この新聞記事での内閣法制局の見解は、国政の根幹にかかわる重大問題です。この問題を
うやむやにしておいたのでは、戦前の軍部が「統帥権の独立」という概念を持ち出して、
帝国議会の制御を離れて暴走を始めたのと同じことが、起こる可能性があります。行政改
革どころの話ではありません。

内閣法制局の指摘した憲法問題を考察してみたいと考えます。
そこで、憲法の関係個所を抜き出してみました。

憲法前文
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、−−−ここに主権
が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託
によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、
その福利は国民がこれを享受する。

憲法第41条
 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。

憲法第65条
 行政権は、内閣に属する。

憲法第66条
 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣
でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に連帯して責任を負う。

憲法第72条
 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について
国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

憲法の規定を眺めてみますと、国民は国会に代表者を送り出し、国会を通じて主権者であ
る国民が国を統治するのであることが判ります。そして、国会は国権の最高機関であるの
ですから、国会が、内閣総理大臣から一般国務及び外交関係についての報告を受けて、行
政を監視・評価することは当然です。しかし、内閣総理大臣からの報告を受けるだけでは
不十分である場合には、主権者である国民を代表して国会が行政全般にわたって監視・評
価できることは当然です。行政機関が他の行政機関を監視したところで、それは国民の代
表した者による監視ではないのですから、主権者である国民が監視したことにならないか
らです。官僚は、国民によって正当な選挙によって選ばれた者ではないし、監視の対象な
のですから、行政機関の官僚が他の行政機関の官僚を監視・評価するシステムである総務
庁行政監察局を廃止すべきであるのは、憲法の精神および条文から必然的に導き出される
結論です。

この件について、憲法学者でもある社民党の土井委員長の見解を聞きたいものです。



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