シンデレラ・エクスプレス 
とあるMLにこんな話題が流れていた。
懐かしかったのでリプライを書いていたのだけれども,長くなった(笑)
なので,エッセイとして切り出すことにする。
でるふぃの,知られざる過去(?)を公開(笑)

> そう言えば皆様、「シンデレラ・エクスプレス」とはご存じで?
> -- 略 -- 新幹線のCMなんですが。
> そうです。あの寒そうなホームで白い息を吐きながら、最終を見送る。
> そして、バックは山下達郎さんの「クリスマス・イブ」!
> 今年は「クリスマス・エクスプレス・2000」と銘打ってやってますよね。


かつて学生だった頃,私は遠距離恋愛をしていた。
相手は東京に住んでいて,(元は大阪の人)
こっちに帰ってくるのは春夏冬の休みと,ゴールデンウイークとか,
まとまった休みが有るときだけ。
彼が東京に戻るときはいつも新幹線の東京行き最終だったから,
まさに「シンデレラ・エクスプレス」。

なんかねー,普通の電車なんかだと,
もう少し一緒に居たいなって思ったら,
あと一本見送る,とか,一緒に何駅か乗っていって,
引き返してくるとか,そゆこと出来るじゃないですか。
#実際,何本も見送って,ずっとホームで話してたこともあった。

でも,新幹線ってそれが出来ない。
特に最終だから,一本見送ったら帰れない。

彼が乗って列車が走り出してしまったら,また次に逢えるのは
何ヶ月か先なんだってのがすごく哀しかった。
一緒に乗っていきたいなーなんて,本気で思ったり。
#学生だったので,できなかったけど。

今なら携帯もあるしEmailもあるから,すぐに連絡もとれるんだろうけど,
あの頃って,そんなものは無かったし,
彼が東京に着くのが夜遅いから,その日は電話ももらえないわけで。
無事着いたかなぁとかね,いろいろ考えて,
眠れない夜を過ごすのが彼の帰る日の恒例だった。

一番印象に残ってるのは,冬休みにこっちへ来てて向こうに帰る日,
いつもの通り新幹線のホームまで見送ったときのこと。
彼が いったんドアに足をかけて乗り込もうとしながら,
ぱっとこっち向いて,また降りてきて,
自分が巻いてたマフラーを 私に巻いてくれた。
もちろんその日は寒かったので,でる自身もマフラーはしていた。
けど,その上に,彼は自分のマフラーを巻いてくれたのだ。

「おまえ寒がりやから,これも巻いて帰れ」って。
--言葉に詰まった。

「今度会う時返してもらうわ」って笑って,彼は新幹線に乗り込む。
でも,「今度」って春休みなわけで。
ガッコでノート借りて,明日返すねってのと訳が違う。

今日借りたものを明日返すことも出来ない
二人の「距離」ってのを,その時ほど強く感じたことは無かった。
辛かった。

お見送りだから,笑おうとしたけど,全然上手く笑えなくて。
手を振る彼の前で,ドアが無情にも閉まる。

「シンデレラ・エクスプレス」なんて誰が名付けたんだろう。

お話の中のシンデレラはガラスの靴を落としていき,
それを拾ってシンデレラを探した王子様とハッピーエンドになる。
だけど,あの日のシンデレラは,王子様が残したマフラーを握りしめ
周りに人が居るのも構わずに,ボロボロ泣きながら新幹線のテールライトを見送るしかなかった。
ハッピーエンドとは ほど遠かった。


今,仕事で新幹線を使うこともある。
東京から最終で帰ってくるときに,やはりホームで別れを惜しんでいる人たちを見かけることがある。
昔,ホームに残された自分は,「置き去りにされた」寂しさ抱えることで精一杯だったけれど,
今なら「誰かをおいて新幹線に乗り込む」側の気持ちも何となく判るような気がする。

何か「自分を感じてもらえるもの」として,
自分の していたマフラーを とっさに 私に渡すことしか出来なかった彼の気持ちが,
今は痛いほど判る。

「愛している」なんてお互い一度も言ったことは無かったと思うけれど,
確かに彼を「愛していた」し,彼に「愛されていた」んだなぁ,と。
何故かそういうことは後になってから気づくのだけれど。


「シンデレラ・エクスプレス」--そのCMが復活するという。
あの頃の自分には身を切られるようなCMを,今の私はどんな気持ちで観るだろう。

今同じように遠距離恋愛をしたとしても,逢いたくなったら会いに行くだろうし,
新幹線なんて まだるっこしいことはせずに,飛行機を使うだろう。
もっと一緒に居たいと思ったら,帰る日程を延ばしたっていい。
毎日電話して,毎日Emailを送って,チャットだって出来るじゃないか。

…だとしたら。

自由な時間とお金を得た今の私は,あの日のシンデレラには もうなれないのかもしれない。

December 13, 2000