side_story-6 (Kyoko.A) 

 花見のバカ騒ぎも終え、GWも過ぎると、またいつもの
静かな日常が戻ってくる。
美也子は相変わらず、"彼"の幻影から離れられず、
そんな美也子を、見守る雅也の姿も、数年前から変わりはしない。
あたしはそんな二人と一定の距離を保ち、これからも過ごすのだろう。

 あたしと美也子は同い年で同期入社という共通点はあったけれど、
外見も性格も全く違っていた。
しかし人というものは、自分と違うものに魅かれる傾向があるらしく、
気が付けば一番本音で話せる仲になっていた。
とはいえ、美也子は自分から悩みを話すような性格では無かったし、
あたしは、悩むくらいなら行動を起こしてしまうタイプだったから、
お互いが悩みの相談をすることは無かったように思う。

 あたしと美也子は正反対に近い性格だったので
当然の事ながら、好きな男性の好みも違うものだったのだが、
結果として、どこか因縁めいたつながりを持つことになってしまった。
あたしは、入社してから二人の男を好きになったが、
奇しくも、美也子とも関わりがある男だった。

 あたしは、恋愛を始める年頃には
別に年上だからとか、年下だからとか選り好みはしなかった。
現に、年下ともつき合ったこともあるにはあるのだ。
しかし彼らは一様に口をそろえてこう言った。
「京子ちゃんは年上の彼氏でないと駄目だよね。
 僕には包容力が無いみたいだ」
同い年の男でさえ、このセリフを吐いた。

 だからあたしは、結局可愛い女を演じるよりも、
自分を自分として認めてくれる年上の男を選ぶようになっていたのだ。

 入社してから、そんな性格が災いしてか、
あたしは、いつしか"強い女"というレッテルを貼られていた。
だが、強い女のどこが悪いのか?
あたしは強い女だ。
だから、あたしはその強さ以上の強さを持った男に惚れるのだ。

 社内の男どもは当然、そんなあたしを恋愛の対象から外す。
「雨崎さんとはやっぱり仕事仲間でいるのが一番だ」
お酒の席ではそんな風に言われもしたが、
「仕事の仲間としてなら、もう少し頑張ってもらわないとね」
と切り返すことも忘れなかった。

 あたしがそんな中で好きになった人は、ありふれた話だが上司だった。
その人の前では、飾ることもなく、自分を出せた。
ばかみたいに強がることもなかった。
けれど、その人と"彼と彼女"の関係にはなれなかった。

 最初に好きになったのは、あたしの方なのに、
そんな陳腐なセリフが浮かぶほどであったが、
"その人"は、"あたしの親友"を選んでしまったのだ。

 だから、"その人"のことをあきらめ、
雅也のことが気になりだした時に、美也子にその事を告げたのは、
あたしの小ずるい計算だったのかもしれない。

 「ねぇ、美也子、滝川君って結構いい男だと思わない?」

会社の帰りに、美也子を誘って食事をしているときに
あたしはそう、うち明けた。

「滝川君かぁ。いい男とかそういう見方したことないけど…」
美也子がそういったので、あたしは言葉を続けた。

「ほらいつだったか、〆切直前にクライアント側のミスで
 めちゃくちゃ訂正入ったことあったじゃない?
 期限まで全然時間が無くて、みんな徹夜でさ。
 あの時みんなぶち切れちゃって、ぶつぶつ文句言う人
 ばかりだったでしょ。あたしさ、
 『文句言ってるヒマあったら、さっさとやりな』って
 思ってたんだけどね」
「なんか京子らしいね」
「そん時ね、滝川君だけは、もくもくと仕事してたのよ」
「そっかー。そういえば滝川君が文句言ってるところって
 見たことないかも」
「こいつ、やるな、って思ったの。今までは年下の男ってので
 あんまり意識してなかったんだけどさ。
 けどよく見てたら、責任感強いし、いい感じなのよ」
「京子ちゃんが男の人誉めるの初めて聞いたよー」
「失礼ね、別にそういうわけじゃないわよ。
 誉めるに値する男が身近にいなかっただけでしょ」
「あら、相変わらず京子発言はきついきつい」
くすっと笑いながら、肩をすくめてみせる美也子。

 ふと、思う。あたしなら、そういうリアクションは出来ない。
そんな仕草のさりげなく出来る美也子に、"あの人"も惚れたのだろうか。
引きずっているのか?あたしは。
まさか、と、うち消す。
あたしはもう、雅也に想いが移っているのだ。

「ねぇ、美也子さぁ、滝川君にさりげなく言ってくれないかな?」
「え?私が?」
「そそ、ほら美也子って滝川君と組んで仕事すること多いじゃない」
「うん」
「だから、あたしが気に入ってるっての伝えてよ」
「自分で言った方がいいと思うけどなぁ」
「言えないわよ、そんなの。だから、ね。お願い」
「でも…」
「きっかけ作ってほしいのよ。ねー、お願い」
「仕方ないなぁ。判った。上手く言えるかどうか判らないけど」
「やった!恩に着るわ」
「はいはい、それはうまくいったらそう言ってね」
「なるべく早くね」
「注文が多いなー」

 そんな風な会話をし、
ほどなく美也子は、雅也にあたしの気持ちを伝えてくれたらしい。
美也子からあたしの気持ちを聞かされ、あまつさえ
「京子は誤解されやすいけど、ほんとはすごくいい子なの。
 もしよかったら、気持ちに応えてあげてね」
と言われたとき、雅也はどう思ったのだろう。

 自分が好きな女から、
他の女とつき合うように勧められた気持ちは…。

 そう、あたしは知っていたのだ。
美也子に"彼"がいるときからずっと、
それでも雅也は美也子が好きだったことを。

 それを承知で、あたしは、
美也子に気持ちを伝えてもらった。

 あなたが想いを寄せる女は、
あなたには全く興味がないのだと。
そう気付いてもらうために。

 あたしが"本当に好きになった人"の"彼女"であった
美也子に、その役を頼むことによって、
自分の気持ちにケリをつけると同時に、
雅也に彼女を諦めてもらうこととの
両方の効果を狙ったのだ。

to be continued ...