7年間の空白を・・・<Chapter3>
気持ちいい……
ふわふわとした、そう…雲のような感じ……
ずっとこうしていたい……
あ、母さん……
え? イチゴジャム作ったの? うん食べる……
パンにイチゴジャムを塗って食べる。
甘い…イチゴジャムの味がする。
おいしかったから、たくさんたくさん食べた……
「…くー…お腹いっぱい」
幸せだった。
そして…急速に意識が引き戻されるのを感じた。
「う…ん…?」
どうも意識がはっきりしない。朝はいつもそう。
視界に祐一の姿がある。
「…祐一…?」
どうしてここにいるんだろう…?
朝は、おはよう、だよね。
「うにゅ、おはようございまふぁ〜」
うー、眠い。
祐一の話によると目覚ましの音に気づいて起こしにきたらしい。
祐一が出て行って…
ゆっくりと覚醒していく意識の中でわたしはやっとそのことに気が付いた。
つまり……
祐一に寝てるところを見られちゃったよ〜!
とんでもなく恥ずかしくて。
真っ赤になった顔が元に戻るまで時間がかかってしまった。
でも、ちょっと嬉しかった。
祐一が、起こしにきてくれたから。
こんな、他愛ない優しさが…たまらなく嬉しくて…
七年前のことが嘘だったような幻想を抱かせる。
だめだな……わたしったらいつまでもあのことを引きずってる。
今日から三学期。
でも、いつもとは違う。
今日から祐一と一緒に学校へ通う。
「…寒っ」
外に出て祐一はぶるっと身震いした。
「いい天気だね」
「これから毎日こんな極寒の中を歩くのか…」
かなりげんなりしている。
「今日は暖かい方だよね」
「……」
「でもこれから、どんどん寒くなるんだよね」
「……」
「どうしたの? 祐一」
「…俺、国に帰る」
祐一は平気なはずなんだけどな…だって、
「でも、祐一だって昔はここに住んでたんだよ?」
「そうだけど、正直あんまり覚えていない」
そっか……そうだよね。
「すぐに慣れるよ、きっと」
「……そうだといいけど」
思い出せないのなら、わたしが思い出させてあげよう…
わたしだって思い出して欲しいから。
嫌なことを含めて全部……
「ふぁいとっ、だよ」
がんばって思い出してね祐一。
わたしも頑張るから。
「足跡足跡…」
「足跡なんて別に珍しくもないだろ?」
祐一。よくこうやって足跡つけて遊んだよね。
そして、
「帰ったらかまくらつくろうよ」
ね、昔みたいに。
「嫌だ」
「少しは考えてよ〜」
「何が楽しくてこの寒い中かまくらなんて作らないといけないんだ!」
「中でお餅焼くの」
昔そうして遊んだよね。
「中でお餅焼くの」
「台所で焼けっ!」
「かまくらの中で焼くお餅はおいしいよ」
「一緒だ!」
「残念…」
楽しかったんだけどな……
「祐一。この辺りのこと覚えてる?」
「いや、正直あんまり覚えていない」
「少しずつ思い出すと思うよ」
わたしは思い出して欲しいんだよ。
「そうかな……」
だから、
「ふぁいとっ、だよ」
「別に思い出せないのならそれでもいいんだけど…」
そんな…
そんなのって…
「…それは、ちょっと悲しいと思うよ」
わたしとの思い出…いらないの?
楽しかったことだってたくさんあった。
いくらわたしのことを拒絶してしまったからって……
そんなの嫌だよ……
「そうだな、たしかにそうかもしれないな」
この祐一の言葉で、ほっとした。
祐一頑張って思い出してね……
今日は祐一が学校に転入した日だった。
同じクラスになれて、とっても嬉しかった。
祐一、これからもよろしくね。
そして、いつか祐一が思い出したら……
「くー」
こうして、1月8日は終わりを告げる。
to be continued...