7年間の空白を・・・<Chapter5>

 

 四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
 今日は土曜日だからこれでもう放課後だ。
 後、HRが終われば家に帰れる。
 ふふっ……
 今日は部活がないから、祐一と一緒に帰れる。
 さっき約束したもんね。
 いつも、一緒に帰れないから嬉しいよ。
 ガタン!
 いきなり祐一が立ち上がる。
「俺、ちょっと急用を思い出した」
 え? 祐一? どうしたの? 
「おい、まだHRが残ってるぞ!」
 北川君が呼び止めても…
「すぐに戻るっ」
 出て行ってしまった。
 どうしたんだろう祐一……
 そのまま帰ったりしないよね?
 約束したもんね…?
 
 HRが始まっても祐一は戻ってこなかった。
 石橋先生はかんかんに怒ってた。
 駄目だよ、祐一。
 転校したばかりなのに……

 HRが終わっても祐一は帰ってこなかった。
「名雪、一緒に帰ろっ」
 香里が声をかけてきた。
 いつもなら、うん、って言うけれど…
「ごめんね、今日は祐一と帰るって約束したから……」
「相沢君と? もう出て行ったじゃない」
 うん、でもね……
 待っていたいんだよ…
 一緒に帰りたいんだよ…
「祐一、嘘つきだよ…でも、待つよ」
「…そっか、じゃあ、頑張ってね」
「ごめんね」
 気にしないで、って言って香里は帰っていった。
 祐一、来るよね?
 商店街の時もこんなだった……
 わたしは不安で不安で……
 祐一に嫌われたんじゃないかって……
 来るよね?
 祐一……


 ガラッ…
 扉を開けて教室に祐一が入ってくる。
「…うそつき」
 来てくれて嬉しいけど……
 どうして、祐一はちゃんと時間通りに来てくれないの?


「…ひどいよ、祐一」
 こうなったら、ちゃんと反省してくれるまで許さないんだから…
「色々と複雑な事情があったんだ」
 言い訳したって駄目だよ……
「わたし、ずっと待ってたんだよ」
「先に帰ってたらよかったのに」
 そんなこと言わないでよ。
「だって、約束したから…」
「祐一は約束を破ったりしないもん」
「遅れることはあっても、ね」
 思いっきり皮肉を言ってやった。
「…わかった、俺が悪かったよ」
 ちゃんと謝ったから…許そうかな……
 うーん……
「お詫びに、商店街で好きな物おごってやるぞ」
「ホント?」
「…あまり高い物はダメだぞ。寿司とか」
「うんっ」
「何がいい?」
「うーん…色々あって迷うよ…」
 そうだ、イチゴサンデーにしよう。
 それなら、許してあげる……
 本当につらったんだからね…祐一……


 お母さんに買い物を頼まれて、祐一が帰ってくると背中に……
 女の子を背負ってた。
「大きなおでん種…」
 皮肉のつもりで言った。
「これがおでん種に見えるのか、おまえは」
「人間…?」
「そうだ。人間だ。しかも女の子だ」
 全く気にした様子じゃない……
「あー、困ったな…悪いけど布団の用意してくれないか?」
「うん」
 あの女の子、誰なの?
 聞きたいことはたくさんあった。
 なんだかとっても嫌な気分になった……


 とりあえずあの女の子を部屋に寝かせて、夕食を食べた。
 祐一の説明じゃよくわからなかったけど…知り合いじゃないって聞いて…
 なぜかほっとした……
「誤解じゃなくて、祐一のとんでもない過去が暴かれたりしてね」
 あの時どうしてあんなことをいったんだろう?
 嫌がらせみたいで…自分が嫌になった。


「まだ寝てやがる。おい、そろそろ起きないと家に帰れないぞっ」
 祐一が女の子を起こそうとぺしぺしと叩く。
「うりうり」
 うにゅーと頬を引っ張ってる。
 そんなことしても起きないと思うよ……
「ほんと、気絶してるみたいに寝てるぞ…この様子じゃ、朝まで起きないんじゃないか?」
「困ったね…」
「仕方がない。一晩だけ泊めてやるか…」
「な…?」
「うん、そうだね」
 放り出すわけにも行かないし、仕方ないよね。
「じゃ、電気消して、でよう」
「………」
 その時…なんでこんな風に考えたのか…わたしにはわからない。
「どうした?」
「家族の人に連絡してあげたいから、連絡先の分かる物を持ってるか、ちょっと探してみるよ」
 そうすれば…この子はすぐに出て行くんだから……
 そんなことを考えていた……
「そっか。そうだな。それはおまえに任せるよ」
「それと、着替えさせてあげるから」
「ああ。そのまんまじゃ寝苦しいだろうからな」
「じゃ、頼んだ」
「うん」
 祐一が部屋を出て行く。
 祐一は、わたしのこと
 よく気のつく奴だとか、
 優しい奴だとか…
 そんな風に思ったかもしれないけど……
 違うんだよ……
 わたし、この子を追い出したいだけなんだよ……
 なんだか祐一を取られそうで……
 怖いんだよ……
 不安なんだよ……
 おかしいよね……
 祐一を独占する権利なんてないのに……
 相手を選ぶのは祐一なのに……
 わたしは…嫌な子だよね……
 だから…七年前も、あんなことになったのかもしれない……
 

 布団の中に入っても…ずっと不安だった……
 祐一……
 早く七年前のことを思い出してよ……
 好きだって気持ち……わかってよ……

                      to be continued...

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