7年間の空白を・・・<Chapter6>

 

 日曜日はゆっくりと寝てるのが一番……
 今日はよく眠れたと思う……
 時計を見ると……11時。
 お腹がすいた…
 ご飯…お昼ご飯…になるかも……
 ゆっくりと、階段を降りる。

 食卓には…あの子がいた。
「あら名雪…おはよう。ご飯食べる?」
「うん」
 お母さんがお昼ご飯を作ってくれる。
「おはよう」
 名前も知らない女の子は何も答えてくれない……
「名前は? わたしは名雪……」
 この子は誰なんだろうか?
 祐一と…どんな関係があるんだろう……
「……知らない……」
「え?」
「……わからない…思い出せないの……」
「そっか、それじゃ仕方ないよね」
 それっきり…何も話さなかった……
 記憶喪失……なのに………
 不安だと思うのに……
 わたしはどうしても優しくしてあげられない……
 
 祐一が起きてきた。
 しばらくの沈黙……
 何を話せばいいんだろう?
 わたし…おかしいよ……
 いつも…こんなこと無いのに……
「おまえな、これ食ったら、ちゃんと帰れよ」
「………」
「親御さん心配してるぞ」
「………」
「返事はどうした」
「………」
「仕方ないから」
「仕方ない?」
「うん、仕方ないの」
「あのね、この子ね、自分のことが思い出せないらしいの」
 わかってる……
 わたしは怖いんだ……
 突然現れたこの子に、祐一を取られるかもしれないって……
 うわべだけ優しくして……
 心の中では…この子のことを拒否しているんだ……

 祐一と一緒にあの子の部屋に行って……
 話しているときにも違和感があった。
 祐一があの子に辛く当たるから、
 助け舟を出すんだけれども……
 何かわだかまりがあった。
 わたしも…心の中では、いなくなって欲しいって思ってる……
 それなのに…
 どうしてわたしはあの子を家においてあげようなんて思ったんだろう?
 
 記憶喪失で、帰る所が無くて…かわいそうだから………

 違う!
 それは、うわべだけの気持ち……

「いってぇなぁ…その物騒な性格にぴったりじゃないか」
「はぁ…思い出すまで待つ」
「じゃあ仕方ないな、思い出すまで殺村凶子と呼ぶからな」
「うーっ…そんなのヤだぁ」
「だったら早く思い出すことだな」
「見てなさいよぅっ。頑張って、とッても可愛い名前、思い出してみせるから」
「頑張って、名前が可愛くなるか」
「あぅーっ」

 二人のやり取りを見ていると……
 恋人同士みたいで……
 嫌だった。
 
「あのね、名前、思い出したの」
「もっと殴れば、色々なこと思い出すかもしれないなぁ」
「違う、違うっ…さっきの衝突は関係ないのっ」
「そうか、そりゃ残念だ」
「それで、名前は?」
「うん。真琴。沢渡真琴。よろしくね」
「真琴ね。じゃあ、その名前で呼ばせてもらうわ」
「よろしくね、真琴」

 よろしくと言うのは……
 違和感があった……
 この子に祐一を取られてしまうかもしれない……
 そう思うと…よろしくなんて……
 言える筈が無いよ………

 嫌だった……
 あの子に祐一を取られてしまいそうで……
 そして、あの子に対して…優しくなれない自分が……
 とてつもなく嫌だった……
 自分がどす黒い存在に思えた……
 祐一…ごめんね……
 わたし、こんな女の子なんだよ……
 嫉妬深い、嫌な子……
 こんなわたし……
 好きになんてなれないよね………

                      to be continued...

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