「よしっ!気合いいれるぞ!!」
 一人、握り拳を作っているこの男は、相沢祐一。そして、その場所は、本屋。この地域で一番大きい、ここでなければ他の場所にはないだろうと言われるほどの品揃えを誇る本屋だ。
 祐一は強固なる意志のもとにここにいる。気を引き締め、本屋の中へと入っていく‥‥‥。


After Of Birthday〜幸せとすれ違い〜前編

「ただいま」
「ただいま〜」
 祐一と、祐一のいとこ−水瀬名雪−が一緒に帰宅した。時刻は午後4時。高校生の帰宅時間としては少し早いほうだろう。
 だが、この地域では、標準と言える。なんせ、この地域は日没が早い。しかも、昼間との気温差が激しい。祐一曰く、「ただでさえ、寒い地域なのに」だそうだ。
 暖かい地域で過ごしてきた祐一にとっては、辛いだろう。一年経ったとはいえ、生まれつきの寒がりなのだから‥‥‥。
「お帰りなさい」
 玄関まで顔を出したのは、水瀬秋子。名雪の母親兼この水瀬家の大黒柱だ。
 水瀬家は祐一の居候先だ。親の転勤の都合で、こちらに居候している。どうやら、また、急な転勤で、海外の別の場所への転勤らしい。親にその話をされたとき、祐一は断固として、こちらにいると言って譲らなかった。
 親としては、これ以上、水瀬家へ迷惑を掛けたくないだろうと思ったらしいが、折角、学校に慣れたのに、動くのは嫌だという事と、受験と言うこと、そして、水瀬家の二人が一秒で了承したことで、(祐一曰く「さすが親子だ」だそうだ)渋々ながらも、認めたのだ。
 もっとも、肝心なことは全く言わなかったのだが。さすがに、恋人と離れたくないから、とはいえない。いろいろと厄介なことになるに決まっているからだ。
 余談はさておき、祐一にとって、一ヶ月後は絶対に逃すことの出来ないイベントがある。そのために本屋に行ったのだが、結局、目当ての物は見つからなかった。
 もっとも、地獄に仏、災い転じて福と成す。何とかなりそうなのだが。
「ねーねー、お母さん」
 名雪が、靴を脱ぎながら言った。祐一は、靴を脱ぎながら、耳をそばだてている。
「何?」
 秋子が、頬に左手を当てて、微笑みながら聞き返す。
「お母さん、ストールの編み方の載ってる本って持ってたよね?」
「あら、どうして?」
 秋子が、もっともな質問をする。
「えっと、詳しいことは祐一から聞いて」
 名雪は、笑いながらそう言うと、二階へと駆け上がっていった。
「変な、名雪‥‥‥」
 秋子だけでなく、祐一も唖然としている。
「ところで、祐一さん。ストールがどうかしたんですか?」
 秋子に言われて、祐一は、はっとした。時間は限られているのだ。無駄に使うわけにはいかない。
「ええ。実は‥‥‥ストールを編みたいんですけど」
 少し、どもりながら祐一は切り出した。
「編むって‥‥‥祐一さんがですか!?」
 秋子にしては珍しく、語尾が跳ね上がるようになっている。
 ものぐさな祐一が編み物を−これは、秋子だけではなく、祐一を知る全ての人間が十中八九、同じ反応をするだろう。多少、口の悪い香里−名雪と祐一のクラスメート。名雪とは親友だ−なら「奇跡以外の何者でもないわね」と言うだろう。ともかく、それだけ珍しい現象なのだ。
「ええ」
 祐一にとって、それは大きな意味を持ったことだ。
「そうは言いますけど‥‥‥編み物って、見かけ以上に大変なんですよ?編むよりは買った方が‥‥‥」
 秋子の言う通りだ。それは祐一にも分かる。
 だけど、他人が作った物では意味がないのだ。祐一が作るからこそ、それは意味を持つ。
「分かってます。でも、どうしても、自分で編みたいんです!」
「‥‥‥分かりました」
 祐一の熱意が届いたのだろう。秋子は了承してくれた。
「けど‥‥‥残念ながら、本は持っていません」
 だが、祐一の期待はその一言で打ち砕かれた。
「無い‥‥‥ですか」
 明らかに落胆しきっている。
「本はないですけど、編み方なら分かりますから、教えて上げます」
 意地悪く微笑んだ秋子の言葉に、祐一は一瞬我を忘れてしまった。
「‥‥‥びっくりさせないで下さいよ。てっきり、秋子さん、分からないのかと思いましたよ」
ぐったりしながら、祐一が抗議する。だが、それとは裏腹に、祐一は改めて、ストールを編むと言うことに想いを馳せる。
(絶対に完成させて、渡すんだ‥‥‥)
ただ、それだけが祐一のやる気の源だ。

-----------------後書き------------------
てなわけで、(謎)おひさおひさで三千里〜♪(謎)な守護雷帝です。
今回は、Kanon栞ちゃんSSです。(一応、「拒否と受理」は栞ちゃんのSSやから)。
アフター第二作(Kanon第三作)と言うことで、連載にしました。別に、何作目かは関係ないけど(笑)。二部か三部構成の予定でさぁ。
内容は‥‥‥展開完全に読めるなぁ〜(笑)。ま、ありきたりと言えばありきたりですわ。ただ、ワイが読んだ中(SSなど)では、このネタは無かったんで書こうと思い立ったんですわ。
続きは‥‥‥いつになるかなぁ〜(笑)。大まかな構成自体は既に完成してるけど、他にもいろいろとやることがあるから‥‥‥。小テスト勉強に別の小説(オリジナル長編四本&他ゲームSS二〜三本)書かなあかんし‥‥‥。それに、実現はともかく、Kanon検定栞ちゃんバージョンの問題づくりを頼まれてしまったし‥‥‥。一体、いつになることやら。
ま、でも、書くには書きますわ。中途半端は嫌やし。
いつになるかわかりまへんが、よろしゅうたのんますわ。それと、感想なんかもよろしゅう〜。

ホームに戻る