あゆあゆの入院生活
1.序
秋子「確かその女の子の名前が……」
その名前を聞いた瞬間、祐一が大声で言う。
祐一「どこの病院ですか!?」
同時に、
名雪「ひっっきゃあああああ〜」
うにゅうにゅとほぼ寝ながらパンを食べていた名雪が大声に驚き叫ぶ。
秋子「あらあら……名雪大丈夫?」
名雪「うにゅ〜びっくりしたよ〜」
祐一「すっすみません、取り乱してしまって」
秋子「ふふっ、良いですよ…解ってましたし」
名雪「なになに?祐一が取り乱したの?」
どうやらはっきり目が覚めたらしい名雪。「祐一が取り乱した」と知り興味津々のようだ。
祐一「なんでもない…それより早く食え。学校に遅れる」
名雪「う〜気になる……」
秋子「まあまあ、帰ってきてから話してあげますよ」
名雪「うん」
祐一「あの…秋子さん…」
秋子「わかってます、祐一さんが良いと言えばです」
祐一「はい、ありがとうございます」
名雪「……祐一、帰ってきたら話してね〜」
祐一「お断りだ」
名雪「うにゅ〜ひどいよ〜話してくれたって良いじゃない〜」
だだをこねる名雪。イスの上でじたばたする。
祐一「嫌だ、ほれ!学校遅れるから先行くぞ!!」
名雪を無視して出ていこうとする。
名雪「待ってぇ〜」
どたどたと玄関へ行き、靴をはきだす2人。そして玄関から出ていく、
が…名雪が表に出た瞬間、秋子さんが
秋子「祐一さん」
と呼び止める。
祐一「はい?何です?」
と振り返る祐一に向かって…
秋子「あゆちゃんはこの町に一件だけある大学病院に入院しています」
微笑んでそう教える。それを聞き、はずかしげに笑って
祐一「ありがとうございます秋子さん。じゃあ行ってきます」
そして玄関から飛び出していく。
玄関の戸が閉まり…名雪と祐一の声が遠ざかり聞こえなくなってから
秋子「ふふっ…家族が1人増えますね。お部屋を用意しておかないと…」
そう言って台所へ戻っていく秋子さん。
秋子「……それとも、祐一さんと同じ部屋が良いですか?あゆちゃん?」
やっぱり秋子さんはすごい人なのかもしれない…
2.学校
名雪「何とか間に合ったね〜」
祐一「そうだな」
予鈴ぎりぎりに教室に入る2人。
香里「……相変わらずね」
北川「……相変わらずね」
っと、声をかけて…
どごっ!!
北川「ひゅるぐ!」
……北川君が壁に貼り付けられた……
香里「気味悪いからやめなさい」
名雪「ものまねしただけなのに」
祐一「破壊力抜群だな……」
香里「……」
名雪「ところで、おはよ〜香里」
祐一「おはよ、香里」
香里「おはよう、名雪、相沢君」
壁に張り付いたままの北川君
香里「そろそろ先生来るわね」
祐一「そうだな、席についとくか」
名雪「うん」
北川「………」
席に着く3人、壁に張り付いたままの北川君
「おい、また北川が張り付いてるぞ」
「まったく、毎日よくやるよな〜」
「仕方ない、助けてやるか……」
とは、クラスメイトの男子諸君
そして、昼休み……
祐一「おっひる!おっひる!おっひるごはん〜」
名雪「お昼ご飯だね〜」
香里「…………」
北川「…………」
祐一「さあ!食堂へ行くぞ!!」
名雪「おお〜」
香里「……」
北川「……」
クラスメイト「…………」
教室を出る名雪と祐一。呆然とする香里と北川とクラスメイトたち。
名雪はいつものこととして、今日の祐一があまりにもおかしかったのだろう。
香里「とりあえず…2人を追いかけないと」
北川「ああ…」
やや自失しながらも2人を追いかけ教室を出ていく香里と北川君。クラスメイトたちは……もう少し時間がかかるようだ。
ここは、食堂。
祐一「ん〜ここの食堂のご飯はうまいな〜」
名雪「うんうん」
にこにこと食事をとる祐一&名雪
香里「相沢君……どうかしたのかしら」
北川「……どこか打ったのか?」
不審げに名雪と祐一を見やる香里&北川
しばらくこのような状況が続き…ついに耐えられなくなった香里が祐一に聞く。
香里「相沢君、なんだか機嫌良さそうだけど何かあったの?」
名雪「あったみたいなんだけど、話してくれないんだよ〜」
祐一「あったけど教えない〜」
北川「何があった…相沢話せ!!」
香里「話したくないんだったらいいけど…いつも通りにしてくれない?」
祐一「ん??俺、変か?」
香里・北川「すごく変だ(よ)!」
名雪「う〜ん…でも楽しいから今のままでも良いと思うな〜」
香里「相沢君お願い…調子狂うからやめて」
北川「頼む、気が変になりそうだ」
祐一「う〜ん、善処はする」
香里「お願いするわ…」
名雪「う〜今のままの祐一で良いと思うんだけど…」
北川「なんか夢に出てきそうだ…」
香里「私も………」
ちなみに、この日の夜香里は一晩中うなされ続け、北川くんは一睡も出来なかったそうだ…
そんなこんなで昼休みは過ぎていった。
3.見舞い
〜放課後〜
祐一「先帰るな〜」
教室を出ようとする祐一。
北川「……どっかいくのか?」
祐一「まあな、ちょっとな」
北川「どこ行くんだ?」
祐一「教えない」
香里「……今日相沢君が変だったことに関係ある?」
祐一「たぶん」
北川「そうか…話せるようになったら話してくれな?」
祐一「考えておく」
香里「楽しみね」
祐一「楽しみにされても困る」
北川「まあ、じゃあまた明日な」
香里「また明日ね」
祐一「おう!」
軽快に走り去っていく祐一。
祐一が去った教室では、
香里「……相沢君がああなった理由にとても興味を持つわね……」
北川「……ああ」
名雪「う〜…私だけ仲間はずれ〜」
やはりいつもと違った祐一の態度に困惑しているクラスメイトたちが居た。
所変わって、大学病院。
祐一は、中央ナースステーションに居た。
祐一「すみません、面会をお願いしたいんですけど……」
看護婦「はい、どなたですか?」
祐一「えっと…今朝意識を取り戻した…」
看護婦「ああっ、ということは…相沢祐一さんですね?」
祐一「はい…そうですが」
看護婦「水瀬さんからお話は伺ってます。面会は可能です。えっと…一般病棟の107号室です。」
祐一「水瀬さんって……秋子さんだよなあ……なんで?」
当然の疑問をつぶやきつつ、107号室へ向かおうとする祐一。
看護婦「相沢さん、面会時間は5時までですから覚えておいてくださいね。それと平日休日問わず11時から5時までなので、これも覚えておいてくださいね?」
祐一「あっ、はい。覚えておきます。それじゃあ失礼します」
看護婦「はい」
と、一般病棟へ向かう祐一。
5分後、祐一は107号室の前で悩んでいた。
ここまで来るには来たが入る勇気が出ないらしい。
祐一「どうしよう」
部屋の前でぐるぐる円を描くように歩く。回りにほかの患者は居ないのだが、他人が見ると非常に滑稽だろう。
その光景を陰からほほえましく見ている人がいる。その人の名前は牧村花梨。
端的に言うと、あゆの担当の看護婦さんである。
祐一「うううう〜」
頭を抱えてしゃがみ込む祐一。どうも調子が狂っているみたいだ。
花梨「あらあら…以外と恥ずかしがり屋さんだったのね」
物陰から祐一の様子をうかがいながらそんな感想を漏らす。祐一のことを知っているらしい。
祐一「………明日にしようかな」
半無き状態でそうつぶやき立ち上がって帰ろうとする。それを見て花梨さんは仕方なくお手伝いをすることにした。
花梨「まだまだ若いですね……」
そうつぶやいて、祐一の方へ近づいていく。
花梨「あら?月宮さんに面会ですか?」
先ほどとはうって変わって看護婦さんの顔で祐一に声をかける。
祐一「あっ…えっと…うんっと…」
花梨「違うんですか?」
優しく声をかける花梨さん。
祐一「……そうです」
恥ずかしげな祐一。
花梨「ではあなたが相沢祐一さんですね?」
祐一「え?はい、俺の名前は相沢祐一ですけど」
どうして自分の名前を知っているのか?という表情になる。
花梨「どうして私があなたの名前を知っているか教えてあげましょうか?」
祐一「解りません…教えてください」
そう言われて花梨さんは満足げに微笑むと、話し出す。人差し指をピッと立てて、
花梨「1番目に、あゆちゃんがけがをしたときに一緒に遊んでいた男の子の名前が相沢祐一君」
祐一「はあ…」
続いて、中指を立てて
花梨「2番目に、あゆちゃんが”相沢祐一くん”を言う人を待つと今朝言ってました。ついでに言うと”大好きな人”なんだそうです」
祐一「ななななっ……」
激しい動揺に見舞われている祐一。花梨さんは薬指を立て、
花梨「最後に、今朝水瀬さんから連絡がありました」
祐一「水瀬さん??………秋子さん!?」
動揺の次は驚愕に見舞われる祐一。
花梨「ふふふ…まあそういうことです」
祐一「いったい……あのひとはなんなんだ?」
先ほどと同じ疑問に再びぶつかる祐一。
花梨「ふふ…で、どうします?」
祐一「…お見舞いしていきます」
腹をくくったらしい。
花梨さんが先に部屋に入る。
コンコン……カチャ
花梨「あゆちゃん、調子はどう?」
あゆ「あっ、牧村さん…うん!元気だよ!」
花梨「そう、それは良いことです。ところで…」
あゆ「なに?牧村さん?」
花梨「あゆちゃんに面会の人が来てるんだけど…」
あゆ「えっ…誰?」
花梨「さあ?誰でしょうね?」
あゆ「うぐぅ…いじわるだよ〜牧村さん」
花梨「ふふっ…私はほかの患者さんを見て回らないといけないのでこの辺で失礼するわね?」
あゆ「うぐ……教えてくれてもいいでしょう?」
花梨「会ってのお楽しみですよ、それじゃあ」
……とそんな会話が聞こえてきて、花梨さんが部屋から出てくる。
祐一「……意地悪ですね」
花梨「悪いことをしている訳じゃありませんからね」
そう言ってにっこりと笑う。
花梨「じゃあ、私はこれで引き上げるから、後はよろしくね?祐一君」
祐一「………はあ……」
ため息とともに返事を返す祐一。
花梨「恋人に会うのにそんなに落ち込むのはやめておいた方がいいですよ?」
祐一「お…おれとあゆはそんなんじゃああありませんよ」
花梨「私は大体のことを知っているつもりです。秋子さんから聞きましたからね……お見舞いに何も持ってきていないんですからキスの一つぐらいはしてあげないとかわいそうですよ?」
祐一「………」
花梨「それじゃあ、がんばってね!!」
っと、胸の前でぐっと拳をつくる花梨さん。
祐一「はひ…がんばりますぅ〜」
”なんだか…ハイテンションな秋子さんと話してるみたいだ”
と呆然とする祐一。それを後目に花梨さんは別の病室へ向かって行ってしまった。
祐一「……とりあえず入るか…」
そして、祐一は再会の扉を開く……
ベッドの脇のいすに座っている祐一。ベッドに寝たまま祐一の方を見るあゆ。
あゆ「………」
祐一「……」
あゆ「うぐぅ……」
祐一「………」
あゆ「………」
祐一「…………見ない間にスリムになったな」
あゆ「うぐぅ……ひどいよ祐一くん」
祐一「冗談だ」
あゆ「……うん」
祐一「見舞に来たぞ」
あゆ「うん」
祐一「見舞の品忘れたけど…」
あゆ「今は食べれないよ…」
祐一「たいやきだったら食べれるだろう?」
あゆ「無理だよ〜」
祐一「そうだな、それに今の時期売ってないしな」
あゆ「うぐぅ……売ってなかったらもってこれないじゃない」
祐一「まあな、冗談だ」
あゆ「相変わらずだね…」
祐一「あゆも相変わらずうぐうぐ言ってるな」
あゆ「うぐ……」
祐一「………」
あゆ「………」
祐一「だあぁ!!」
突然、座ったまま暴れ出す祐一。
あゆ「うぐぅうぐぅ……祐一くんがおかしくなったぁ〜」
祐一「あ゛あ゛あ゛〜」
あゆ「うぐぅ……祐一くん……看護婦さん呼んであげようか?」
祐一「…………いや、いらない」
あゆ「でも……変だし」
祐一「真剣に言いたいんだけどなぜか冗談ばかり言ってしまうことにちょっといらついてただけだ」
あゆ「真剣に??」
大きく深呼吸をする祐一。それをじっと眺めるあゆ。そして、
祐一「あゆ……7年ぶりだな…」
あゆ「……うん」
祐一「でも今年の冬会ってるんだよな?」
あゆ「うん、覚えてる」 祐一「俺は……ずっとおまえのことを…心の奥に…」
あゆ「うん…知ってる」
祐一「何を言って良いか解らないから先に言いたいことを言っておく」
あゆ「うん」
祐一「意識を取り戻したばっかりで悪いんだが…俺はあゆのことが好きだ」
あゆ「うん…」
祐一「だから、毎日ここに来ても良いか?」
あゆ「うん」
祐一「学校が休みの日は朝から来て食事も俺が食わせてやる」
あゆ「うん」
祐一「元気になったら、いろんなところへ行こうな?」
あゆ「うん」
祐一「冬にはたい焼き食おうな?」
あゆ「うん」
祐一「ずっと一緒にいてくれよな?」
あゆ「うん」
祐一「”うん”以外になんか言ってくれよ…」
あゆ「………うぐぅ…ボクも…」
祐一「………」
あゆ「祐一くんのこと…大好きだよ」
2人ともそこで黙ってしまう。
その間部屋に響くのは春の歌、窓から入ってくるのは春の光。
祐一「さて……後先が逆になったが…」
あゆ「後先?」
春と言えば…
出会いの季節
祐一「おかえり、あゆ」
あゆ「うん!ただいま!!祐一くん」
祐一「そうだ……見舞いの品、思いついた」
あゆ「なになに?なにかくれるの?」
祐一「良いものをやろう」
あゆ「なに?……え!?」
あゆの顔にゆっくりと祐一の顔が近づいてゆき…
1分ぐらいの長いキスを交わす。
あゆ「うぐぅ……どきどきするよ……」
祐一「………」
あゆ「いきなりなんてひどよ!」
祐一「俺の…ファーストキスだ……文句あるか?」
あゆ「うぐぅ……ボクもそうだよ〜」
祐一「なかなか良かっただろ?」
あゆ「………」
祐一「見舞いの品としちゃあ最高だろ?」
あゆ「うん、とってもうれしいよ……これでボクたちも”恋人同士”なんだね」
祐一「ばっ……ばか!はっきり言うな!!恥ずかしいだろう!!!」
あゆ「うぐぅ…ボクは恥ずかしくないよ」
祐一「こっちが恥ずかしい!!」
あゆ「うぐぅ……」
一方、部屋の外では……
花梨「ふふっ……やりましたね祐一さん」
花梨さんが…聴診器を壁にあて、聞き耳を立てていた……2人の会話は筒抜けだった……
花梨「るん!じゃあ秋子に知らせてあげないとね〜」
と、スキップでその場を去っていった。
花梨「あの子こういうのって大好きだから……」
ちょっとした疑問を残しつつ……次話へ………
おひさしぶりです〜
いかがでしたでしょうか?「あゆあゆの入院生活」
相変わらず読みにくい文章ですけど(;;)
どうやらこいつも続き物になってしまいそうな雰囲気です……
さてさて、何となくラブラブな話を書きたくなって勢いで書いてしまった
この作品、純情一色で行きたかったのですが…書いてみたら
かなりコメディなお話になってしまいました(爆
”私には純愛だけの話は書けないのか?”と少々悩んでいます
まあそれはそれで良いのですけど(^^;;
私のSSが読んでくださった方々のストレス解消とまでは言いませんが、
少しだけでもなごんでくれたら良いなぁ〜と思っています
それでは………
2000.3.12. 時の孤児 拝