INFORMAL PROMISE

 1. 交わされた約束は氷に閉ざされて

1人の女性が墓石の前で手を合わせている。
まるで何かを願うように・・
しばらくして女性は呟く、
「あなた・・・私たちは元気にしています。あの子も素直に育ってくれています。何も心配しなくてもいいですからね・・・何も・・」
彼女の合わせられた手は、そのとき微かに震えていた。
そして、小さく何かに耐えるように、悲しみを無理矢理押し込めるように、呻いて立ち上がる。そのまま少しの間ためらうように動かずにいる。

少しして、振り向いて墓石から立ち去ろうとした女性は、目の前に男の子がいるのに気がついて少し驚く。その男の子は、自分の娘のいとこで娘と同い年の男の子だった。
次の瞬間、彼女はその男の子の言葉にに驚かされる。
「本当は悲しくて寂しいんでしょ?」
何も言えずに固まる女性に男の子は続けて言う。
「お母さんが言ってた・・悲しいときは泣けばいいって、寂しいときは誰かと
一緒にいればいいって・・・」
我に返った女性は男の子に諭すように言う。
「私は全然寂しくなんかないわよ?」
彼女は気づいただろうか?自分の表情にほんの少しの翳りがあったことを。
だが、男の子はそれを見逃さずに、
「おばさん、うそつき・・・・」
それを聞いて女性は男の子の頭をなでながらしばらく黙りこみ、男の子は黙ったまま女性の方を見ている。男の子の頭を何十回かなでた後、呟くように、
「少しだけ寂しいわね」
すかさず男の子が聞いてくる。
「どうして寂しいの?」
純粋に心配そうに女性の目を見つめてくる男の子、女性は少し悩んでからこの話題を終わらせようとした。なでていた手を離して、
「心配しなくて良いわよ、私は大丈夫だから・・・ね?」
男の子はそれで納得したようで、家に帰ろうと言う。同意した女性は帰ろうとするがそこで呼び止められる。
「寂しくなったらいつでも言ってね?ずっと一緒にいててあげるし、お婿さんにもなんでもなってあげるから・・・」
男の子の真剣な眼差しを見て、女性は少しうれしくなると同時にちょっとした意地悪を思いつく。
「じゃあ一人前になったら私を迎えに来てくれる?」
「うん!絶対に行く!!」
男の子の困惑する顔を見たかった女性は、即答されてあっけにとられる。
「絶対にだよ?待ってよ?」
「ええ・・・待ってます」
男の子も本気ではないだろうと冗談のつもりでOKする女性。
彼女は心の中で思う、

 ”今日のことを覚えてて、その気持ちが嘘じゃなくて、立派な男の人になったとき、そのときは・・・・約束ですよ祐一さん”





 2.凍った約束は陽に照らされて・・・・

とある町の一軒家、その一室で彼女は眠っている。
そこは彼女・・・水瀬秋子・・・の家
そして男の子は今、故あって彼女の家に居る。
今日は日曜日。
準備は整った、残るは思い出すこと・・・・

やわらかく差し込む朝の光が彼女の体を照らし出す。
光は足下から少しずつ顔の方へと広がってゆき、ついに顔を照らす。
彼女は目覚めない。
それでも光は照らし続ける・・・・どれくらいたったか
おそらくは長い時間ではなかったであろうけれど・・・
彼女は目覚めた。上半身を起こしたままで何かを考えている。
「祐一さんは約束を覚えてくれているでしょうか。私は・・・・」

ずっと昔に凍った小さな約束は、今、陽の光に照らされて甦る。



第2話へ・・・・

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