INFORMAL PROMISE 4

 

 5.その花の…

名雪「ただいま〜」
祐一「ただいま帰りました」
玄関から2人の声がしてくる。少しして、2人ともリビングに顔をだす。
名雪「ただいま!お母さん」
祐一「ただいま」
秋子「お帰りなさい、名雪、祐一さん」
台所から声をかける秋子さんは昼食を作っている最中。

今日は土曜日、だから学校は午前中で終わり。

名雪「お母さん、ご飯は?」
そわそわ聞く。どうやら朝ご飯は食べれなかったらしい。
秋子「もうすぐできますから、着替えてきなさい」
名雪「はぁ〜い!」
祐一「はい」
そう言って、2人は自分の部屋に戻る。少しして、階段を下りる音がしてくる。

名雪「お母さん、手伝うよ」
秋子「あら?もう着替えたのね…じゃあ、お皿を出しておいてくれるかしら?」
名雪「うんっ」
ちなみに、名雪が上がって降りてくるまで約1分。
手早くお皿を並べていく名雪、かなり空腹らしい。
名雪「並べたよっ!」
秋子「じゃあ盛りつけしますから、手伝ってください」
名雪「うんっ!」
盛りつけを始める2人。そこでリビングのドアが開き祐一が入ってくる。自分より早く降りてきている名雪を見て、祐一が聞く。
祐一「名雪……どうしたらそんなに早く着替えられるんだ?」
どうやら祐一も早いと思ったらしい。
名雪「乙女の成せる技だよ」
祐一「………乙女なんか関係ないと思うんだが?」
名雪「普通だと思うよ?」
祐一「……いや……早すぎる」
名雪「全然早くないよ」
祐一「いや……絶対……」
そのまま言い合いになりそうな雰囲気だったが、昼食の盛りつけが終わり、
秋子「さあ、準備できましたから食べましょうか」
と言われ、名雪がさっさと席についてしまったのでそこでとぎれてしまった。

名雪「いっただっきまぁ〜っす」
祐一「いただきます」
秋子「はい、じゃあ私も…いただきます」
ぱくぱくぱくぱく…
名雪「うぐっ!?うぐぐぐぐぐ??」
のどに詰まらせる名雪。
祐一「……急いで食うからだ」
秋子「あらあら…お水入れてきますから…」
ぱたぱたと台所へ行く秋子さん。水をいれたコップをもってくる。
名雪「んぐんぐんぐ…」
祐一「大丈夫か?」
名雪「……ん…うん、大丈夫」
秋子「気をつけなさいね?」
名雪「うん、気をつけるよ」
がつがつがつがつ……
祐一「いったそばから…」
秋子「あらあら…」
名雪「っっっ!?ん〜ん〜〜〜!!!」
秋子「はいはい…ちょっとまってなさいね」
また、ぱたぱたと水を入れに行く秋子さん。
祐一「あと2〜3回続きそうだな……」

祐一くんおしい!後4回続きました……

−昼食中−

食事が終わって……
祐一「ごちそうさまでした」
名雪「ごちそうさま〜」
秋子「はい、おそまつさまでした」
ほぼ3人同時に食べ終わった。
名雪「おなかいっぱい〜」
イスの上で少したれ気味の名雪。
祐一「しかしよく食べたな」
呆れたように名雪を見ながら言う。
名雪「うん、おなかすいてたから」
そう話しながらお皿を片づけていく。台所では、すでに秋子さんがお皿を洗い出している。

名雪「お母さん、手伝うよ〜」
秋子「じゃあ、これお願いね」
名雪「うん」
親子そろって後かたづけ、それを見ていた祐一は自分ができないことは無いかときょろきょろあたりを見回す。が、
名雪「くつろいででいいよ」
秋子「ゆっくりしててください」
と言われ、仕方なくリビングでテレビを見ることにする祐一。

ソファーに座った瞬間、台所から名雪の声が聞こえてくる。
名雪「あれ?お母さん、このお花どうしたの?」
それとほぼ同時に”ガシャ”っとお皿のぶつかる音がする。祐一はというと、座ったままの状態で固まっていた。
秋子「え?あっ、ああ…お花ですね…」
少々同様気味の秋子さん。
名雪「うん、お花…どうしたの?もらったの?」
秋子「あっ、ええ、そう!頂いたのよ…」
名雪「誰に?」
秋子「しっ…仕事先でね?」
なぜか疑問形の秋子さん。
名雪「ふうん…そうなんだ……」
花のことはそれ以上の興味が沸かなかった名雪は別の話をしだした。秋子さんは名雪の会話の相手をしながら、祐一はソファーに深く座ったままそれぞれ昨日のことを思い出していた……


 6.花言葉は…

− 金曜日 夕方 −

 祐一「…ただいま…かえりました…」
いつもとは違って、遠慮がちな声で自分の帰りを知らせる祐一。
名雪はクラブがあってまだ帰ってこない。
秋子さんは…夕飯の準備中。
秋子「あら?お帰りなさい祐一さん」
台所からぱたぱたとスリッパをならしながらこちらへ来る秋子さん。祐一の様子がいつもと違うようなので、
秋子「祐一さん……何かあったんですか?それとも体の…」
と聞いてくる。でも祐一は何も言わない。ややあって、秋子さんが”それ”に気づく、
秋子「祐一さん…その手に持ってるのは…何ですか?」
祐一「はあ…鞄ですけど…」
どうやらボケたつもりらしいが、
秋子「鞄を持っているのとは反対の手の方に持っているものです…何ですか?」
冷静に聞き直され、正直に答えざるを得なくなった祐一。鞄を床に置き、もう片方の手で持っていたものを前に出す。

秋子さんの目の前に現れたのは…花束。
秋子「…花束?」
混乱気味の秋子さん。
祐一「ええ…花束です」
相づちを打つ祐一。
秋子「スミレですね…」
祐一「はい…スミレです」
続いて、
秋子「きれいな紫色ですね…」
祐一「そうですね」
2人ともそれから無言になった。

秋子「そのお花は何のために?」
落ち着いた秋子さんが、普通思いつくであろう質問をする。答えるべき祐一は何も言わずただ秋子さんの方を見ている。
秋子「あの…祐一さん?」
祐一「えっと…その…」
秋子「……」
秋子さんは祐一の次の言葉を待っている。祐一は恥ずかしげにしながら…

祐一「あの…秋子さん」
秋子「はい」
祐一「その……この花束なんですが…」
秋子「はい」
祐一「受け取ってもらえませんか?」
そういって、秋子さんの目の前に花束を突き出す。
秋子「はい!」
その花束をためらわずに手に取る秋子さん。
祐一「…………え?」
あっさりと受け取ってくれたので呆然としている祐一。

それをよそに秋子さんはうれしそうである。
秋子「ありがとうございます、お部屋に飾らせていただきますね!」
その表情は、自分の一番欲しかったものが親からプレゼントされたときの子供の表情のように思え、また好きな人から結婚指輪を贈られた女性の表情にも思えた。
祐一「そういっていただけると…うれしいです」
秋子「でもお花が少し多めのようですね…分けて台所にも…」
祐一「そうですね」
秋子「……」
祐一「……」
秋子「どうしてこのお花を?今日は特別なことは何もないはずですけど?」
祐一「……わかりませんか?」
わかっていて欲しいと言いたげな口調で聞き返す祐一。
秋子「なんとなく予想はできますが、予想ですから間違ってるかも知れません」

祐一「じゃあ、答えを…」
秋子「ええ、聞きたいです」
祐一「少しの間だけ俺の話を聞いてください、すぐに終わりますから」
秋子「ええ、聞かせていただきます」
祐一「紫色のスミレの花言葉は知っていますか?」
秋子「はい、知っています」
祐一「それが、今のオレが秋子さんに対して持っている偽りのない想いです」
秋子「………はい」
祐一「昔、秋子さんのそばにいると約束しました…でもあれ以来この街に来なくなって…約束を忘れてしまって…そしてまたここへ戻ってきて秋子さんや名雪と一緒に住むことになって、約束を思い出して…」
秋子「…はい」
祐一「それでいろいろ考えて…ずっと一緒にいたいと思っていることに…秋子さんのことが好きなことに気づいて…でも、結婚とかはそう言う法律があってできませんし、周りの人に対しての事も考えてみて…」
秋子「…………」
祐一「この想いは外には出さないことに決めました……」
秋子「そう…ですか…」
祐一「でも、約束を破ることはできないです…だから……」
秋子「だから?」
祐一「この街から離れる事はしません。それと、これから毎年、この花を贈ります。俺の想いが変わらないことを知ってもらうために。寂しい想いをさせないために…」
答え終えた祐一は口を閉ざす。

帰ってきた返事は……

秋子「うれしいです…ありがとうございます祐一さん」
口調はいつもの秋子さんのものだったが、はっきりとわかる涙声。
それを見た祐一は動揺気味に、
祐一「オレができるのはこれぐらいのことしか……」
秋子「………これで……十分です…」
祐一「ははは……」

それから秋子さんが落ち着くまでの間、祐一はその場を動かず、秋子さんを見つめていた。やがて、

秋子「今日は…記念日です」
祐一「記念日?」
秋子「はい、私達しか知らない、私達だけの、私たちのための記念日です」
祐一「非公式の結婚記念日…ですね」
秋子「ええ…」
祐一「お祝いしてくれる人…いませんね」
秋子「そうですね…仲人さんもませんね」
祐一「……誓いの言葉もないですね」
秋子「披露宴も……」
祐一「でも、オレは幸せです」
秋子「はい、私も幸せですから…」

これが……台所にあった花の由来……

そして、その花言葉は……

”密かな愛”


vol5へ…


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 なんとかここまで来ることができました……
「INFORMAL PROMISE 4 」公開いたします。

 もともとこの話の展開は決めていました。
 なんというか、こういう純愛系なお話が好きなもので(^^;;

 これを読んでなんとなく”ほんわか”していだだければなぁ〜と
思っています
 それでは……

      2000 2/4                 時の孤児 拝
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