彼が消えた日、彼女が消えた日
俺は広瀬拓。
俺には好きな人がいた。
彼女の名前は立野棗。昔からの幼馴染だ。
ある日彼女に告白した。
その瞬間、彼女は目の前から消えてしまった。
彼女がYes.と答えた瞬間に……
わたしは立野棗。
わたしには好きな人がいた。
彼の名前は広瀬拓。昔からの幼馴染。
ある日彼に告白された。
その瞬間、彼は目の前から消えてしまった。
彼にYes.と答えた瞬間に……
俺は棗を探した。
どこかに彼女の気配が残っているはずだと信じて……
手始めに棗の家に行ってみた。
驚いたことに、そこだけぽっかり穴が開いたように……家が消えていた。
学校に行って、棗を知っている奴に手当たり次第に聞いてみた。
「棗、どこに言ったか知らないか?」
「え? 誰がどこに行ったって?」
「棗だよ、棗。立野棗……」
「ちゃんと言ってくれよ。さっきから口をパクパクさせてるだけじゃんか」
「え?………」
皆同じようなことを言う。
どうやら、俺以外から、
立野棗という存在、
それを醸し出すもの全てが、
ぽっかりと抜け落ちてしまったようだ。
立野棗という単語そのものが誰の耳にも届かなくなってしまった……
そんな感じだった。
わたしは拓を探した。
どこかに彼の気配が残っているはずだと信じて……
手始めに拓の家に行ってみた。
驚いたことに、そこだけぽっかり穴が開いたように……家が消えていた。
学校に行って、拓を知っている人に手当たり次第に聞いてみた。
「拓、どこに行ったか知らない?」
「え? 誰がどこに行ったって?」
「拓よ、拓。広瀬拓……」
「棗、口をパクパクさせてるだけじゃわかんないよ」
「え?………」
皆同じようなことを言う。
どうやら、わたし以外から、
広瀬拓という存在、
それを醸し出すもの全てが、
ぽっかりと抜け落ちてしまったようだ。
広瀬拓という単語そのものが誰の耳にも届かなくなってしまった……
そんな感じだった。
誰も彼もが忘れてしまった……
こんなにも好きなのに彼女はもういない。
彼女だけが抜け落ちた世界……
こんなにも好きなのに彼はもういない。
彼だけが抜け落ちた世界……
どうしてだろう?
どうしてなのかな?
静寂が俺を傷付けた。
時折、彼女のことは全て夢だったのではないかと思ってしまうことがある。
もういない棗を待つのは無意味なことだ。
もう、傷付きたくない……
あきらめてしまおうか?
忘れてしまおうか?
彼女を……
彼女を好きだということを……
静寂がわたしを傷付けた。
時折、彼のことは全て夢だったのではないかと思ってしまうことがある。
もういない拓を待つのは無意味なことじゃないかって思う。
もう、傷付きたくなかった……
あきらめてしまおうか?
忘れてしまおうか?
彼を……
彼を好きだということを……
忘れる?
忘れてしまえるほど棗への想いは軽いものだったのか?
違う! そうじゃない!
忘れることは…逃げること……
結局、俺は自分が大切なだけだ。
棗を好きだという気持ちを偽物にはしたくない。
俺は彼女を大切にしたい……
自分以上に……
たとえ俺が傷付いても……
忘れる?
忘れてしまえるほど拓への想いは軽いものだったのかしら?
違う! そうじゃない!
忘れることは…逃げること……
結局、わたしは自分が大切なだけだ。
拓を好きだという気持ちを偽物にはしたくないよ。
わたしは彼を大切にしたい……
自分以上に……
たとえわたしが傷付いたとしても……
気付いたら、二人は……向かい合って立っていた。
拓が棗に告白した場所に。
「あれ?」
「あれ?」
二人は虚をつかれたようにお互いを見つめる。
「…夢か?」
「…夢だったのかな?」
再び見つめあう。
「あのさ、お前も……?」
「うん、拓がいなくなる夢を見た。」
「そっか……」
「うん……」
しばらくの沈黙……
「あのさ…」
「うん?」
「ごめん」
「どうして?」
「俺、お前がいなくなって……お前のことあきらめて、忘れようって思っちまった」
「それなら…わたしだって、同じよ……ごめんなさい」
「結局、自分のことの方が大切だったんだ」
「うん。でも……今は、違う…そうだよね?」
「ああ」
「今はお前の方が大切だから」「今はあなたのほうが大切だから」
同時に言い合った二人は、互いに笑いあう。
あの一時の白昼夢が、なんだったか結局はわからなかった。
しかし、それはもうどうでもいいことで……
二人は、好きだという感情が本当はどんなものかわかった気がして……
それがあればもう十分だった。
「じゃあ、改めて」
「うん」
二人は照れ合いながら、再びスタートを切る。
「好きだ、棗」
「わたしも、拓のこと好きだよ」
Fin