こうして奇跡は・・・
私には香里と言う名前のお姉ちゃんがいます。
綺麗で頭がいい、自慢の、大好きなお姉ちゃん。
私には夢がありました。
お姉ちゃんと同じ学校に通って、中庭で一緒にお弁当を食べる……
他愛のない夢。
でも、私には叶えられない夢でした。
私は体が弱くて、入院ばかりしていました。
だから薄々気づいてはいましたが、去年のクリスマスの日にお姉ちゃんに聞きました。
『私の病気は治るの?』と……………
*
妹の栞は体が弱くて、入院ばかりしていた。
でも、そんなに酷くはないだろうと思っていた。
だから、医者に栞が次の誕生日までの命だと言われた時はショックだった。
私は悲しくて、
大好きな妹がいなくなってしまう………
栞に病気のことを聞かれた時、私は……………
自分の中にしまっておくにはあまりにも悲しくて、
自分が傷付くのが嫌で……
自分の事しか考えていない残酷な………決断に至った。
どうせ死ぬんでしょ?
教えてやればいいのよ。
それなら、それまでしたいことを出来るじゃない。
身勝手な、悪魔のささやきが、
私の中のどす黒い部分が、
そう、ささやいた。
気づいた時には、
『あなたは次の誕生日まで生きられない』
そう言っていた。
私は弱い。
自分が傷付くのが嫌で、
栞に本当のことを言ってしまった。
それだけじゃない、
どうせいなくなってしまうのなら、
栞なんて、妹なんて初めからいなかった事にしてしまえばいい……
そう思えば楽になれるから……
再び悪魔のささやきが聞こえて、
私はそれに従って…………
また栞を傷つける。
*
お姉ちゃんの言葉は、悲しかったけれども、それより、ああやっぱりな、という気持ちの方が大きかったです。
そして同時にお姉ちゃんに悪いことをしたと思いました。
お姉ちゃんは辛かった筈なのに、
言いたくなかった筈なのに、
私は無理に聞いてしまった。
だから………
お姉ちゃんに嫌われてしまった。
それは、悲しかったけど、仕方ないと思いました。
それからお姉ちゃんとは話していません。
私は残された時間を何をすることもなく、何をすることも出来ず、ただ一つの夢を叶えることも出来ず………ただただ過ごすだけだった。
気がかりなのはお姉ちゃんのことだけでした。
お姉ちゃんは優しいから、私のことで傷付いているかもしれない。
思い上がりかも知れないけれども、そう思うと辛くて……
だから、お姉ちゃんがこれ以上傷付かないように、
どうせ死んでしまうのならと思って……
私は自殺することにしました。
お姉ちゃんのたった一つのプレゼントだったストールを羽織って、滅多に出ない町に出て、色々なものでごまかしながらカッターナイフを買いました。
その帰り道です。
あの二人に出会ったのは。
楽しそうでした。
家に帰って、カッターナイフで左腕に刃を立てました。
赤い筋が一筋。
その時あの二人の笑い声が聞こえて……
なんだか自分が惨めになって、
つられて自分も笑って、
久しぶりに笑って、
涙が出て、
自分が悲しいことに気づいて………
そこに死にたくない自分がいた。
あの時会った二人は、祐一さんとあゆさんと言う名前で、
祐一さんと会ううちに好きになって……
*
相沢君に栞のことを聞かれた時、内心ドキリとした。
相沢君が栞のことを知っていたからではなく、
栞のことを思い出してしまったから。
妹なんていないと、硬く凍らせた栞への思いがゆっくりと解け始めたから。
『私に妹なんていないわ』
自分に言い聞かせるように私は言っていた。
栞は相沢君のことが好きで、相沢君も栞のことが好きだと言った。
相沢君は、私にとって都合が悪かった。
栞のことを思い出させる。
私は傷付きたくなかった。
だから……壊してしまおうと、相沢君に真実を告げようと思った。
悪魔のささやきがまた聞こえたのだ。
私は自分の弱さが嫌になった。
でも悪魔のささやきは聞こえて……
『話があるの………』
『妹のこと……』
私のささやかな抵抗。
これ以上自分の弱さのせいで誰かを傷つけるのは嫌だった。
だから、自分が傷付くのを承知で、栞の存在を認めることにした。
悲しみを抑えられなくて、泣いてしまったけれども、それでいいと思った。
相沢君は強いと思った。
本当の事を知っても、栞を避けるようなことはしなかった。
私はそこまで強くなくて、
でも、少しずつなら出来る……そう信じて。
『私の妹なんだから』
*
お姉ちゃんと久しぶりに話をしました。
うれしかったです。
ドラマでは『これでもう思い残すことはない』なんていいますが、私はその逆で、もっとお姉ちゃんといたくて、
死にたくなくて………
*
栞が病院に運ばれた。私は必死に祈った。死なないで、あなたは私のたった一人の妹なんだから、と。
栞は、死ななかった。
病院に運ばれた時は、昏睡状態で、医者も、手遅れかもしれないと言っていた。
でも、栞は生きていた。
そして、無事退院したのだ。
奇跡。
そう、まさに奇跡だ。
*
*
「栞早くしないと遅刻するわよ」
「わっ、わっ、お姉ちゃんまってよ!」
先に走る香里を、あとから必死に栞が追いかける。
「そんなにたくさんお弁当作るから遅くなるのよ」
「お姉ちゃんも楽しそうに作ってたよ」
「……もっと速く走らないと遅刻するわよ」
「わっ、わっ、ごまかさないでよー」
桜の舞う中を仲のいい姉妹が駆けて行く。
こうして奇跡は舞い降りた。
これもまた一つの奇跡…………
Fin
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今回はえらく難産でした。
自分として納得のいかない解釈もあるし……
僕は、真琴、美坂姉妹、舞アンド佐祐理属性と言う、多属性な奴ですが、
やはり、美坂姉妹が一番です。
ストーリー的、キャラクター的にも大好きです。
これを読んでくださった方にも奇跡が舞い降りますように。