拒否と受理
栞が帰ってきた。なぜか嬉しそうだ。
夜遅く帰ってきたのに、幸せいっぱいでそんなことを気にもかけていないようだ。
(・・・別にいいじゃない。このコが何をしていようと。私には関係ない。だって・・・)
なぜか、それ以上考えることが出来ない。いつもなら出来たのに。
実際、栞を妹として認識しないようにしてからは、あまり栞の行動などを気にかけないようになっていた。
自分は一人っ子で、妹なんていない。そう自分に言い聞かせてきた。
でも、栞はそんな私を今でも姉として扱っている。私が無視をしても、その接し方は変わらなかった。
栞は始終笑顔だった。たとえ私がどんな態度をとったとしても。
だから、私にはその笑顔が辛かった。
頭では妹として考えていなくても、心のどこかではやっぱり妹として考えているのかもしれない。
でも、今更姉として接することは出来ない。
だから・・・
「あっ・・・お姉ちゃん、ただいま」
一瞬とまどったものの、笑顔で挨拶をした栞の顔をまともに見ることが出来なかった。
いたたまれなくて、そのまま二階の自分の部屋に向かった。
「お姉ちゃん・・・」
栞の、そんな悲しげなつぶやきが聞こえた。でも、私にはどうすることもできない。
心が締め付けられるようだった。部屋に戻ると、なぜか涙があふれてきた。
(何で・・?どうして・・・?)
想いが思考にならない。意味不明な言葉が頭を駆けめぐるだけ。
涙と、自らの想いを隠すために、香里はベットに潜り込み、そのまま眠りに落ちた。
自らの、整理しきれない想いを抱いたまま。
この頃の相沢君はなぜかおかしい。
転校してからは一緒にお昼ご飯を食べていたけど、近頃、1人でどこかへ行くことが多くなった。
そして、今日もまたおかしい。どこがどうとは言えないけど、やっぱりおかしい。
なぜか、嬉しそうだ。でも、すぐにその理由が分かった。
栞が教室に来たのだ。
栞が学校に来ていること自体が驚きだったけど、それ以上に驚いたのは、朝早くから栞が台所に立っていたわけが相沢君のためにお弁当を作っていたということだ。
栞が台所にいたので、私は朝御飯を食べてないですぐに学校に行った。
栞と顔を合わせたくなかったからだ。
(相沢君のために作ったのね・・・)
このことで、昨日栞が嬉しそうに帰ってきたのも、朝早く台所にいたのも、学校に来ていたのも、相沢君が嬉しそうにしていたのも、全て納得がいった。
でも、
(本当にいいの?あのコは・・・)
無言の問いかけ。相沢祐一と言う自分の妹を真に輝かせることの出来た少年への。
答えが返ってくるはずはない。でも、祐一と目が合ったとき、確かに聞こえた。
“それでも構わない”と─。
そのとき、香里は悟った。自分がいかに醜い存在なのかということを。
そして、いかに妹が輝いている存在なのかと言うことを。
ただ、それについて何も思いはしないし、何もいわない。
(だって、私にはそんなことする権利はないもの)
妹を救えなかった自分。妹を絶望の淵へ追いやってしまった自分。
自分という存在は決して許されぬ罪を犯してしまったのだから。
「香里、もう少し姉貴らしくしてやれよ」
相沢君から突然そう言われたときはびっくりした。何で、そんなことを言うのかと。
「何で・・・?」
私は平静を装ってそう聞き返した。
「何で・・って栞と香里は姉妹だろ。このままじゃ栞がかわいそうだぞ?栞の奴、言ってたよ。自分はお姉ちゃんに嫌われるくらい馬鹿だから、って」
「・・・」
「お前が栞をいないことにしたかった気持ちは分からないでもない。でもな、あいつはそう言う風に思えなかったんだ。お前だって、ホントはそうなんじゃないのか?じゃなきゃ、栞のことを俺に教えたりはしないだろう?」
「・・・」
私は答えるべき言葉を見つけられず、その場を後にした。
相沢君の声が聞こえたような気がしたけど、そんなのに注意を払えないほど、私の頭の中で、相沢君の言葉がこだましていた。
(栞を拒否していた私にそんな権利があるの・・・?)
栞が自分を拒否していないことは分かってた。
自分が酷い態度をとっても、栞はいつも笑顔で声をかけていたから。
だからこそ、よけいに辛くて。
だから、よけいに否定していって。
そうしないと、栞がいなくなったときに、悲しい思いをしてしまうから。
いままで、大切に思ってきた栞が消えてしまったら。
それがイヤで拒否してきたのに。
(あなたは本当にいいの?栞はすぐに死んでしまうのよ?いくら愛したって、その想いはすぐにあのコには届かなくなるのよ?それなのに、何であのコを受け入れられるの?)
自分には決して出来ない事。
それを相沢祐一という少年はやっている。
どうしてそんなことが出来るのか、私は分からなかった。
私の中で、相沢君の言葉がこだまして、そのことを考えてるうちに、夕飯の時間になった。
私が食堂に降りていくと、両親と栞がいた。
いつもなら、ここで母に声をかけて、夕飯を自分の部屋に持っていって食べる。
けど、今日は違った。久しぶりに、家族と食べるのも悪くないかなと思った。
「今日は私もここで食べるわ」
そう切り出すと、母は驚きを見せ、栞は嬉しそうな顔をした。父は何の反応も見せなかったが。
食事中、栞は相沢君の話ばかりしていた。
朝会ったときのこと。お昼を一緒に食べたときのこと。放課後、一緒に商店街へ行ったときのこと。
話している間中、栞は笑顔を絶やさなかった。
今までの、演技じみた笑顔ではない、本当に楽しいときの笑顔を。
(このコがこんな笑顔でいるの・・・ひさしぶりに見たわね)
自分に向けられていた笑顔が、どこか演技じみた物だったのを、今更ながらに感じた。
食事中、私は始終無言だった。
相沢君の言ったことや、栞の話、栞の笑顔と言った物が、頭の中をぐるぐると回っていた。
夕食を早めに終わらせ、私は部屋に戻った。
ベットに潜り込むと、睡魔がおそってきて、私はいつの間にか眠っていた。
今日は名雪に連れられて、商店街の百花屋に来ていた。
そこには、相沢君と栞がいた。私は、すぐに帰ろうとしたけど、相沢君に呼ばれて、名雪もそれに応じた上に、私を引っ張っていく。
仕方なく、私も同席することにした。
栞は始終笑顔を絶やさずにいた。家にいるときとは違った栞の姿を見て、少し驚いた。
本当に楽しそうにしている。家で相沢君の話をしているときよりも、もっといい笑顔だった。
その笑顔を見て、相沢君の言ったことがよく分かった。
確かに、栞は無理をしてた。
自分が素直に栞が笑えないようにしていた。これでは、栞がかわいそうだ。
だから・・・
「どうでもよくないわよ。栞は・・・私の妹なんだから」
そう言うことが出来る。
たとえ、すぐに死んでしまうとしても、今は栞に、
精一杯笑っていて欲しいから・・・。
精一杯輝いていて欲しいから・・・。
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どもー。こんちわ〜〜。守護雷帝でっす!!
いかがでしたでしょうか?第二作品目<拒否と受理>。
こいつは、香里お姉さんの視点でやってます。・・・そのはずです(笑)。
原作では、突然に商店街で妹だと言ってるんで、何でそう言う風になったのかな?と言う疑問点から書いた物です。
恐らく、今まで拒否していたのを受け入れるのは並大抵のことではなかったと思います。
飽くなき葛藤との戦いの末に受け入れたんでしょう。
しかし、ただ単に自分の中での葛藤で決着が付くのか?
外部からの干渉がなければ何も起こらなかったのではないか?
じゃあ、相沢君に干渉させよう、と思って相沢君のあの台詞を入れたんです。
栞ちゃんにとって、今一番身近にいる相沢君。
その言葉だったら、下手に無視できないし、重みがあるのではないかな?と思ったんです。
相沢君の言葉の重みと、香里お姉さんの心の葛藤がうまく皆様に伝わればいいな?と思う今日この頃(笑)。
さて、実はこの作品、前作の<奇跡の意味>からわずか一日しか経っておりません(笑)。
しかも、前作のあとがきで、「次の構想は考えることを放棄しています」と断言しておきながら、翌日には既に書きあがってます(笑)。
いやー、前作をチャットで知り合った方々に見せたら、まあまあの評価をいただいて、調子に乗って書き上げてしまったんです(爆)。
まあ、アイデア自体はあったんですよ。
まだ文章に出来る状態ではなかったんですが。
それに、皆様の反応が何となく怖かったんで・・・(笑)。
まあ、前作同様、お叱りのメールなんかをいただければ幸いです。
それでは、次の作品がいつになるかは分かりませんが、書こうとは思ってるんで、書いたときはよろしくお願いいたします。
ごっきげんよーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
作成日 10/31 執筆 守護雷帝