ものみの丘で・・・
いつからだろう…
俺は学校が終わるとものみの丘に行くようになった。
やはりあきらめきれないんだと思う…
それは、弱さなのかもしれない…
でも、やはり割り切れないのだ……
真琴がいなくなってもう一ヶ月。
春はもうすぐそこだった。
『春が来て、ずっと春だったらいいのに…』
そう真琴は言っていた。
真琴らしい無邪気で我儘な願いだ……
でも、それがとてつもなく愛しくて……
丘に言っても何をするとでもなく…
眼下の街を見下ろしたり、
草の上に寝転んだり…
たいしたこともせずに過ごすだけ。
散歩のコースなのか、たまにぴろの姿を見ることもある。
一人で丘に座って俺は待っている。
何を?
そして願っている。
何を?
真琴が帰ってくるんじゃないかって……
*
真琴がいなくなってから、祐一の帰りが遅くなった。
部活をしているわたしよりも遅い。
帰ってきた祐一にどこに行っていたのか聞いてみても、
祐一は力なく笑うだけで答えてくれない。
服の所々に草や泥がついているのが気になった。
あれから祐一は寂しそうだった。
虚勢を張っているのがわたしにはわかる。
ある日わたしは、祐一のあとを、こっそりとついて行ってみた。
そこは、ものみの丘だった。
真琴のことが忘れられないんだ…
祐一はあの子のことが好きだったから…
あきらめられないんだ…
でもね、もう真琴はいないんだよ…
見ている方が辛くなる。
何とかしてあげたい…
わたしが、本当に好きな人だから……
気付いてもらえなくても、拒絶されても…
好きだから……
だから……
「祐一!」
祐一は振り返る。
「名雪? どうしてここに……」
「後をついていったの…」
「…………」
「ねえ、もうやめてよこんな事。あの子は…真琴は戻ってこないんだよ…消えちゃったんだよ…」
残酷な言葉だと思う。
でも、祐一に戻って欲しかった。
現実(ここ)に戻って欲しかった。
「わかってる…」
「わかってないよ! 祐一を見てると辛くなる。大好きな人が傷ついているのを見るのは嫌なの…」
涙が溢れる…
どうしょうもなく…
「名雪…」
「真琴のことが好きなのはわかってる。でも、好きなの。七年前からずっと…だから、戻ってよ、元の祐一に…、今の祐一は抜け殻みたいだよ……」
涙が止まらない……
「………」
「ごめん、最低だよね…真琴がいないから、好きだって言うなんて……でも、真琴は戻ってこないんだよ…
苦しいのはわかる…でも、こんなことして何になるの?」
「わかってる…でもな…今は、こうしていたいんだ。1%もない可能性でも…待っていたいんだ…」
「祐一……」
「ごめんな…名雪…」
その言葉が何に対する謝罪なのかわからなかった。
祐一はわたしに背を向けて…
わたしはそこから走り去るしかなかった……
涙が、止まらなかった。