名雪へ贈るプレゼント
商店街をジングルベルが流れている。
無理もない明日はクリスマスイブなのだから……
でも、その前に……一つ忘れてはいけないことがある……
「う〜ん……」
祐一はその忘れてはいけないことのために商店街を歩きながら頭を抱えていた。
「誕生日プレゼント……何にすればいいんだ?」
そう、今日は名雪の誕生日なのだ。
学校帰りに何かプレゼントを買おうと思って商店街に来たのだが……
さっぱり思いつかない。
「祐一っ、明日何の日か知ってる?」
「さあ?」
「誕生日だよ」
「ああ、天皇誕生日だったな」
「違うよ〜」
「何が違うんだ?」
「……もういいよ」
「こらこら、そんなに悲しそうな顔するなよ、名雪の誕生日だろ? 覚えてるって」
「本当?」
「ああ、プレゼント、期待しとけよ」
「うん!」
ここまで言ってしまったのでは容易なものを出すわけにはいかない。
去年は、イチゴケーキを買った。
あまりいい思い出がないのでそれは却下だ。
「名雪の好きなもの……イチゴと、ネコか……目覚ましとかは…やめといたほうがいいな」
買っても使わないだろう…祐一の声入りの目覚ましを未だに使っているのだから。
(恥ずかしいんだよなこっちとしては)
今は愚痴っている暇はない。
早くしないと名雪が部活から戻って来てしまう。
「う〜ん……」
何がいいか考えつかない。
名雪が喜んで…自分の気持ちも伝えられるもの………
そんなもの簡単に見つかるはずがない。
「う〜ん……」
唸りながら歩く自分にに好奇の視線が集まっていることに祐一は気付いていなかった。
「ただいま〜」
名雪が帰ってくるまでには間に合ったようだ。名雪の靴は無かった。
「お帰りなさい。祐一さん」
「すごいですね……」
「腕によりをかけて作りましたから」
食卓に並ぶ料理の数々からは
秋子さんから名雪への愛がひしひしと伝わってくる。
「ケーキも作ったんですよ」
イチゴをふんだんに使ったデコレーションケーキだった。
「名雪もきっと喜びますよ」
「ええ」
秋子さんはにっこりと微笑んだ。
「ただいま〜」
名雪が帰ってきたようだ。
「お帰りなさい、名雪。すぐ、着替えてきなさいね」
「うん」
ぱたぱたと部屋に戻っていく名雪。
「さ、祐一さん」
「はい?」
秋子さんに渡されたのはパーティ用のクラッカーだ。
「なるほど……」
秋子さんの意図がわかった祐一は、早速紐を引く準備をする。
「着替えてきたよっ」
リビングに入ってくる名雪に
パン! パン!
祐一と秋子さんがクラッカーを鳴らす。
「わっ!」
『名雪、誕生日おめでとう!』
「えっ? えっ?……あ、ありがとう……」
クラッカーに驚いて混乱しているのか名雪は事情が飲み込めていないようだ。
「ほらほら、こっちへ座る」
祐一が名雪の腕を引いてケーキの前に座らせる。
「お母さん、腕によりをかけて作ったのよ」
「うわ…すごい……」
名雪はケーキや料理に見とれている。
「じゃあ、火をつけて……」
祐一はてきぱきとろうそくに火をつける。
「電気消しますね」
と、秋子さんが電気を消す。
『ハッピバースデイトゥーユー ハッピバースデイトゥーユー
ハッピバースデイ ディア名雪〜 ハッピバースデイトゥーユー』
二人の唱和が終わると名雪は一気にろうそくを吹き消した。
『名雪、誕生日おめでとう!』
コンコン……
ささやかなパーティーの後、祐一は名雪の部屋をノックする。
『プレゼントは…後で渡す』と言っておいたのだ。
「俺だ」
「祐一? 入っていいよ開いてるから」
言われるまま祐一は名雪の部屋に入る。
「プレゼント……渡しに来た……」
「うん…」
「ほら……」
そう言ってラッピングされた袋を渡す。
「開けていい?」
「ああ」
「あ…ネコさんだ……ありがとう」
祐一が苦肉の策で選んだのがネコのぬいぐるみだった。
これなら、少なくともアレルギーにはならない。
「大切にするね……」
名雪はにっこりと笑った。
「あのな、名雪」
「何?」
「俺、いろいろ悩んだんだ…名雪が喜んでくれて…俺の気持ちが伝わるもの…何かって…」
「祐一?」
「でもな、ぬいぐるみだけじゃ、名雪が喜んでくれても、俺の気持ちは伝わりきらないと思うんだ」
「そんなことないよ」
「そうなんだよ。だから……もう一つ用意してきた……受け取ってくれるか?」
「う……うん」
いつに無く真剣な祐一に押されるように名雪はうなずいた。
「じゃあ…驚かせたいから…目、閉じてくれないか?」
「わかったよ」
言われるままに名雪は目を閉じる。
「名雪、誕生日おめでとう…これからも、一緒にいてくれよな」
そう言って祐一は軽く名雪に口付けた……
「!…ゆ、祐一………」
突然のことに名雪は真っ赤になっていた。
それは、まあ、祐一も同じだが……
「じゃ、じゃあ…俺寝るから……」
逃げるように部屋を出ようとする祐一に、名雪が、
「ありがとう……うれしいよ。そして…これからもよろしくね」
うっすらと涙を浮かべながら名雪は笑う。
「もちろんだ」
振り向いてそういうと祐一は部屋を出て行った。
「祐一。来年も、再来年も…その先も…ずっと、誕生日を一緒に祝えるといいね」
ネコのぬいぐるみを抱きしめながら名雪はそっと呟いた……
fin
***********************************************************************************************
う〜ん。恥ずかしいものを書いてしまったな〜
名雪誕生日おめでとう! このSSもなんとか12月23日に完成できて嬉しいです。
感想とかよろしくです〜
では、ばーははーい!