海と真琴と肉まんと
夏の日差しが眩しい。空は青く晴れ渡り、それを映しかの如く青い海。
「祐一! 早く早く!」
ぴろを頭に乗せて砂浜を走りながら真琴が声をあげる。
「それなら、少しは荷物を持て!」
ビーチパラソル、ビニールシート、その他もろもろを引きずりながら祐一は叫んだ。
「あ、すいません。気がつかなくて」
隣を歩く美汐が慌てて祐一の荷物を持とうとする。
「あ、いや、別にそう言う訳じゃないんだけどな」
「わかってます。それより、真琴嬉しそうですね」
「ああ」
一週間前。
「祐一、何見てるの?」
部屋で祐一がテレビを見ていると、いつものように真琴がやってきた。
「テレビ」
「もう! それくらい真琴にもわかってるわよ!」
祐一が見ていたのは『ビー○ボー○ズ』の再放送だった。
「話の内容はともかく、海はいいよな………」
下手をすると袋にされてしまうような祐一のセリフが聞こえていないのか真琴はジーッとテレビを見つめている。
「真琴?」
「……………」
「おい! 真琴!」
「祐一……海、行きたい………」
全てはこれが始まりだった。
駄々をこねる真琴に負け、こうして美汐を誘って海に来ることになったのだ。
名雪はクラブで行けなくて、残念がっていた。
「祐一! 早くぅ!」
「あんまり走ると転ぶぞ!」
べしゃっ
「あー言ってるそばから……」
「あうー………」
「ほら真琴、大丈夫?」
美汐が服についた砂を払ってやった。
「相変わらずだな……真琴は」
「どういう意味よう」
「ガキだってこと」
「真琴は子供じゃないもん」
「すぐはしゃぐところがガキなの」
「あうー」
「ほれほれ、何か言い返してみろよ」
「すぐ真琴をからかうところって、相沢さんも子供ですよ」
「え?」
「なーんだ、祐一もガキじゃない」
あはははっ、と真琴は嬉しそうに笑う。
「天野……俺はあいつと同じなのか?」
「いいじゃないですか。ずっと子供でいることも案外難しいことですよ」
「え…と、どうですか?」
水着姿の天野は少し恥ずかしそうだった。
薄い水色のワンピース型の水着だった。
「よく似合ってるぞ」
「ありがとうございます」
「真琴は?」
真琴の方は黄緑の、パレオ付の水着だった。
その姿はいつもとは違う、真琴の魅力があった。
「ガキは興味ない」
「ガキじゃないもん!」
「相沢さんは真琴が可愛くて照れてるんですよ」
「あ、天野!」
祐一の顔は真っ赤だった。
お昼も近かったので先に昼食を済ませておくことにした。
「真琴、何食べる?」
「肉まん」
「そんなの海の家にあるはずないだろ? 焼そばにしとけ」
「あうー」
真琴は心底残念そうだった。
真琴の頭の上で(暑いのだろう)ぴろもシュンとしていた。
「祐一!それっ!」
バシャッ!
「なんの! そらっ!」
バシャアッ!
「今度は私の番です!」
バシャッ!
夏の海で三人は子供のように遊んだ。
「はあ、はあ、ちょっと休憩……」
遊びつかれた祐一はビニールシートに横たわる。
「はー疲れた」
祐一は大の字で寝転ぶ。
「私も休憩です」
息を切らせて美汐がその横に座る。
「真琴は?」
「まだ泳ぐって言ってます」
「元気な奴」
「楽しいんですよ」
「子供なだけだ」
「相沢さんは楽しくないんですか?」
「そういう天野こそ」
「私は楽しいですよ。久しぶりに海にきた気がします」
「そうか、じゃあ、俺たちはまだまだ子供だってことだな」
「はい」
「でも、それもいいか……それじゃあ、あの向こうに見える消波ブロックのところまで泳ぐかな」
「私は遠慮しておきます。つかれました」
「そうか……あれ? あれ、真琴じゃないか?」
「そうみたいですね…………」
「でも、どうしてずっと突っ立ってるんだ?」
「まさか……」
「あいつ、戻れないんじゃ………」
祐一は海に飛び込んだ。
「あうー………」
消波ブロックの上でぴろを抱え、真琴は途方に暮れていた。
泳ぐ(というか流された)ぴろを追いかけてこんなところにまで来てしまったが、戻れない。
「祐一〜っ」
気づいてくれるだろうか?
気づいてくれなかったら………
「あうーっ………」
そう思うと涙がこぼれてきた。
バシッ!
水音にハッと前を見ると、
「はぁ……はぁ………」
息を切らせた祐一がそこにいた。
「何やってんだ真琴。全くいつもいつも………」
来てくれた。
ちゃんと来てくれた。
それがうれしくて……
「祐一〜!!」
祐一に抱きついた。
「うわっ!」
バランスを崩しそのまま海に落ちる。
「お前なあ………」
何か言ってやろうと思ったが、
「祐一! 祐一〜!」
抱きついて泣く真琴を見ていると、
愛しくて、そんな気になれなくて……
「ほんとに、心配させやがって」
「ごめんね、ごめんね………」
「お前はどうしようもなくしょうがない奴だ。でも…いや、だから……好きなんだ」
「え?」
祐一はそっと真琴に口づける。
キスの味は、塩辛かった。
「今日は楽しかったです」
「俺もだ」
「真琴も。ぴろだって…」
真琴に答えるようにぴろはニャアと鳴いた。
「それでは」
「おう、またな」
「また遊ぼうね美汐」
美汐と駅前で別れ、二人は夕日に染まる商店街を歩いていた。
「今日は楽しかったな」
「うん」
「肉まんおごってやるよ」
「本当?」
「ああ、海じゃあ食べられなかったからな」
「やったー」
夕日の中二人は手を繋ぎながら、楽しそうに歩いていった。
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どうでしょうか?
僕の言った二色の浜の海の家には肉まんがなくて、それでこの題を思いついたのです。
なんだか、どうでしょうか? 真琴に精一杯の愛を込めて書いたつもりですが(SS書く時はいつもそうだけど)
コメント待ってます。