雪だるまを作ろう!
あれから1年が過ぎた。
なぜか栞は留年することもなく2年生になっていて、祐一自信も3年生となっていた。
1月31日
学食でいつものように栞の作った特大弁当をつついていると、
「祐一さん。明日何の日か知ってますよね?」
「ああ、もちろん」
「楽しみにしてます……」
「でも、第一ヒント」
「なんですかヒントって……」
「いや、二次試験を控えて詰め込むことが多すぎて……忘れた」
「そんなこと言う人嫌いです……」
栞はまだ残ってる弁当箱を早々と片付け始める。
「ああっ! わかってるわかってる! 栞の誕生日だろ?」
弁当箱を片付ける栞の手がぴたりと止まる。
「酷いです。知っててからかってたんですね?」
「うっ……」
責めるような栞の視線に祐一は身動きが取れなかった。
「………………」
栞の無言の抗議に祐一は押しつぶされそうだった。
「ごめん……」
「いいですよ…楽しみにしてますね…明日」
「うーぬ……」
昼休みの後祐一はずっと考えていた。
自分が3年生で、受験生であるのも忘れて、授業中にうんうん唸っていた。
傍から見れば、一生懸命勉強しているように見えるが……
頭の中はそうではない。
「栞のプレゼント何がいい……」
去年は絵画セットだった……
今年は?
「栞の好きなもの……」
アイスクリーム。
即却下。
「俺とか? 俺をもらってくれー!とか?」
大却下。
「そういえば……まだ、雪だるまは作ってないな……」
去年約束して…まだ果たしていない……
大きな雪だるまを作ること……
「よし! これでいこう!」
こうなればあとは準備と根性だ。
「香里。頼みがある」
授業が終わるとすぐに香里の席に行く。
「何?」
「明日は何の日だ?」
「明日…? ああ、そういう事ね?」
何か含んだような笑みを浮かべる香里。
「そういうわけで、協力してくれ」
「いいけど……」
「2つ。頼みたい。1つは、香里の家の庭を貸して欲しい」
「え?」
「もうひとつは…栞を窓辺に近づけたり、外に出さないこと」
「???」
「なにも聞かないでくれ」
「…わかったわ」
「助かる……」
2月1日 午前0時
「よし……」
シャベルを持って、美坂家の前に立つ。
あらかじめ栞の部屋の場所は聞いてある。
その前に立って雪だるまを作り……
「あれ?」
作り……
「雪だるまってどうやって作るんだ?」
意外な盲点だった。
「どうやって作るかなんて忘れたぞ……」
とりあえずよく漫画にあるような、雪だまをゴロゴロ転がすやりかたで大きな雪だまを作る。
ある程度大きくなったら今度は場所を固定して、
その回りに地道にしゃべるで雪をぺたぺたとくっつけて大きくしていく。
「口で言うほど簡単じゃないぞ…これは……」
時計を見るともう午前2時。
寒いはずなのに祐一は体が火照って汗だくだった。
「腕が痛い……」
ようやく雪だるま(下)が出来上がる。
「次は上を作れば……あれ?」
祐一は沈黙する。
「どうやって上に乗せるんだ?」
とことん単純な盲点だった。
「……………………………」
祐一は何を思ったのか走り出し……
「はあはあ……」
戻ってきた時にはその手には梯子が握られていた。
「これで上に雪を運んで…上で固めればいいじゃないか」
原始的だがそれ以外祐一は思いつかなかった……
「よし! やるぞ!」
祐一の声はいささか投げやりだった。
「おい! そこで何をしている!」
怒鳴り声。強烈な閃光……
「え?」
見ると下には警察官が立っている。
「何をしているんだ?」
「えっと…雪だるまを………」
説明して見るが案の定…
「そんないいわけがあるか! こっちへ来い!」
と交番へ引っ張っていかれた……
「どうしたんです祐一さん?」
「…眠い」
しばらくして秋子さんと名雪がやってきて祐一は無事(?)保護された。
「いやあ…いろいろありまして……あの、時間がないんで…行っていいですか?」
「大丈夫よ」
何が大丈夫なのかわからなかったが……祐一は再び美坂家に戻る。
「くそ…時間がない……」
もう午前5時。
栞がどれくらい早起きなのかは知らないが……
非常にまずい……
「急げっ!」
祐一はやけくそになって雪だるまを作り始める。
栞が寝坊するように祈って……
祐一の祈りは当然ながら裏切られる。
栞の朝は早い。
午前5時30分の目覚ましと共に目覚めるのが習慣だ。
もちろん祐一の弁当を作るためだ。
「う〜ん……」
ずるずるとベッドから這い出た栞はまず、
「ふぁ……」
ちいさく欠伸をして……
「今日も雪かな……?」
寒さに震えながらカーテンを開ける。
「わっ!」
当然ながら栞は驚いた。
「わっ!」
栞の声が聞こえたような気がして振り返ると……
「よ、よう…栞」
栞が目を丸くして立っていた。
「どうしたんですか? 祐一さん……ちょっと待っててください」
栞は部屋の中に入ると着替えて外に出てくる。
「うわ…大きいですね……雪だるまですよね?」
「ああ、まだ作りかけだけどな……
本当は朝までに完成させたかったんだけど……逮捕されてしまった」
「え?」
「秘密」
「わっ、気になりますよ〜」
「それはともかく……」
「無視しないで下さい! 祐一さん嫌いです!」
「……栞、雪だるまは間に合わなかったけど…
誕生日おめでとう。作りかけでよかったら受け取ってくれ」
「祐一さん………嬉しいです」
「そっか…それはよかった」
「寒くないですか?」
「風邪ひくかもしれないなあ…でも今は大丈夫」
「じゃあ、どうせですから完成させましょう」
「え?」
「完成するまで、学校おやすみです……」
そう言って雪を集め始める栞。
まだ続く重労働に体が悲鳴をあげてるが……
栞の楽しそうな笑顔を見ていると、
「まあ、それもいいかな」
と、思ってしまう祐一であった。
<おまけ>
「祐一さん」
雪を固めながら栞。
「ん?」
「どうせですから、お父さんと、お母さんに紹介したいんですけど……」
「えっ!?」
「『栞さんを僕に下さい』っていうのはありきたりですが…嫌いではありません」
「あのなあ……」
「祐一さん、不束者でございますが…末永くよろしくお願いします……」
ちゃんちゃん♪
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どうですか?
誕生日SSは名雪に続いて二つ目です。
決して他のキャラに愛がないわけではありません。
あんなに誕生日がつづくとネタが尽きるじゃん!!
っていうのが理由です。
忙しかったのも理由ですが……
そのうち遅れながらも誕生日SS書こうかなと考えております。
では、ばーははーい!
http://members.tripod.co.jp/eko5/