どんなに辛いことがあっても……
 日常を変わらず生きなければならない……
 あたしも、栞も、結局は変わらずここにいる。
 学校へ行くあたしと、病院にいる栞……
 結局変わることなんて無かった……
 変わったのは悲しい事実が一つ増えたこと……
 それだけだ……










         ジングルベルは聞こえない<第1章>












 栞はいつものように病室に横たわっていた。
「お姉ちゃん……」
 あたしの姿を見つけて、栞は起き上がる。
 両親は部屋の外で医者の話を聞いている。
『栞にはあのことを話さないでね……』
 そう言われた。
「大丈夫?」
 自分で言って酷く皮肉な気分になった。
 大丈夫なはず無いじゃない……
 次の誕生日……
 1999年2月1日までの命なんだから……
 大丈夫なはず無い……
「うん。駄目だね私。せっかくお姉ちゃんと一緒に学校に行けるはずだったのに、
 友達も、出来そうだったのに…またおやすみだね……」
 残念そうに栞は言った。
「馬鹿ね……また元気になったら…学校に行けるじゃない……」
 偽りの言葉……
 あるはずも無いこと……
 未来は残酷なものでしかないのに……
 あたしは今、栞を騙している……
「うん。そうだね」
 力無い、栞の笑み。
「あたしも、残念よ………」
 あたしは偽ることしか出来ない……
「え?」
「栞と一緒に学校に行けないじゃない」
「あ…うん……」
 少しだけ、嬉しそうだった。
 罪だ……
 この笑みはあたしへの罰だ。
 栞を騙しているあたしへの罰だ。
 何も知らない栞を……
 気休めを言って真実から遠ざけようとするあたしへの罰だ。
「さあ、もう寝なさい……病人なんだから」
「うん」
 衣擦れの音。
 他の雑音の無い、静かな病室に、やけに響く。
 布団をかぶった栞は、
「ねえ、お姉ちゃん」
「何?」
「あのね……」
 少し顔を赤らめて栞はこう言った。
「寝るまで、ここに居てくれる?」
「もう高校生なのに?」
「だって………」
 子供っぽいしぐさがおかしかった。
「わかったわよ……」
「うん、ありがとう。お姉ちゃん」
 そう言って栞は瞳を閉じる。
 何も変わらない……
 栞は変わっていない……
 いつもと同じ……
 でも、違う。
 明らかに違うものになってしまった。
 明確なタイムリミットを与えられ、それに縛られるしかなくなってしまった。
 死は誰にでも訪れる……
 でも、こんな残酷な死があっていいものだろうか?
『お姉ちゃんと同じ学校に通うこと…
 お姉ちゃんと同じ制服を着て、
 そして一緒に学校に行くこと…
 お昼ご飯を一緒に食べて、
 学校帰りに偶然会って、
 商店街で遊んで帰る…
 私のたったひとつの夢なんだ……』
 こんな些細な夢さえ叶えられずに死ぬなんて………
 そんなことが許されていいのだろうか………
「栞……」
 返事は無い。眠っているようだ。
 寝顔はいつものように穏やかで……
 1999年2月1日……
 これがタイムリミット……
 栞はあたしの前から消えてしまう。
 触れることも、喋ることも、笑顔を見ることも出来なくなる……
 明日なんて来なければいい……
 今日なんて来なければよかった……
 そうすれば、この子の残酷な運命など……
 知ることも、訪れることも無かったのに……
「栞……」
 返事は無い。
 遠くに行ってしまう……
「栞……」
 返事は無い。
 死んだように…静かに眠っている……
 死んだように?
「栞…!!」
 思わずあたしは栞をゆすぶった。
 死んでいないわよね?
 生きているわよね?
「栞…栞………!!」
「わっ!」
 栞はびっくりして起き上がった。
「お姉ちゃん……?」
 栞は首をかしげてあたしを見る。
 生きている…栞は生きている……
 当たり前だ……
「どうしたの?」
「なんでもないわ……」
 栞を掴んでいる手を離すことが出来なかった……
 当たり前のはずのことが……
 栞が生きているという事実が……
 離れていってしまいそうで……
「お姉ちゃん痛いよ……」
 あたしの指が栞の二の腕に食い込んでいた。
「ごめんなさい……」
「お姉ちゃん……」
「なんでもないの……ごめんなさいね」
「…………」
 栞は納得がいかないようだった。
「うとうとしていたら…怖い夢見ちゃってね……」
 我ながら馬鹿げた言い訳だ。
「ふーん」
「おやすみなさい。起こしてごめんね」
「ううん…おやすみなさい」
 栞は目を閉じた。
 栞が寝息を立てたのを確認して病室を出た。
 これ以上居ると……
 また、栞を起こしてしまいそうだった………
 つらくなってしまいそいだった……… 
 四月だというのに…空気が冷たかった。
 これが死の冷たさだろうか?
 病院の空気が、死そのものに思えて仕方が無かった……

                  to be continued...
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 どうでしょうか?
 書いていて…やっぱり栞シナリオは痛いなあ…なんてこと考えました。
 栞シナリオはセリフを見ただけで泣いてしまいます……
 僕はこのシナリオ好きです。
 では、ばーははーい!

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