どこでなにがあっても日常はただただ過ぎていく……
 たとえ栞がいなくなっても……それは変わらないのだろうか?
 









           ジングルベルは聞こえない<第2章>














「香里っ、おはよう」
 いつも通りに遅刻ぎりぎりの時間に教室に入ってくる名雪。
「おはよう。いつも元気ね……」
 今日に限ってその明るさが眩しかった。
「どうしたの?」
 昔から妙に勘のいいところがある名雪はもう、あたしの異変に気付いているようだった。
「なんでもないわ。別に他意はないし」
「そう……」
 なんとなく釈然としない様子だった。
「香里」
「何?」
「ふぁいとっ、だよ」
 小さくガッツポーズをして見せる名雪。
「ありがと」
 もつべきものは親友だ。
 名雪の気遣いが嬉しかった。

「香里っ、お昼休みだよ」
「今日は学食にする?」
「いい天気だから、パン買って中庭で食べようよ」
 名雪のセリフにどきりとした。
「中庭……?」
「うん。ぽかぽかして気持ちいいと思うよ」
 名雪の言う通り外は快晴で、外でお弁当を広げるのには絶好の日だろう。
 でも…
「遠慮しとくわ……」
「香里?」
 信じられないという表情だった。
「ほら、外で、学食で買ったパンを広げるのもかっこ悪いじゃない」
 我ながら酷い言い訳だ。
「うん。それもそうだね。それじゃあ、急がないと混んじゃうよ食堂」
「そうね」
 走る名雪を追いかけて心の中で名雪に謝った。
 でも、どうしても嫌だった。
 栞のことを考えると……
 あの子を裏切ったようで……
 そとは太陽の日差しが温かそうだった。
 でも……
 太陽は幸せな人間しか照らさないのだ……
 あたしには……眩しすぎる……

 学校の帰りに栞の見舞いに行った。
「あ、お姉ちゃん」
 そう言った栞の顔が一瞬曇ったのを見逃さなかった。
 制服を見て、悲しくなったのかもしれない。
「元気? って、聞くのも変かもしれないけど……」
「うん。早く退院して、学校に行きたいな」
 栞の笑顔に心が痛む。
 あたしは、栞がこういった状態になってから、
 栞の泣き顔を見ていない。
 この笑顔の向こう側に…全てを押し込めてしまったのかもしれない……
 あたしは…栞の心に傷を付けるだけの存在なのかもしれない。
 栞のしたいこと……
 したくても出来ないこと……
 それを当たり前のように出来るのだから……
「学校に行ったら、お弁当を中庭で一緒に食べようね」
 約束ね、と栞は言う。
 果たせるかどうかもわからない…約束。
 絶対など存在しない約束……
「そうね、約束……」
 そして、あたしは自分を偽る。
 栞を騙す。
 叶わないかもしれない約束……
 でも、それだけが栞を繋ぎとめているようなそんな錯覚を覚えた。

 まだ、栞が体を壊していなかった、幼い頃のこと……
 つかの間の一時……
「お姉ちゃん!」
 花畑だった。
 シロツメグサやレンゲの咲く花畑。
 そこで、あたしたちは花飾りを作って遊んでいた。
「ほら、上手に出来たでしょ?」
 シロツメグサの冠を頭に載せて栞は嬉しそうに笑った。
「お姉ちゃんも負けてられないわね」
 そう言って、シロツメグサをあたしは編む。
 なかなかうまくいかない。
「難しいわね……。栞?」
 先ほどまであった栞の笑い声が消えている……
 気になって見上げると……
「栞!」
 花畑が栞の周りだけ切り取られたかのように黒く闇に染まっていた。
「栞!」
 声は届かない。
 相変わらず栞は楽しそうに声をあげている。
 気付いていないの!?
 栞の周囲から崩壊が始まる……
 信じられないスピードで花畑が闇に落ち……
 栞にもそれが迫る……
「栞っ!!」
 思わず手を伸ばす。
 あたしが栞に触れた瞬間……
 崩壊も栞に到達して……
 あたしの腕の中で栞は崩れ去る………
「栞ぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
 自分の絶叫と共に意識が覚醒する……
「夢……」
 それはわかっていた。
 たが、それを夢と言い切れない……
 栞を失わざるを得ないこの喪失感……
 自分の無力さが…
 情けなくて……
 苦しくて……
 辛かった………

                   to be continued...
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 どうでしたでしょうか?
 僕はまだ、誰も失ったことも…誰かを失いかけた事も無いので……
 想像でしか書けないけど……辛いんだろうな……
 では、ばーははーい!

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