第三話(4月22日放送)

七瀬優
〜星降る夜の天使〜

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
西山明樹彦
望月智充
横手博人

ストーリー

「坪尻駅」
極少数しか降りないような駅。一人の少女が降りる。優だ。

(天使って、たぶんいる。例えばこんな、滅多に降りる人のいないような駅に)

小さな駅の待合所に落書き帳を見つけ、手に取る優。自分も書き込む。
そこへ、どこかの学校の生徒2人が電車に乗るため通り過ぎていく。見慣れない優に目が行く。
電車に乗り込み、この辺の娘じゃないなどと2人で話していると、優がこちらを向く。
舌をペロッとだすと、2人は赤くなった。
ドアが閉まり、電車は行った。

(あれは、女の子の姿をした、もしかすると……ううん、きっと天使)
(そう、確かにいた。…ある夏の夜、私はその娘に出逢った)

第三話 七瀬優 〜星降る夜の天使〜

夜行列車。乗客はほとんどいない。
一人の女性がビールをカパカパ飲んでいる。
一息付く。

(私がその娘に出逢ったのは、22時16分、新潟発の、急行北国の車内だった)

前方で男の汚い声がした。酔っぱらいの声だ。
女性は何事かと思い、席を立ち、前方を見る。

(わたしじゃないかわいい娘が、オヤジに絡まれているらしかった)

酔っぱらったオヤジが絡んでいたのは優だった。
ジーパンをはいているのが気にいらないらしく、
ミニスカートだの目の保養だのくだらないことを口走っている。

そこへ女性が歩いていく。
「いい加減にしなよねぇ!」
親父にビールをぶっかける。
電車が止まった。車内が大きく揺れる。
親父が女性の手をつかみ、言い争いになる。それをぼーっと見つめる優。
ふと椅子に落ちていた定期券に目が入る。オヤジの落としたものらしい。
どうやらオヤジは直江津に住んでいるらしい。
そしてここは直江津駅だ。

「あの…乗り越すと折り返し無いですよ」
優がそう言うと、親父はつかんでいた女性の手を離し、慌てて電車から降りていった――

「豆腐の角に頭ぶつけて死んでろオヤジぃっ!」
女性は叫んだ。
「ったく、酔っぱらいが急行に乗るなっての……」
その時、電車が出発し、また車内が大きく揺れる。
立っていた女性は叫び声を上げながら転びそうになる。
目の前の優に笑ってごまかし、また自分の席に戻りビールを飲み始めるのだった。

「1人旅かぁ。無理しちゃって。いいよね、青春は。青くて、春で」
女性は一人つぶやくのだった。

(出逢ったときの私の顔。たぶん最悪だった)

さっきの女性。優が気になるらしかった。
何か近くに行くための口実にと、缶のお茶を持っていく。
功を奏したらしく、女性は優の対面の席に座った。
「さっきみたいなこともあるしさ。2人だと、安心でしょ?」
そしてまたもやビールを飲み始める女性。

「未成年、だよね? 18くらい?」
「17です」
「17かぁ。いいよねぇ。もうピキピキでパツパツじゃなぁい」
「ピキピキで、パツパツですか……」
「そう、私だってピキピキで、パツパツで。しかもピュアだったんだから。あ、今笑ったでしょっ」

(何言ってんだろ、と思いながら、同時に少し身体が軽くなった気がした)

富山駅を出発。
酔っぱらってしまった女性が愚痴をこぼしている。
男なんてろくなモンじゃない、男にはピュアな愛がない、あたしだって信じてたけどね、
あたしはあれだけど、向こうがあれだから、など、酔っぱらいらしい愚痴がこぼれる。
どうやらその女性は男に振られたらしかった。
「男なんてっ……」

「ま、私も悪いんだけどね……」
「そうなんですか」と優。
「アノネ、ここはウソでも、あなたが悪いんじゃありません、男の方が悪いんです、って言うモンよぉ」
「でも、本人がそう言うから……」
「そうだけどさぁ、酔っぱらいの愚痴なんだから……」
「でも、そんなに酔っぱらってないんじゃないんですか…?」
その言葉にハッとする女性。優は、全て分かっているらしかった。

(8年も付き合った男と別れた。『すごく悲しいんじゃないんですか…?』そう言われた気がした)

「でも、男の人だって、ピュアな所はあると思います」
「若いから……」
「若くなくても、同じですよ」
「幸せね、そう思えるって」
「思えるっていうか……」
「思えなくなるのよ、だんだんね」
「でも、ピュアな愛はありますよ」
「大人んなってさ、いろんなコトすると、どうなのかな…」
「したって同じです」
「…ハッキリ言うじゃない」
「だってありますから」
沈黙。
「……無いよ」
「私は、信じてます」
「どうして?」
「今日があるから、かな…」
「え?」
「信じてるから」
「私は信じない」
「信じなくても…ありますよ」
沈黙。

「私、寝る」
「…おやすみなさい」

(…寝られるわけなかった)

−CM−

電車内。女性が携帯電話で誰かと話している。
どうやら母親かららしい。帰ってこい、との催促だった。
夜にまでには帰るから、と電話を切り、ため息を付く。

新大阪駅に停車。
優が降りようとする。
「私、新幹線に乗り換えて広島に行きますので」
お茶とお菓子のお礼を言い、優は電車を降りた。

女性は優を見送るが、やがて覚悟を決めたように電車から飛び出した。
広島行きの新幹線の外から中にいるはずの優を探す。
出発ギリギリで優を見つけ、慌てて乗車する女性。
車内の優の所まで行き、こう言った。
「ピュアな愛があるって、言ったよねっ!」
「…はい」
「信じなくてもあるって、言ったよねっ」
「はい」
「だったら、証拠見せてよっ!」

新幹線の中。弁当を食べる2人。
「ごめんねぇ、あたしお酒が残ってみたい」
「いえ」
「見せろったって見せられるわけないもんね」
「でも……。もしかしたら、今夜」
優はこれから宮島へ行く予定だった。
今日は何の日か女性に質問する。女性は分からなかった。
待って、言わないでと念を押し、うんうんうなりながら考え始める。

広島。
「少し、案内しますね。広島市内」
歩いている最中も考えている女性。

川の畔。2人は並んで座る。女性は地酒を飲んでいる。
女性はついに降参した。
「だめだぁ。降参。教えて。今日って何?」
「…今日は、年に一度の、出逢いの日」
「へ?」
「年に一度、ペルセウス座流星群が見える日なんです」
「なぁんだぁ。あたしの脳ミソにインプットされてない日だ」
ペルセウス座流星群に関して色々話し始める優。
昨日寝ていないのと、日差しの気持ちよさで眠くなる女性。
そこでハッとして、
「そういえば、私たち自己紹介まだだったっけ」
「はい……そういえば」
「私、芹沢琴音。遅ればせながら、よろしく……」
うつらうつらし始める琴音。
「私は……七瀬優です」
名前を言ったときには、琴音は優の方にもたれ掛かり、既に眠っていた――

「あ〜っ! 昼寝したらお腹空いちゃったよぉ」
広島市内のお好み焼き屋。食事中。
「…でもさぁ、宮島でそれを見るってのが、どうしてピュアな愛の証拠になるの?」
「始めて見た日の出逢いを、信じてるから」
「え?」
「私が旅を好きになったのも、その人が楽しさを教えてくれたからなんです」


中学一年生の夏。回想

夜空を見上げている優。後ろを見ると、あの少年がいた。
「宮島で、私が夜空を見上げてたとき、その人は来たんです」

「キミも星を見に来たの……?」

「最初はびっくりしたけど、不思議とすぐに打ち解けて、一緒のに流星群を見て、いろんな話しをして。その年は、ちょうどスイフト・タットル彗星が現れた年で、ものすごく沢山の星が流れたんです。また一緒に見たいねって分かれたけど、その子は引っ越しちゃって……」


「……そっか。今日、その高台へ行けば、またその子に逢えるのね?」
「逢えるかなって……」
「かなっ…て、約束してないの?」
「ええ、でもあの流星群を見れば、きっとどこかで逢えるかなって……」
そこでお好み焼き屋の若い店員が口を挟んだ。
なんと今日は夜から台風が来るらしい。店内のテレビの気象情報でもそう言っていた。
残念だけど、あれじゃね、と言う琴音に、「私は行きます」と言う優。
琴音が止めようとするも、上手く台風の目に入るかも知れないと行くのを辞めようとしない優。
「どうしてよ…」
琴音はため息を付くのだった――

夜。嵐。
不幸中の幸いか、大鳥居経由、宮島行きの船は欠航にはならなかった。
「証拠」を見届けたいのか、優が心配なのか。琴音も付いて来ていた。

(こんな娘、ほっとけばいいのに。何してんのよ、と、自分に思った)

嵐の中を歩く優と琴音。
無理だ無理だ、と琴音が説得するも、「大丈夫ですよ」と聞こうとしない優。
そのわりには、しっかり琴音も付いてきていた。

(でも、なんだかあの娘は、私のためにい行くような気がした。私に信じる気持ちを起こさせるために。それがなおさら嫌だった)

高台に到着した優と琴音。嵐は未だつづいている。星野見える気配もない。
「もうあきらめなよっ!」
琴音の言うことも聴こえていない様子で空を見つめ続ける優。

――その時。
「あれ……」
空を指差す優。
雨が止み、夜空が広がっていく。
台風の目に入ったのだ。
「うそ……!」

夜空を一筋の流れ星が流れていく。ペルセウス座流星群の始まり――
「流れた! 今流れたよねっ!」
「はい……」
手をつなぎ、次々と流れていく星を無言で見つめ続ける優と琴音。

朝。
「勝ったつもりでいるだろうけど、偶然だからねっ。偶然」
「はい…」
「え、は、はいって……」
「偶然だけど、よかったじゃないですか」
「ふ……あんたって……」
「フッ……」

「でも人生ってモンはねぇ、そんなに甘くないんだからねっ」
「そうかも知れませんね…」
「でもだから人生は面白いって説も、あるけどね」
「ずっと、信じていたいな…」

そして礼を言い、優は横断歩道を渡っていった。

「あれ、そういえば、あんたの名前……」
バスが通り過ぎた後の横断歩道の先には、もう優の姿はなかった――

(ただのかわった女の子だったのかも知れない。でも私には、彼女が、愛を信じて旅を続ける天使のように思えた。そして私の顔も、いつのまにか、ちょっとだけ、いい笑顔になっていた。またどこかへ旅をして、もし彼女に逢ったら、言えるかな。なんとなくだけど……信じてるよって)

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