ブートレグのよもやま話

ブートレグの存在意義

筆者はそれほど熱心なコレクターではない。アーティストのファンになってもそのアイテムを網羅的に漁るというまでのめり込むことはそんなにない。現に、ゲイリー=ニューマンの作品だって全部持っているわけではないし(ちょっと説明すると、ゲイリーはスタジオの正規作品だけでも10作を余裕で越え、ツアーの度に出されるライブ盤(それも大抵2枚組)、ベスト盤、リミックス、カバー等まで含めると膨大なものとなる)、オフィシャルだけに限っても数枚欠けているというコレクションがほとんどだ。
それでも、ブートレグは全部で約10セットほど持っているだろうか。「セット」というのは、ライブ完全収録のものなど、2枚組であることも多いからだ。
ではなぜ、ブートレグを所有しているのか?と言うより、買ったのか?まずそれを説明したい。それは筆者の場合大体次のいくつかの場合に落ち着く。
  1. そもそも正規のライブ盤が存在しない。また、解散してしまった、来日する気配がない、等の理由で生のライブを見ることが不可能である。
  2. そのアーティストの正規のライブ盤は出ているが、それとは違うメンバーによるライブを収録している。
  3. イベント、ゲスト、事件等何か特別なことが起こったライブを収録している。
事実上それが大半なのだが、無論ブートの全てがライブの音源ではない。スタジオのリハーサル、アウトテイク、珍しい別バージョンを収録したもの、変わったところでは出るはずだったのが出なかったアルバムやインタビューがブートとして流通することもある。だが、便宜上ここではこういった場合は横に置いておく
さて、上記1は筆者の場合、クラフトワーク、ウルトラヴォックス、フロント242等である。クラフトワークに関しては最近正規のライブ盤がリリースされたが、多くのファンの要望を満たすものではなく不可解な噴飯ものである。ウルトラヴォックスも今は正規盤が在るし、以前はビデオと同内容のライブ盤があるにはあった。しかし、ジョン=フォックス在籍時に関してはこういう状況である。上記2は筆者の場合だと、YMO、ブラック=サバスがそうである。いずれもなかなか優れた内容の正規ライブ盤が存在する(した)が、筆者所有のブートはそれとは違うメンバーによるものである。YMOは最近になって同メンバーによる正規盤がリリースされたが(無論収録ステージは違う)、ブートを買った時点では存在していなかった。上記3で筆者が持っているのは、昨年の悪夢のUFO東京公演である。
逆の順番で、それぞれについて筆者の考えを述べておこう。
健全な(?)場合、3の場合にあたるものは、有名なものだとブラック=サバスにロブ=ハルフォードが一度だけ参加したステージを収録したものが存在するということである。その他、一度きりのセッション、再結成、フェスティバル、あるいは最初のステージや最後のステージといったものもこれに入るだろうか。筆者の考えでは、こういうものが正規にリリースされない方が不思議である。誰もがこういうものは見たいし聴きたいはずである。しかし、それがかなうという人ばかりではあるまい。そうなると、正規盤でなくても....というのは人情であろう。それを我慢しろというのはいくら何でも酷であろう。ライブ会場外の闇グッズを買うなというのとは話が違う、と思う。
しかし、問題なのは、何か事件が起こったステージを収録したものである。講演中断・中止、暴動等、あるいはとんでもなくひどいステージを収録したものもこれに入るだろうか。こういうものを見聞きされるのはアーティストには全く迷惑であろうし、買う方も全く悪趣味である(これは認めないわけにはいかない)。これに対しては弁解できる余地は少ないと思う。だが、悲しいかな「○○でのステージはとんでもなくひどかった」と聞けば「どれほどひどかったのか、ちょっと聞いてみたい」となり、「いやぁ〜あのステージで××、客にキレちゃってねぇ、「○○野郎!」って叫んで降りちゃったんだよ」と聞けば「何が起こったんだろう?知りたい」となるものだというのも、ファン心理なのである。まぁ中にはミスやトラブルを聞いて喜んでいる連中もいるのかもしれないが。
上記2は、メンバーチェンジの多い、比較的長命のバンドやアーティストに多くあるパターンである。レインボー、ブラック=サバス、イエス、キング=クリムゾンなんてのはこういうのの宝庫である。サバスの場合だと、コージー=パウエルやイアン=ギラン、グレン=ヒューズ在籍時の正規ライブ盤が全くないし、レインボーの場合一応(ドゥギー=ホワイト以外の、もっとも聴きたくもないか(笑))歴代ボーカリストは全員正規ライブ盤で聴けるが、自分の持ち曲以外を聴くことはできない。しかし「ギランが「パラノイド」をどう歌っているんだ?」「ジェフ=タウンズは「同士」のソロをどう弾いたのか?」という興味は尽きないはずである。また、バンドによっては「○○年のツアーでしか演奏されなかった曲」というものも存在する。もちろん、その都度ライブに足を運べばそれでよい。しかし、それがかなわない場合、どうすればよいというのか。もちろん、その都度ライブ盤がリリースされれば解決するが、そんなことをしているアーティストはまずいない。またしても、「我慢か、ブートか」という選択になる。
さてさて、上記1の場合だが、言わせてもらえばこういう場合アーティスト側が100%悪いと断言してよいと思う。要するに、アーティストの怠慢に大部分の責任はあると言わざるをえない。この際、アーティストのとるべき態度は2つに一つしかないと思う。つまり、最低でもアイアン=メイデンクラスのツアーを頻繁に行う(ステージの規模という意味では全くない。頻度や回数の話である)か、それでなければライブ盤など音源を頻繁にリリースするか、である。しかし、全世界規模のツアーを行うというのは並大抵のことではない(しかし、長年黒夢のファンをしていて思うのだが、無駄に派手なステージをやめれば単純にその分公園の数は増やせるという気がするのだが?最近の黒夢のライブは単純計算でトントン、グッズが売れた分が黒字、ということだ)。と、なれば、ライブ盤のリリースしかないと思う。どちらもダメとなれば、これはもうブート容認しかなかろう。最低でも、過去音源の発掘くらいはしていただかないと話にならない。ツアーもやらない、音源も提供しない、過去の音源や名演はお蔵入り、しかしブートは権利の侵害だから認めない、これではファンはどうすればよいのであろうか?
年間100本以上のツアーを行った黒夢の場合、面倒なことをするよりも直接ライブに行った方が早いし楽しめる。ゲイリー=ニューマンはツアーごとにライブ盤を出すのでブートを買う必要がない。クリムゾンは御大がせっせと過去の音源を発掘してくれるのでそれを待っていればよい。要するに、アーティスト側が頑張ればブートなど無用の長物にできる、と思うのだ。少なくとも、今の自分にはこの3アーティストのブートは必要ない(ただ、黒夢は無期限活動停止してしまったので、どうだろうか?)。もちろん、それ以上の収集欲に燃えた聴き手は存在する。しかし、こうした人々は実際問題何があろうとブートを集めるであろう。だが、アーティスト側が歯止めをかけることは少なくとも可能ではあるはずである。それさえしないでブートを攻撃するアーティストは欺瞞的であると言わざるを得ない。(99.4.20)

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