決して毎月買うわけではないが、それでも『Burrn!』は間違いなく筆者が一番よく買っている音楽雑誌だ。決して悪い雑誌だとは思っていないし、間違いなく筆者の役にも一番立っている。よくあるアンケート風に言えば「どちらかといえば好き」だ。
しかし、それは何も問題を感じていないということを全く意味しない。それどころか、「日本で唯一で、メタルファンはこれに頼らねばならないということも大いにあるにもかかわらず、これでいいのだろうか?」と思わざるを得ないことというのもいくつもある。ことに、筆者がカナダに滞在し、フリーペーパーを含む複数のメタル雑誌(どうかすると二桁になる)を選んで読める状態になって、その感はますます強くなっている。
噂ではネット上で『Burrn!』の悪口を書くと反響がものすごいらしい。多少不安も感じないではないが、試みに自分の思うところをまとめてみたい。また、「『Burrn!』をけなせばそれでいいわけではない」「そういう態度をとることが「通」のような雰囲気は嫌だ」という意見があることも十分に承知している。それでも、これは言わねばならないのではないかということがあるのも事実であり、『Burrn!』そのものが現在の状況に漫然としていていいというわけでも残念ながらないと思う。何にしろ、前置きが長いのはよくない。本題に入る。
さすがに読者からも抗議の投書だか何だかあったらしく、編集長本人がそれに答えるという一幕もあったが、ブレイズファンを「寛大なファン」と呼び、「しかし「あいつが歌っているメイデンには金を払えない」という知り合いが何人もいる」というよく分からない反論に加えて、「音痴だということが分からないとすれば問題だ」「日本の音楽教育はどうなっているのか」と、ここまで来ると暴言と言っていいのではなかろうか。ブレイズをこき下ろすのはまだよかろう。それでも度を超しているとは思うが、まぁ百歩譲ってよしとしよう。しかし、ファンをこき下ろすとは何事であろうか。
「俺は自分の好みでものを言うのだ」というのであればまだ話は分かる。しかし、編集長は「自分は真のファンとして言っているのだ」と言うのだから困ってしまう。真のファンのすることは、自分の気に入らないボーカリストがいるからといって、機会さえあれば悪口を公にし、自分の意見にたてつく読者をバカにすることなのであろうか。そして、噂が蔓延しファンがやきもきする状況を敢えて作り出すことだろうか。
(一つ嫌味めいたことを言わせてもらえば、編集長はデイブ=マレーの怪我でメイデンのライブを見そびれた際、「3人もいるのだからデイブくらいいなくてもライブはできるだろう」という発言もしている。デイブなしのメイデンがメイデンであるというのが、真のファンなのだろうか。しかしまぁこれは冗談だったのかもしれない)
ブレイズが音痴かどうかということについても、筆者は違う意見を持っているのだが、それはひとまず措いておこう。
(なお以前、ここに「ブレイズ=ベイリーはそんなにひどかったか」という記事が予告されていたにもかかわらずいまだに公開していないが、それはブレイズがひどかったと筆者が思い直したということではない。筆者はいまだにあのメイデンが暗黒時代だったとは思っていない。ブレイズ解雇(なのか脱退なのかよく分からないが)についても筆者はある邪推をするところがあるが、それは書くとしてもまた別の機会にする)
さて、筆者はブレイズ=ベイリーのファンだったので、ブレイズの場合に絞ったが、広瀬編集長がこの手の発言を繰り返しファンの怒りを買うということは、どうも何度もあったことのようだ。編集長は自分の気に入らないミュージシャンの存在が余程許せないらしい。そして、ふとした瞬間にその嫌悪感というか最早憎悪に近い感情が噴出するらしい。いや、嫌いなものは嫌いでいいのだ。ただ、物書きとしてそういう感情の表現方法がああしかできないのか、また単なるファンじゃなく、雑誌の編集長ともあろう人間がそれでよいのかと言いたいのだ。
(これはネット上で筆者が目にした意見だが、編集長は何かを褒める際に必ず別のものをけなすという癖があるらしい。また、突然関係ないことを言い出すという傾向もどうやらあるらしい)
ここまで書いて、広瀬編集長の擁護をするつもりは毛頭ないが、実はこれはメタルファンの共通の(こういう表現を敢えてすれば)病気なのではないかと思うようになってきた。というのは、「熱い」ということが何かすばらしい価値であるかのように思いこんでいる節があるのではないかということだ。思うに編集長は「俺はメイデンにこれだけ熱くなれる」「俺は真のファンだ」「真のファンの意見は正しい意見だ」という風に思ってしまったのかもしれない。もちろん、これは論理とか何とか言う以前の問題を「熱い」ってことで誤魔化しているにすぎない。「熱い」ことはもちろん大いに結構だ。筆者も熱くなれるバンドがいくつもあるし、メタルファンが熱いのは常に嬉しいことだと思っている。しかし、ただ「熱い」というだけで何事かを意味するかと言えば、そうではないだろう。もちろん、単なる一ファンはそれで構わない。しかし、影響力のある雑誌の編集長が率先してそれでは、その貴重な雑誌そのものが病巣と化すことになりはしないか、あるいはもうそうなっているのではないのか、という危惧を押さえることができない。「俺の方がこんなに熱いんだから俺の意見の方が正しい」という態度でものを言うメタルファンというのは、残念ながら、少なくない。
(例えば、『B!』誌編集部の主要メンバーに前田岳彦さんがいるが、この方は自分ののめり込めるものについて書かせるとすばらしいと思うが、それ以外は本当につまらない(「金返せ」は面白いが)。編集長とは別の意味で、メタルファンの熱さのよい面悪い面を代表する方だと思う)
まぁ筋肉少女帯は純粋なメタルバンドじゃないし、本人達もどれだけメタルの意識があるのか疑問だからよいとしよう。しかし、本人達の意識が間違いなくメタルであり、しかも極めて良質の作品を作り続けているのに、ほとんど全く無視され続けてきたバンドがあった。聖飢魔IIである。正確に言えば、完全に無視はされていない。彼等のファーストアルバムは『B!』誌でレビューされ、何と「0点」を食らったと聴いている。筆者はその評を見たことがないが、もし評者が冗談でそうしたのでないとすれば、これは問題だと思う。
さらに問題なのは、彼等がどれだけ凄いライブをしようと、『The Outer Mission』等の優れたアルバムを何枚作ろうと、『B!』誌は徹底的に無視してきたということだ。「いや、聖飢魔IIは他の雑誌が十分取り上げるから『B!』が取り上げる必要はない」というのは反論にならない。というのも、スティーブ=ハリスに対するあるインタビューで編集部はラウドネスやヴァウワウと共に『恐怖のレストラン』を彼に聴かせているのだ。ということは、日本有数のメタルバンドと認めていながら、意図的に紙面上は無視していると、考えざるを得ない。何の事情があるのか、それは分からない。ひょっとしたら、やむにやまれぬ事情があるのかもしれない。だがそれは少なくとも紙面上は分からない。
では、これはどうだろう。恥ずかしながら、筆者がここカナダに移住してから初めて知った日本のメタルバンドがある。Ritual CarnageとSighだ。前者はカナダでも比較的マニア向けのバンドだが、後者は何とメタル雑誌の表紙を飾るほどに評価と人気が高いバンドである。にもかかわらず、筆者は両方ともほとんど全く知らなかった。Ritual Carnageは名前は知っていたが、海外のバンドだと思っていたし、Sighに至っては、こちらで雑誌の写真を見た時に韓国のバンドかと思ってしまったほどだ。もちろん、これは筆者の無知であり、筆者がよいバンドを自分で探さないのが悪いのかもしれない。だがそれでも、『B!』誌が彼等を取り上げていれば状況は全く違っていたはずだ。大体、海外の雑誌が特集を組むくらいなのに日本の雑誌が無視では、富田勲やYMOの頃からあるいは何も変わっていないのか?と思ってしまいそうになる。
別にXやSiam Shade、東京ヤンキーズ、あるいはSex Machingunsを取り上げろとは言わないし(あまり筆者も取り上げてほしくない気もするが)、インディーズ発掘雑誌のようになるのはかえってつまらないと思う。しかし、Gargoyle, Youthquakeといったバンドまでも無視しているのはどうかと思わざるを得ない。どちらもビジュアル系の雑誌で取り上げられるようなバンドだということで敬遠しているのだろうか?中心編集者がルナシーを好むような雑誌でそれは変だと思うが…
(Youthquakeに関してはダイナモへの出演が決まっているらしい。手の平を返したように記事が載るとしたら、それこそお笑いぐさではないか?しかし幅広くよいミュージシャンが取り上げられ紹介されるのはよいことなので、よしとしようか)
「いや、『B!』は元々洋楽指向の雑誌なのだから、日本のバンドに熱心になるのは方向性として違うのだ」という見解は当てはまらない。なぜならば、コンチェルト=ムーンの特別視という事実があるからだ。念のため言っておくと、筆者はコンチェルト=ムーンを取り上げるなと言っているのではないし、大体彼等は好きだ(ただボーカルは弱いと思っていたが)。ただ、他のバンドを等閑視して彼等だけを特別視している理由が分からないのだ。
「いや、メタル専門誌だからってそんなに何でもかんでも取り上げるって訳にはいかないんじゃないのか」という疑問も当然だが、残念ながら外れている。というのも、『B!』誌はとてもメタルとは言えないバンドを熱心に取り上げているからだ。もっとも顕著な例はイエスだ。もちろんトレヴァー=ラビンが主導権を握っていた時代は彼等の音も大きくメタル寄りに傾いていたが、彼等のキャリア全体から見るとそれが例外的な時代であったのは否定できない。にもかかわらず、既にメタルとは無縁になった彼等のライブレポートまでご丁寧に載せるのはなぜだろうか?トレヴァー=ラビンのインタビューというのならまだ分かるが…
しかし、まぁイエスはよかろう。キング=クリムゾンもロバフリ先生御自身「我々の音楽はメタルよりもヘヴィだ」といっているのだからよかろう。分からないのは、ジェネシスやピンク=フロイドのレビューが載ることだ。いや、別に載せたって構わない。彼等はメタルにも多大な影響力を持っているのだから。しかし、メタルバンドや彼等の作品をわざわざ載せないでおいてかわりに取り上げるほどのものであろうか?
編集部としてもインダストリアルやいわゆる「モダン=ヘヴィ」との対応に苦慮しているというのはよく分かるが、ここでも『B!』の方針というのはよく分からない。マリリン=マンソンやNINはライブレポを丁寧に載せ、ミニストリーはレビューのみというのは何故なのだろうか?いや、前々回のダイナモのレポートでは、エンペラーのレポートを割愛してまでラムシュタインのレポートを掲載し読者の不評を買ったということまであった。筆者はこの辺選り好みしないので、個人的に文句はないが、姿勢を疑われても仕方ないだろう。
「いや、単にメタルマニア的な雑誌になってなくていいではないか」という見方はよく分かる。広告はともかくとして、『B!』誌には直接メタルとは関係ないコーナーが実に沢山ある。筆者は、それはそれで一つのやり方だと思うし、面白く読んでいるコーナーもある。ただ、問題だと思うのは、それがおまけというにはあまりにも量的にも質的にも多いということだ。つまり、これだけ関係ないことに紙面や労力を割けるのであれば、もっとメタルに関する内容を豊かにできるのではないかということだ。
筆者は常々「何故日本のメタルが一向に盛り上がらないのだろう」と思い、どうしても盛り上げようと思っているようには見えない『B!』誌の姿勢に不満だった。しかし、それも当然だろうという気もしてくる。どうも『B!』誌はメタルの情報誌というよりはむしろ極めて大規模な同人誌に近いものなのではないかと思えてきたからだ。少なくともそうでも考えないと、筆者には納得のいかない点が多すぎる。
蛇足だが、読者から「日本のメタルも取り上げてくれ」という投書もどうやらよく来るらしい。しかしそれに対する編集長の解答は「シーンが盛り上がってこないと取り上げる意味がない」というものだった。これは本末転倒、最低でも自己撞着だろう。洋楽は自ら盛り上げておいて、邦楽は盛り上がるのを待つというのは何故なのか?まぁそれもよしとしよう。しかし、「シーンが盛り上がるのを待ってそれに追従する」というのは、売れさえすれば何でも取り上げるという雑誌や時流に合わせて方向性をコロコロ変える雑誌とどこが違うのか、と言いたくなる。
(ついでに言えば『B!』及び中心編集者がいまだに「メタルシーンよ盛り上がってくれ!メイデンよ、ジューダスよ、シーンを牽引してくれ!!」というシーン任せの態度でいるのは全く感心できない。もちろん、メタルシーンが衰退すれば編集者は生活に関わるのだから当然といえば当然だし、時流に合わせてコロコロ態度を変えるのもおかしな話だが。
また実際、この点で『B!』誌に見切りをつけたマニアは自力やマニア同士の直接コミュニケーションによって国内のバンドを捜しているという状況がどうやらあるらしい。それがビジュアル系漁りの女子高生程度のものになっているのではないかという危惧もないではないし、「アングラ」「インディー」であること自体に価値を見出すというのであれば本末転倒だと思うが、こういうマニアの存在の背景には『B!』誌の姿勢があるというのは否めないと思う)
どうも編集部は「独自のものを作る」ということと「自分たちの好むものを取り上げる」ということがどこかでこんがらがっているのではないか、と思われる。
また、再びブレイズネタになって恐縮だが、ブレイズ解雇前のひどい噂の蔓延は目に余るものがあった。しかし、日本におけるその発信源が他ならぬ『B!』であるのも確かだと思う。というのも、実に御丁寧に「○○××という噂がある」とことあるごとに掲載していたからだ。当のスティーブ=ハリス本人がこれには大変迷惑しているというのはそれこそ『B!』掲載のインタビューを見ても分かる。「そんなひどい噂がどこから出るんだろうね?」とスティーブかつぶやくのを編集者諸氏はどんな思いで聞いていたのだろうか?
(ちなみに、筆者は本当に恥だと思うが、この点に関してはカナダの『BW&BK』も同罪かそれ以上にひどい。ちょっとメイデンのことを知っていればすぐにでまかせだと分かる程度の無責任な噂をわざわざコラムを作って掲載しているのだ…)