伊豆の踊子
映画やドラマでもおなじみの、一高生と旅芸人の踊子との邂逅
これはやはりよくできている。小説を書く上でのテクニックはふんだんに用いられていて、何度読んでも勉強になる(ただ何度も読んでいるとさすがにわざとらしさが目に付く)。表現も美しく、時々意表を付く表現もあって、さすがだと思わされる。そこはなとないかすかにエロい雰囲気も中々いい。が、一体言いたいことが何であり、それを存分に掘り返せているかという問題になると、今一つ食い足りないと言わざるをえない。色々な「名作」に感じることだが、本質の一歩手前をうろうろしているだけという感覚が、この作品にも漂っている。
いいんだけど、何かもどかしい作品……(63)
作者本人と思しき人間が色々な動物を飼っては殺し飼っては殺しする鬼畜小説
が内容の割には妙に美しい表現であまり起伏なく綴られる。川端康成はさすがにこういう鬼畜ネタになると生き生きしている。動物の命など屁とも思っていないような残酷さと美しい表現の同居がたまらない。それに毎度ながら意表をつく表現が冴えている。惜しいのは、それまでのいい雰囲気に引き換え、ラストが悪すぎる。唐突に終わらせるだけ終わらせたという安直な幕切れに、内容も悪すぎる。これだけでも大いに遜色がある。
惜しい! 結末がもっとうまくつけられていればもっと名作になっただろうに(62)
タイトル通り文庫本にして精々数ページの掌編小説が一冊に数十編も納められている。
内容、出来不出来にもかなりのばらつきがある。特にいかにも新感覚派的という作品は出来のばらつきが大きく、面白いものは面白いが失敗作は悲惨だ(まぁそれが実験的な文学を読む楽しみの一つでもあるが)。フェチや変態ネタはやっぱり本領が出ている他、ホラー的な作品が意外といい。夢ネタは訳が分らなくて面白い。幻想系は程よく訳が分らなくてよいが、ちとやりすぎな作品も多い。逆に、子供ネタはあまりの幼稚さに読むに耐えないし、妙に人道的な作品には何か裏を感じてしまう…… 全体に、「死」にこだわりがあるのは分るが、ちと病的で気が滅入る。もう一つ全体に感じるのは、文章が荒く悪文が多いと言わざるをえないことで、「これが川端康成か?」と思うこともしばしばであった。とはいえ、比喩的な表現など、さすがに時々面白いとおもわされることもある。ただ、やっぱり長さからか書き足りない作品が多い。
例によって:複数の○「心中」「顕微鏡怪談」「百合」;○「金糸雀」「写真」「人間の足音」「母」「子の立場」「竜宮の乙姫」「合掌」「奥上の金魚」「笑わぬ男」「離婚の子」「化粧」「妹の着物」「夏と冬」「不死」;×「帽子事件」「踊子旅風俗」;複数の×「白粉とガソリン」(タイトル負け)
これだけ煮え切らない作品をこれだけ並べられるとさすがに疲れる……ごくろうさま……と言うだけのもの(55)