(2005年6月10日急逝されました。御冥福をお祈りします)
大人のための残酷童話 (1982-3)
古今東西の童話・昔話・奇譚を倉橋流に翻案した掌編物語が都合三十篇弱
あるのだが、どれも悪意や皮肉が効いていて面白い。特に性の問題がうまくギャグにされていて、とりあげ方に品があり、不快感を強制されずに楽しむことができる(読者を不快にさせることしかできないサディスト作家は見習うべきだ。いや見習え!)。何篇かは道徳批判にもなっていて、それもまた出し方が上手い。そういうこともあって、「鏡を見た王女」「子供達が豚殺し……」「天国へ行った男の子」の三つが一番いいと思う。「人魚の涙」はオチがすばらしい。逆に、「白雪姫」は悪趣味が過ぎる。「かぐや姫」はトンデモ童話として楽しめるが、出来としてはこの中では今一つ。「飯食わぬ女異聞」は面白いが「何だかなぁ……」
その他の作品について、例によって書くと:○三つ「鬼女」;○二つ「一寸法師」「血で染めた…」「名人伝補遺」「パンドラ」「ある恋の…」;○一つ「世界の果ての泉」「虫になった…」「新浦島」「猿蟹戦争」「故郷」;あとは無印だが、全体に上質なので(読めない作品はない)、無印でも凡作家の○以上のレベルはある。
面白い! 内容が内容なので「大人のための」なのだろうが、むしろ子供に読ませるべきだと思う、ってのは過激すぎるだろうか? 翻案だからという意味で抑えても(72)
タイトル通りの掌編が都合二十編
前半はこの大作家の持ち味がいかんなく発揮されていて面白いが、後半にはあまりそれほどいい作品がない。屈折したユーモア、どぎつくかつ品がいい「性」のとりあげ方、などやはり彼女ならではのリアルでありながらファンタジックな世界が、やはり独特な文体(学術語の使い方がうまく、嫉妬させられる……)で作り上げられる。幸か不幸か、この作家の長篇を読んだことはないが、短編の雰囲気はすばらしい。贅沢な苦言を言えば、いくつかの作品は長篇のためのスケッチという印象が漂っていて、小説書きには参考になるものの、単に作品と見ると今一つ突き抜けたものがない。
例によって:複数の○「革命」「聖家族」「交歓」;○「首の飛ぶ女」「事故」「獣の夢」「発狂」(しょうもないが面白い)「生還」「瓶の中の恋人たち」「カボチャ奇譚」「イフリートの復讐」;○かつ△「オーグル国渡航記」(作り話に見えなくてやや興醒め);○かつ×「アポロンの首」(途中からダメ。ラストは特にダメ);×「幽霊屋敷」(前半はパロとして読めるが……);残りは無印。 「聖家族」「交歓」が特によいと思う。
こんなのが量産できればすごいなぁ……と思わされる(73)
著者のデビュー作である表題作品を含むごく初期の作品集
リアリズムでもなく、浪漫派とも言えず、かといって前衛かと言えばそうでもなく、ファンタジックではあるものの、ファンタジーかと言われればどうなんだろう……という要するに個性的としか言い様のない世界がもう既に出来上がっており、大作家のスタート地点を垣間見る気がする(やはりこのくらいの勢いがないと文壇に打って出るのは難しいのか……)。一貫して「組織」をテーマにしているが、全てが隠喩のような、そうでないような……やっぱりよく分からない……しかしこの世界を支える文体はこれまた独特で、個性の塊となっている。こっちは間違いなくそう言える。「」の意図的な省略、専門用語など外国語の単語を大抵は説明無しでそのまま使う、意図的な平仮名化など(これはさすがに時々やり過ぎている)、テクニック面でも非常に特色がある。学術語の効果的な使い方が上手く、嫉妬させられる(盗め…(苦笑))。ただ、「愛」と「あい」が明らかに区別されているのはどういう意味があるのかよく分からない。作品個々に一つだけ文句を言えば、「蛇」のラストはいただけない。訳が分からないのはそれはそれでいいが、もうちょっと面白い結末をつけてもよかったのではないだろうか。作品自体は傑作であるだけに本当に惜しい。堂でもいいことかもしれないが、新潮文庫版の野中ユリによるカバーは内容に合っていて非常に好きだ。
こんな世界が構築できればさぞかし満足だろう……(71)