CM2S書評
2023

#例によって、出てくるものはまるで無秩序です。
#書評とは言っても多分古いものばかりです。
#基本的に「読んだら書く」なので、定期的に量が増えるとは限りません。たまったら新しいページになります。
#しないつもりでしたが、一応大雑把な評価をしておきます。

書評1
『野間宏集』/シェストフ『哲学千一夜』/フォークナー『響きと怒り』/田辺洋二『英会話の常識非常識』/トミー植松『日本人の不思議な英語』/小池荘彦『心霊写真』/八杉佳穂『マヤ文字を解く』/大江健三郎全作品1/中村保男『名訳と誤訳』/副島隆彦『英文法の謎を解く』
書評2
ミスター高橋『流血の魔術 最高の演技』/永井均『ルサンチマンの哲学』/田中喜美子『書きたい女たちへ』+千本健一郎『「いい文章」の書き方』+大隈秀夫『(実例集)うまい文章が書ける本』/笠谷和比古『徳川吉宗』/中島梓『ベストセラーの構造』/荷宮和子『若者はなぜ怒らなくなったのか』/寺坂英孝『非ユークリッド幾何の世界』/奥成達『学校では教えられない日本史読本』/斉藤茂太『初対面で相手の心をつかむ法』/斉藤美奈子『読者は踊る』
書評3
佐高信・テリー伊藤他『お笑い創価学会;信じるものは救われない』/高橋源一郎『文学がこんなにわかっていいかしら』/「学会マネー」研究会『創価学会財務部の内幕』/亀井勝一郎『青春について』/福田和也『作家の値うち』&安原顕『読書狂いもほどほどに』/宮崎市定『科挙』/大宮信光『科学の珍説・奇説おもしろ雑学』/勢古浩爾『まれに見るバカ』/別宮貞徳『翻訳と批評』/ヘンリー・スコット=ストークス『三島由紀夫 死と真実』
書評4
平勢隆郎『中国古代の予言書』/山本信幸『「キャバクラ」の言語学』/池田荘子『セックスレスな男達』/加賀乙彦『死刑囚の記録』/安原顕『やっぱり本は面白い』/小谷野敦『バカのための読書術』/柳原三佳『「交通事故」のウソ』/河合隼雄『コンプレックス』/鎌田慧『弘前大学教授婦人殺人事件』
書評5
呉智英『知の収穫』/加藤隆『『新約聖書』の誕生』/宮田律『現代イスラムの潮流』/石田保昭『ムガル帝国とアクバル大帝』/呉智英『言葉につける薬』/吉川忠夫『王羲之:六朝貴族の世界』/日下公人『「逆」読書法』/籾山明『漢帝国と辺境社会』/村瀬興雄『アドルフ・ヒトラー』/野田正彰『コンピュータ新人類の研究』
書評6
伊東光晴『ケインズ』/別宮貞徳『特選 誤訳 迷訳 欠陥翻訳』/小林よしのり他『自虐でやんす』/松下竜一『怒りていう、逃亡には非ず』/松下竜一『ルイズ:父に貰いし名は』/呉智英『ロゴスの名はロゴス』/山田忠彰『ヘーゲル論;理性と他性』/尼川洋子(編)『女の本がいっぱい』/日商岩井広報室《トレードピア編集部》(編)『英語は度胸』/金田一春彦『日本語』
書評7
小杉泰『イスラームとは何か』/中島梓『コミュニケーション不全症候群』/ロム・インターナショナル『世界の紛争地図の読み方』/長部三郎『伝わる英語表現法』/吉永良正『まだわからないことがある』/佐々木知子『少年法は誰の味方か』/小和田哲男『明智光秀』/遠山美都男『天智天皇』/小和田哲男『徳川秀忠』/千葉憲昭『オーディオ常識のウソ・マコト』
書評8
高橋和夫『スウェーデンボルグの思想』/柳瀬善男『大学病院の掟』/酒井邦秀『どうして英語が使えない?』/Jディミトリアス『この人はなぜ自分の話ばかりするのか』/辻達也『江戸時代を考える』/樺島忠夫『文章構成法』/田地野彰『「創る英語」を楽しむ』/安藤健二『封印作品の謎』/小林薫『英語通訳の勘どころ』/朧谷寿『藤原氏千年』
書評9
小沼純一『サウンド・エシックス』/平井正『ゲッベルス』/潮匡人『田中知事の「真実」』/武田邦彦『リサイクル幻想』/碓井真史『なぜ「少年」は犯罪に走ったのか』/中島文雄『日本語の構造』/尾形尊信『英語の誤訳』/岩永文夫『フーゾクの経済学』/武田京子『わが子をいじめてしまう母親たち』/『新恋愛小説読本』
書評10
桑原武夫『文学入門』/司馬理英子『のび太・ジャイアン症候群』/風間喜代三『言語学の誕生』

書評2006その1
ウィルソン=ブライアン=キイ『メディア・セックス』/大泉実成『説得―エホバの証人と輸血拒否事件』/下薫『子供を英語の達人に!!』/由水常雄『正倉院の謎』/清水一夫『UFOの嘘』/別冊宝島Real 027『立花隆「嘘八百」の研究』/古畑種基『法医学ノート』/広中克彦『お役人さま!』/上野正彦『死体は語る』/桜井弘(編)『元素111の新知識』
書評2006その2
三森ゆりか『外国語を身につけるための日本語レッスン』/藤原智美『なぜ、その子供は腕のない絵を描いたか』/杉本大一郎『エントロピー入門』/大島正二『漢字と中国人』/遠藤紹徳『間違いだらけの中国語学習』/鈴木義里『日本語のできない日本人』/森昭雄『ゲーム脳の恐怖』/ロバート=K=レスラー他『快楽殺人の心理』/永沢光雄『AV女優』/寺沢芳男『英語オンチが国を亡ぼす』
書評2006その3
小笠原喜康『議論のウソ』/松田卓也・木下篤哉『相対論の正しい間違え方』/丸山健二『まだ見ぬ書き手へ』/志賀浩二『微分・積分30講』/GGジョーゼフ『非ヨーロッパ起原の数学』/岡部・戸瀬・西村(編)『分数ができない大学生』/西村和雄『学力低下が国を滅ぼす』/竹内淳『高校数学でわかるシュレディンガー方程式』/バクシーシ山下『セックス障害者たち』/西村和雄(編)『ゆとりを奪った「ゆとり教育」』

書評2007その1
張明澄『間違いだらけの漢文』/西成活裕『渋滞学』/岡田尊司『脳内汚染からの脱出』/工藤隆一『力士はなぜ四股を踏むのか?』/谷田和一郎『立花隆先生、かなりヘンですよ』/小栗左多里『英語ができない私をせめないで!』/小栗左多里+トニー=ラズロ『ダーリンの頭ン中』/佐々淳行『謎の独裁者・金正日』/Sウェッブ『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』/西野友年『ゼロから学ぶエントロピー』

書評2012その1
桑田昭三『偏差値の秘密』/谷崎潤一郎『陰翳礼讃』/長谷川滋利『メジャーリーグで覚えた僕の英語勉強法』/立花隆『日本共産党の研究』/松島栄一『忠臣蔵』/吉川幸次郎『漢の武帝』/大川貴史『高校化学とっておき勉強法』/保江邦夫(監)『早分かり物理50の公式』/永沢光雄『AV女優2』/奥野正寛『ミクロ経済学入門』

書評2013その1
竹内淳『高校数学で分る線形代数』/スペンス『議論に絶対負けない法』/開高健『ベトナム戦記』/保坂展人『いじめの光景』/奥野修司『ねじれた絆』/秋月龍a『「正法眼蔵」を読む』/中津燎子『なんで英語やるの?』/グループ1984年『日本の自殺』/平川南『よみがえる古代文書』/大野晋『日本語について』
書評2013その2
岩田規久男+サトウサンペイ『嘘ばっかりの「経済常識」』/茂木弘道『文科省が英語を壊す』/高砂浦五郎『親方はつらいよ』&古内義明『イチローVS松井秀喜』/小方厚『音律と音階の科学』/増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』/近江誠『間違いだらけの英語学習 常識38のウソとマコト』/ヒヤ小林『一ノ矢 土俵に賭けた人生』/山根英司『高校生のための逆引き微分積分』

書評2014その1
ウォルフレン『人間を幸福にしない日本というシステム』/宮川俊彦『心が壊れる子どもたち』/大原健士郎『「不安と憂うつ」の精神病理』/ウィルソン+シーマン『連続殺人の心理』/大越愛子『フェミニズム入門』/河原敏明『天皇裕仁の昭和史』/薬師院仁志『英語を学べばバカになる』/清水真木『友情を疑う』/キム・ジョンキュー『英語を制する「ライティング」』/ダウリング『シンデレラ・コンプレックス』+フェズラー&フィールド『グッドガール・コンプレックス』
書評2014その2
並木伸一郎『第6の密約』/フロム『愛するということ』/石井啓一郎『マルチリンガルの外国語学習法』/千野栄一『外国語上達法』/ボーヴォワール『人間について』/いかりや長介『だめだこりゃ』

書評2015
外山軍治「則天武后」/黒沼克史『援助交際』/李志綏『毛沢東の私生活』/ヒュー=ミラー『殺人データ・ファイル』/円地文子『源氏物語私見』+瀬戸内寂聴『わたしの源氏物語』

書評2016その1
永山則夫「無知の涙」/サンデル『これからの「正義」の話をしよう』/ジョンストン『紫禁城の黄昏』/岡本太郎『今日の芸術』/杉山隆男『兵士に聞け』/佐木隆三『死刑囚 永山則夫』/「少年A」の父母『「少年A」この子を生んで……』/朝日新聞大阪社会部『暗い森 神戸連続児童殺傷事件』/寺尾善雄『宦官物語』/鵜飼秀徳『寺院消滅』
書評2016その2
菊池昌典他「中ソ対立」/宮川俊彦「自分を壊す子どもたち」/奥村宏「新版 法人資本主義の構造」/愛新覚羅溥儀「わが半生」/篠田達明「徳川将軍家十五代のカルテ」/ピーブルズ「人類はなぜUFOと遭遇するのか」

書評2017
鹿島敬「男と女 変わる力学」/ニーチェ「この人を見よ」/久徳重盛「母原病」/チョン・チャンヨン「英語は絶対、勉強するな!」

書評2021
松本聡香「私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか」/吉行淳之介「恋愛論」/小笠原博毅・山本敦久(編)「反東京オリンピック宣言」/飯山陽「イスラム教の論理」/日本ペンクラブ編・俵万智選「くだものだもの」/寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」/町沢静夫「成熟できない若者たち」/兼松左知子「閉じられた履歴書−−新宿・性を売る女たちの30年」/宮崎謙一「絶対音感神話−科学で解き明かすほんとうの姿」/呉善花「「漢字廃止」で韓国に何が起こったか」

書評25
西寺郷太「マイケル・ジャクソン」/立花隆「田中角栄研究 全記録」/筒井康隆「みだれ撃ち涜書ノート」/藤原智美「暴走老人!」/上祐史浩・有田芳生「オウム事件17年目の告白」/早川紀代秀・川村邦光「私にとってオウムとは何だったのか」/中野孝次「実朝考 ホモ・レリギオーズスの文学」/柳谷晃「円周率πの世界」/永井忠孝「英語の害毒」/奥田祥子「男はつらいらしい」

書評26
小野寺拓也・田野大輔「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」/広瀬健一「悔悟 オウム真理教元信徒 広瀬健一の手記」/龍田恵子「日本のバラバラ殺人」/松里公孝「ウクライナ動乱」/正木伸城「宗教2世サバイバルガイド」/吉本隆明+坂本龍一「音楽機械論」/坂本龍一「音楽は自由にする」/吉村栄一「坂本龍一 音楽の歴史」/遠藤周作「恋愛とは何か」/水上勉「恋愛指南」


このページのおしながき

澤田典子「アレキサンドロス大王」/ 坂本拓弥「体育がきらい」/ 近田春夫「グループサウンズ」/ 野原一夫「太宰治 生涯と文学」/ 大隈三好「切腹の歴史【第三版】」/ 文芸春秋(編)「統一教会 何が問題なのか」/ ジェイムズ(篇)「愛欲と殺人」



澤田典子「アレキサンドロス大王」(ちくまプリマー新書(2020))

御存知アレキサンダー大王について、生涯は無論のこと、死後の扱われ方まで割とまんべんなく論じ切った書物で、恐らくこれ一冊で少なくとも一般人レベルではかなりの「通」になれるであろうよくできた便利な新書である。やはり新書はこうでなければ…と思う

これだけ広く論じておきながら少なくとも素人目にはバランスが良く、恐らく入門書としても適していると思われる

(実は評者・私の専門分野にもアレクサンダー大王は結構絡んでくる(とされてきた)ので、大いに参考になった…(ただ…筆者の見解からすると…むしろ実は関係がないという方向に論が進みそうなのが何とも言えないのだが…))

これだけバランスが良いのに、さらに専門家の研究の方向性の変遷にまで触れており、その観点からもなかなか面白かった

全くの余談だが…こんなところでアイアンメイデン(もちろんロックバンドの方)の名を見るとは思わなかった(まぁ…なぜ出てきたかはメイデンのファンなら分からないはずはないし、「そりゃそうだよな…」なはずではあるが…)


なかなかの名著なのではないかと思う。お勧めできます(上の上)


坂本拓弥「体育がきらい」(ちくまプリマー新書(2023))

最近「ちくまプリマー新書」が多いが、職場近くの市民図書館に沢山入れてあるから以上の意味は特にない

さて、この書物は体育哲学の専門家が「体育嫌い」という現象を分析してみせたもの、ということになるのであろう

その問題について、主に学校の「体育」という教科の成り立ちや現状から論じてみせており、そこには説得力もあり、「看板に偽り」はない

ところが、評者・私も「体育嫌い」なのであるが(どころか今では訳あって「スポーツ嫌い」でもある)、今一つ隔靴掻痒感がぬぐえないのはなぜであろうか?

思うにこれは、やはり著者が「体育側」の人間であり、「体育なんて好きにならなくてもいい」と言っておきながら、特に後半で「しかし身体の大事さということが…」という自分の立場に意識的にか無意識にか論旨を捻じ曲げていること、そして、その点で「体育嫌い」に寄り添うことに失敗していること、によるのではないかと思う…

つまり、何を話していても自分の主張に誘導する人と話している時のように、「そんなことを言っているのではないんだけどな…」という残念さが、特に後半に行くにしたがって強くなってくる… そこがちょっと残念…

要するに問題の核心には今一つ至れていないのではないか? そう感じざるをえなかった…

(それとは裏腹に、著者はある赴任校で、体育嫌いどころか動くことすらままならない肥満した生徒とただ一緒に歩いてあげていたそうであるが、「これだよ!必要なのはこれだよ!」と評者・私は思ってしまった…)

もしかしたらこの「ちくまプリマー新書」全体の方針によるものなのかもしれないが、「(ギクッ!)」みたいな「ふざけた」(と言わせていただく)筆致は不要だと思う… 「岩波ジュニア新書」みたいなのをひょっとしたら編集部は意識しているのかもしれず、こちらにも確かに常時「…だよね!」「ほっとけ!」みたいに、どっかの三流文芸評論家みたいな書き方をしているものはあるにはあるが…マネするとしてもそんなところをマネするべきではないだろう… はっきり言って白けるだけである…


今一つ物足りなさは感じるものの、全体としては割とよくできている論考だと思う(上の下)


近田春夫「グループサウンズ」(文春文庫(2023))

御存知近田春夫先生によるグループサウンズ論

対談を活字化したものであるが、近田先生が自らのGS感を思い切って披瀝しており、とても面白い

というわけで、「グループサウンズ」史を通覧したものというよりは近田先生の目に映ったGSムーブメントの有様という体裁なのであるが、もちろんそれで十分である

とはいえ… GSというムーブメントがいかに作られたものであり、その「作り手」の都合で「当事者」の思いがどんどん踏みにじられていく過程が割と克明に語られており、そこは読んでいて気が滅入る…

我々世代(新人類世代;音楽的には「YMO」である…)にとっては、ひたすら「気持ち悪いムーブメント」でしかなく、親世代に無理やり見聞きさせられる度に嫌悪感と共に反発を覚えたものだが… それは「気持ち悪い」ものにわざわざ作り上げられたものだったのだから当然だったのである…


面白い! 内容のやるせなさはともかく、名著である!(上の上)


野原一夫「太宰治 生涯と文学」(ちくま文庫(1998(<1989)))

太宰治という作家は大学生時代にちくま文庫の全集を全巻読んだ程度には好きなのだが、それは作品についてであって、太宰という人についてはそれほど興味はなかった… というわけで、評伝は初めて読む(と思う)。太宰論というものは恐らく読んだことがないと思う(そもそも作家論を読むという習慣が評者にはあまりないのだが…)

そのような事情であるから、評者はこの分野に特に詳しいというわけではないが、太宰の評伝としては標準的なものではないかと思う

太宰の生涯は出生から死に至るまでまんべんなく追われており、作品についても割と丹念に取り上げられている、ので、これ一冊でかなり「通」にはなれるはずである

ただ… 太宰の何と言うかダメ人間ぶりも容赦なく追われており、どちらかというと太宰を「持ち上げ」たい向きよりは、より客観的に太宰という人間を捉えたい人々向き、と言えるかもしれない… 要するに、なかなかの「クズ」である…

出生環境からしてなかなかの陰鬱さで… その点はやや同情できるかもしれない…(突飛な比較かもしれないが…哲学者ウィトゲンシュタインの家系がやはり自殺者を多く出した陰鬱なものであったのを連想してしまった…)

そして、太宰と言えば、何度となく自殺未遂を繰り返した上にようやく、しかも謎めいた形で「成功」したという最期がどうしても気になるのだが、そこもやや詳しく取り上げられている(「ネタバレ」はなるべく避けたいものだが…筆者の見解はいわば「ガチ」説であって、狂言自殺失敗説は退けられている(「他殺説」(そんな説があるらしい!)は論外とのこと))


決して読んで愉快な書物ではないが… ためにはなる…(←と二回続けて同じようなことを書いたのも単なる偶然である…)(上の中)


大隈三好「切腹の歴史【第三版】」(雄山閣(2023(<1973)))

おなじみこの習俗についてその起源から乃木大将殉死、三島事件までを通覧したという、この事柄について何か意見するなら必読の書であることが一見して分かるという書物

(「オリジナル」が1973年、改版が1995年に、そしてこの第三版が2023年に出版された、ということらしい。もっとも、それぞれの版にどういう違いがあるのかは評者には分からないし、当座どうでもいい)

この習わしをテーマに日本の歴史を通覧できるという点ではもちろん大変便利な書物であるが、まっとうな、ということはつまり特に素人には「ハードな」歴史書で、一次文献資料が多数引用されているがほぼ全て現代語訳なしの「原文」であり、そんなに難しいものではないものの、やはり素人には読むのに骨が折れ、慣れてない人間にはかなりキツい…

(この辺を「何とかして」新書サイズにできないものか?とも思うが…それは別の著者に新たに書いてもらった方がいいのかもしれない(しかしいつになることやら…))

資料の読みにくさもさることながら、恐らく活字を組んで出版された書物だと思われるが、その組み方が非常にしばしばヨレていて、そのことも読みにくさに貢献してしまっており、さらにちょっと残念である…

とはいえ、そうした欠点を覆って余りあるものはあると思われる…

三島事件については、今はもっと詳しい書物が手軽に読めるので特に貴重さは高くはないものの、「知らなかったこと」はいくつかあり(三島の介錯をした「古賀」氏はよく「一刀両断した」と言われているが、実はやはり何度かしくじっているらしい(ということは三島は相当辛かったはずである…)ということ等々…(ちなみに古賀は森田の介錯もしているがこちらは一度で成功しているとのこと(「練習」できることではないからいくら居合の達人といえども仕方ないのかもしれない)))その点も興味深い

奥付の下にさりげなく、既に故人の著者はもちろん近親者とも連絡が付かなくなっていることをうかがわせる一文があり、何とも言えない…(昔、唐沢俊一が編集した「ヘンテコマンガアンソロジー」的なものに同様の「お願い」(連絡先を御存知の向きはお知らせくださいという旨)が書かれていたのを思い出した…)


読んで楽しい内容ではないが…有意義な一冊である(上の下)


文芸春秋(編)「統一教会 何が問題なのか」

安倍元首相殺害事件によって急激に問題視されるようになった旧統一教会問題に関する文春の記事を編集したもの

どちらかと言えば、殺害事件の遠因となったとされる献金問題などの反社会的な側面や教祖一族の支離滅裂さに焦点が当てられていて、なぜこのようなものがこうまで影響力を持ってきたのか、正直訳が分からない…

そして、そこがまさに今一つこの書も「踏み込み」が足りないと言わざるを得ないのだが… 一つの解答として「政治(家)との結び付き」ということをどうも指摘したいようである

たまたま評者もこの教団系のサークル等の活動が活発な大学にいて、特に学生寮時代は彼等の活動を身近に感じていて、実は彼等の話を聞いたり講義を受けたりしたこともあるのだが、教説としても荒唐無稽で笑止千万と言わざるを得ない… のだが、その点はあまり触れられていない(もっともそういう点に関してはもっと良い書物も別に既にあるのだけれど…)

御存知宮崎哲弥や島田裕巳も参加している最後の討論も、やはり内容の薄さ踏み込みの浅さが気にはなるが…、案外面白く読める、し、今(2023年10月)別の問題で何かと話題の鈴木エイトが一章担当しているのは驚いた(ただし…旧統一教会を対立軸としてジェンダー論を展開しようとしていて、そこはあまり感心しなかった)

政治と宗教の絡みということに関しては、宗教団体が「集票組織」として機能してしまうということを指摘し問題視しているが… 評者もこの点苦々しく思うのは同感であり、「投票率を上げることで「宗教票」を無効化せねばならない」というのも全くその通りだと思う(もちろん、宗教票がどうこう言う以前に投票率はもっと高いべきだと思う)


あまり読んでいて楽しい書物ではないし、踏み込みの甘さも正直気にはなるが、有益な書物ではある(中の中)


ジェイムズ(篇)「愛欲と殺人」(扶桑社ノンフィクション(1996))

タイトル通り愛憎絡みの殺人事件を世界中から(やはり英米が多いが…それ以外の国の事件も多い;なお日本の事件はない(後述の通り日本人絡みの事件はあるが))都合50件かき集めた犯罪実録集

事件は有名なもの(エド=ゲイン、デ・サルヴォ、ペーター=キュルテン等…佐川事件も取り上げられている…)から、無名なものまで様々…

であるが…容易に予想がつくようにむしろあまり有名ではない事件の方が面白い…というか「訳が分からない」…

下宿先の母娘に迫られて…という話や殺人修道女の話(しかも奇怪な方法で処罰され、さらにそれを生き延びてしまう…)など…不可解すぎてもはや笑うしかない…

ニーチェ狂信者の数学者の殺人狂なんて事件も出てくるが…道徳批判に御熱心な「ニーチェの尻馬」学者先生は、もちろんこの事件のことは御存じなのだと予想するが、この事件に何と思うのであろうか?

取り上げられている事件や犯人全体に共通する特徴が、序文を書いているコリン=ウィルソンも書いている通り、犯行の際の理不尽な執拗さ(大抵滅多刺し、銃であれば連射)と犯行後の苦しい言い訳なのであるが… 素人でもちょっと追求したくなってくるほどである…

もう一つ… 御存じ佐川事件についても割と詳しく取り上げられているが… 佐川とその親族のどうしようもなさにはもはや呆れるしかない…(御存じの通り佐川本人は先日「食人タレント」人生を全うしてしまったのであるが…) 野次馬根性であるが…「生食」していたとは初めて知った…日本人らしいというか何と言うか…


前半は割と事件の羅列になっていてあまり感心しないが、後半は理不尽な事件の連続で、こういう表現も妙なものだが「面白く」読める…(上の中)


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