さて、この節ではドラム譜の勉強をしましょう。
 ドラム譜という言葉はあまり聞いたことがないと思いますが、前節で勉強した楽譜の一種だと思ってください。

 ご存知のように、ドラムというのはタイコの集まりです。
 タイコには音程がありませんから(注1)、「どのタイコを叩くか」「どういうリズムで叩くか」だけわかればいいのです。
 このとき、「どういうリズムで叩くか」というのは、言い換えれば「あるタイコを叩いたら次のタイコまでどれだけ時間を空けるか」、すなわちタイコの音の長さを表せばそれでいいわけです。
 これは前節の楽譜とまったく同じです。

 では「どのタイコを叩くか」というのはどうやって表現するのでしょう。
 普通に考えれば、「このタイコはこの音符のとおりに叩く」、「別のタイコは別の音符のとおりに叩く」というようにすればいいはずです。
 つまり図1のような状態です。
 しかしこれは非常に不経済、画面の無駄遣いです。
 この書き方ではひとつのタイコに1行必要なわけですが、いわゆるドラムのセットには通常5個以上のタイコ(注2)があるのです。
 これではひとつのドラムフレーズを表現するのに何行も書かなくてはいけません。
 それに、普通ドラムのパートは他の楽器のパートと一緒に演奏するわけですから、他のパートと同じように5本線の楽譜で表現した方がひとつの画面に収めやすくなります。
 前述のとおりドラムには音程はないのですから、「5本線のこの高さの音はこのタイコを意味する」というふうに決めれば、全部のタイコを5本線の中にまとめてしまえるわけです。
 ただ、ちょっとだけ注意が必要なところがありますが、それはすぐに説明しましょう。

 実は、どのタイコが5本線のどこに書かれるのかはだいたい決まっています(注3)。
 実際にドラム譜を見ながら説明しましょう。
 図2を見てください。
 左端の記号はもうわかってますね?
 前節で説明したように、ドラム譜は普通の楽譜で使う記号ではなく、それよりも低い音程を表す記号を使います。
 拍子の書き方は楽譜と同じです。

 さて、先ほど書いた「注意が必要なところ」を説明します。
 見ればわかるとおり、休符が書いてある真下に音符が書いてあるところがあります。
 これではこの部分が音符なのか休符なのか迷ってしまいます。
 まず、音符の棒の向きに注目してください。
 楽譜のときと違って、下にある音符の棒が下向きになっています。
 これは、上向きと下向きではほとんど別のもの、と考えているためです。
 ただ見やすさのために向きを変えているわけではないので気をつけてください。
 上と下は別のものですので、下の音符が書いてあっても上の音符がなければ上は休符になりますし、逆に上の音符があって下は休符になることもあります。
 ふたつの楽譜が一緒に書かれていると思った方がわかりやすいかもしれません。
 ただし、あくまで「ほとんど別のもの」なので、ときには片方に音符がないのに休符もない、つまりもう片方だけしか書いてない場合もあります。
 まあその場合には音符の棒の向きで上の音符なのか下の音符なのか判断してください(注4)。

 では左から順に見ていきましょう。

 さっそく逆向きの音符が出てきました。
 この逆向きの音符を使うのはこのタイコだけです。
 この低い「ラ」で表現するタイコを「バスドラム」といいます。
 実際のドラムセットでは、バチのついたペダルを足で踏み、バチを動かして叩く大太鼓です。
 たとえばドラムフレーズを口ずさんだとき、「ズッタッズズタッ」の「ズ」の部分がバスドラムです。
 普通の大太鼓を叩いた場合、「ズ」とはならずに「ドーン」と鳴ってしまうのですが、バスドラムは音が響かないようにタイコの中に毛布などを入れています。
 このため、歯切れのよい重い音が出せるようになっています。
 バスドラムは足で踏むわけですから、手で叩くタイコよりはずっと不器用です。
 普通は4分音符と8分音符しか使わないでしょう。
 両足を使って16分音符、特殊なペダルを使って32分音符も演奏可能ですが、よほどドラムのうるさい音楽をやらないかぎり実際には使いません。

 左から2番めの音符を見てください。
「ミ」で表現されるこのタイコは「スネアドラム」といいます。
 バスドラムが大太鼓ならば、スネアドラムは小太鼓です。
 先ほどの例でいえば、「タ」の部分がスネアドラムです。
 非常に目立つ音をしていますから、すぐに想像できるでしょう。
 この例からもわかるとおり、バスドラムとスネアドラムだけで一応ドラムフレーズは演奏できます。
 ドラムセットの基礎なので、必ず覚えてください。

 左から3番目の音符を見てください。
 いえ、厳密にいえば音符とは呼べませんね。
 なぜなら、おたまじゃくしの玉の部分がなく、代わりにバツ印になっているからです。
 このようにバツ印で書かれている音符は、タイコではなく金属を叩く、ということを意味します。
 金属を叩く場合、普通のバツ印が4分音符を表します。
 8分音符や16分音符はヒゲをつければいいのですが、2分音符や全音符の場合は白抜きにするわけにもいかないので、バツ印の周りを○で囲んで表現します。
 さて、この「シ」で表現される音は「シンバル」を意味します(注5)。
 シンバルは「ジャーン」という大きな音がするので、他のタイコのじゃまにならないように、普通は4小節に1回程度、それも小節の最初の部分に使われることが多いようです。

 左から4番めと5番めの音符もバツ印ですので金属です。
「ソ」で表現されるこの音は「ハイハット」といいます。
 ハイハットというのは、小さなふたつのシンバルが向かい合ったような形をしています。
 このふたつのシンバルは、ペダルの操作でくっつけたり離したりできます。
 当たり前のことですが、くっついていれば音はすぐに止まり、離れていれば少し長く伸びます。
 音符の上に「○」や「+」がついていますね。
 「○」が離れている状態で、「ハイハットオープン」といいます。
 「+」はくっついている状態で、「ハイハットクローズ」といいます。
 このうち、よく使われるのはハイハットクローズのほうで、特に断りのない場合「ハイハット」といえばハイハットクローズを指します。
 再びドラムフレーズを口ずさんでみましょう。
「チキチキタッチキチキチキタッチキ」というフレーズを例にとると、「チ」および「キ」の部分がハイハットクローズです(「タッ」はスネアですね)。
 この例を見てもわかるとおり、細かくたくさん使ってもさほどじゃまになりません。
 もちろんもっと数を少なくしても構いません。
 さらにドラムフレーズを口ずさんでみましょう。
「チーチキチキチキチーチキチキチキ」というフレーズを例にとると、「チー」の部分がハイハットオープンです。
 クローズのときよりも音が少し大きくなるので、ずっとオープンのままで叩き続けるのは好ましくありません。
 ときどきアクセントとしてオープンをいれるのがよいでしょう。

 それ以降の音符はタイコです。
 この「ラファレド」で表現されるタイコを「タムタム」といいます(注6)。
 実際のドラムセットでは、いくつも並んでいる小さなタイコがタムタムです。
 直感的に理解できるように、表記上の音程はタムタムの音の高さをイメージしています。
 音の高い最初のふたつのタムを「スモールタム」、3番目のタムを「ラージタム」、一番低い音のタムを「フロアタム」と呼ぶようです。
 スモールタムやラージタムは澄んだタイコの音、フロアタムは毛布を抜いたバスドラムの音(つまり大太鼓)を想像するとよいでしょう。
 タムタムを音の高い順に2回ずつ叩いてみると、「テケタカトコドコ」というように音程の変化が楽しめるため、例えば4小節に1回、シンバルを鳴らす前にアクセントとして使うのがよいでしょう。

 なお、連符については楽譜の場合とまったく同じです。


この節の注釈

注1……本当は音程があります。例えば後述するタムタムは音の高低が重要な要素ですし、オーケストラなどで使われるティンパニーには正確な音程が要求されます。
戻る

注2……ここでは「タイコ」という語句を使っていますが、シンバルなどタイコ以外のものも含みます。
戻る

注3……楽譜を出版している会社ごとに少しずつ違っています。ハイハットを「シ」で表現しているところや、タムタムを「ラソファ」で表現しているところもあります。したがって、このドラム譜の表記はこのコーナーだけで通用すると考えてください。ただし、バスドラム、スネアドラム、フロアタムだけは各社とも共通のようです。
戻る

注4……一般に、バスドラム以外のタイコだけ使う場合、バスドラムの休符は省略されやすいようです。逆に、バスドラムだけ使う場合はそれ以外の休符はちゃんと書かれたりします。このコーナーではどちらの場合もできるだけ省略せずに書いていこうと思います。
戻る

注5……シンバルにはクラッシュシンバル、ライドシンバルの2種類があるのですが、ここでいう「シンバル」はすべてクラッシュシンバルを意味します。ちなみにライドシンバルは「カーン」という固い音がしますので、ハイハットオープン連打の代わりに使うこともできます。
戻る

注6……ある本によれば、フロアタムはタムタムとは別個のものと考えるようです。しかしここでは、例としてあげたドラムフレーズのようにタムタムの続きとして取り扱っています。また、タムタムがフロアタムを含めて3つの場合や5つの場合もあります。ここではもっとも一般的であろう4つの場合を取り上げています。
戻る

[簡易作曲講座] 表紙