邂逅
血が、飛び散る。
路上に倒れ伏す対手の身体を見つめる彼の表情からは
闘いの興奮も命を繋いだ悦びも窺うことは出来ない。
その瞳には虚無が色濃く宿る。
人一人を斬り殺したというのに、最早何の感慨も湧かない。
「自分」という人間は既に死んでいて、
その残骸だけがこうして殺人を繰り返しているのではないかと、
そんなふうに思えることすらある。
感情を殺さなければ続けてはいられない「仕事」だった。
「十四歳の少年だった自分」は、今は何処にも感じられない。
だが、それも「新時代のために」という
眩しい光があるからこそ続けていくことが出来た。
その希望の灯に一歩でも近づくために自分はこの道を選んだのであり、
そのためには、殺人者の汚名を着せられようとも、
たとえ、明日の太陽を見ることが出来ないとしても、
自分はそれを厭うことは決してないだろう。
これが彼の決意であり、生きて剣を振るう理由でもあった。
…唐突に、彼の目が見開かれる。
視線の先に人影を認めると同時に、
生命を賭した闘いの最中だったとはいえ、
これほどの接近を許してしまった自分に気付いて呆然とした。
突然、昔嗅いだ香の匂いが彼の鼻を突いた。
・・・女?
そこに立つ女性の白い着物と、
それにもまして白い頬を汚すように飛び散った鮮血は、
いっそ現実感のない妖かしのようでいて
不思議と彼にはとても自然なもののように感じられた。
一体、何時からそこに立っていたというのか。
男にとって余りにも意外な「出現」だった。
それ故、だろうか。
男は彼女を見つめることしか出来なかった。
思考すらも停止し、白梅香の香りだけが、ただ懐かしく感じられた。
永遠に続くかと思われた対峙の瞬間は、女の声によって断ち切られた。
女の唇が動く。
そのか細い声は、けれど、雨音にかき消されることもなく、彼の耳に届いた。
「貴方は・・・本当に、降らせるのですね・・・血の雨を」
男の手から、血濡れた刀身が滑り落ちる。
止まっていた時が、ゆるゆると流れ出す。
蕭々と雨は降り続く。
噎せ返るような血と白梅香の香りの中、
男と呼ぶにはまだ稚な過ぎる人斬りと一人の女が初めて出会った。
時は幕末、まだ梅雨も明けぬ六月の京のことである。
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オリジナルのソースはわかる人にゃわかるね。
まぁ、駄文だ。
初めて壁紙を利用した。
提供はQueen's FREE World殿。
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