第参拾壱話  


『海の彼方へ(1)』

 
 「うーん。やっぱり、日本の空気は違うわね」
ここは第三新東京市の玄関口である、第三新東京市中央駅である。伸びをしながらそう言った女性は、
上に伸ばした両の手を横に開いて、さらに体を伸ばしながら、隣にいる男に声をかけた。
「久しぶりね、ここにくるのも」
その言葉を受けて、男性は、両手に持った鞄を地面に降ろした。サングラスをかけているにも関わらず、
日光を受けて、まぶしそうに目を細める。
「ああ、そうだな」
この暑いさなかに、男性は上下ともダークスーツで、しかも汗の一滴も流してはいない。ある意味、怖い
ものを感じる。周囲を歩いている一般人もそう感じるのか、遠慮がちに好奇の視線を男性に向ける。
しかし好奇の視線を受けているのは、男性の風体だけによる物ではないであろう。
一緒にいるショートカットの女性、美しくも可愛らしい女性も、好奇の視線の原因に違いない。
「それにしても、ユイ、早く着きすぎたな」
ダークスーツの男の言葉に、ユイと呼ばれた、ショートカットの女性は苦笑を浮かべた。
「あなたが、電車を間違えたからでしょ」
その言葉に、ダークスーツの男はバツの悪そうな表情を浮かべた。
「しっかりしてくださいよ、ゲンドウさん。」
茶目っ気たっぷりにそう言うユイに、男、ゲンドウの困った表情が更に深まる。
そう。ここにいる二人連れは、シンジの両親である、碇ゲンドウ、ユイ夫妻であった。
「いや、すまん。あの電車だと思ったのだが・・・・・・・・判断ミスだな」
真面目な表情でそういうゲンドウを見て、ユイは、プッと吹き出してしまう。時間に遅れたわけではない。
ちょっと早く着きすぎただけなのだから、そんなに深刻に考える必要などないのだが、ゲンドウはいつもこの
調子である。だがユイは、こんなゲンドウの生真面目さが気に入っていた。
「ま、ちょっと時間もあるし、喫茶店にでも入らない?」
「ああ」
ゲンドウは軽く肯いてから、両手に鞄を手にする。そして、込み合う駅前の人込みをすり抜けるようにして、
少し先に見える喫茶店「シャンソニエール」へと足を向けた。
すこし歩いた所で、前を歩いていたユイが、ゲンドウへと振り返った。ちなみに、ユイはたいした荷物も
持っておらず、身軽である。後ろを行くゲンドウと、荷物の量を見ただけで、どちらが主導権を握っている夫婦
なのかは一目瞭然であろう。
「そうそう。シンちゃんには、わたしから、言うから」
ユイの言葉に、ゲンドウは首を縦に振って、同意の意志を示す。
「ああ・・・・・・そうだな。こういう事は・・・・・・・タイミングが重要だからな」
ゲンドウの答えに、ユイは満足そうな笑みを浮かべる。そして、足取りも軽く、喫茶店へと進んで行く。
その背中に向かって、ゲンドウが声をかける。
「あ、ユイ、ちょっと待ってくれ」
軽い足取りのユイのあとに、重い足取りのゲンドウが続く。やはり持っている荷物の差か、二人の距離は次第
に開いていく。
遅れつつあるゲンドウに気が付いていないのか、それとも気が付いていない振りをしているのか、ユイはシャン
ソニエールの扉を押して、中に入っていく。
「ちょっと、ユイ、待ってくれ」
やっとの思いでたどり着いたゲンドウの目の前で、ちょうど扉が閉じてしまう。
「まったく、ユイ、待ってくれてもいいじゃないか」
小さく呟いてから、荷物を置いてから扉を押そうとする。
と、その時。ゲンドウの目の前で扉が引かれた。そして、その隙間から、悪戯っぽい笑みを満面に浮かべたユイ
の小さな顔が突き出される。
「遅いわよ」
その笑顔を見て、ゲンドウの「待っててくれても」という不満は霧散してしまう。
「すまん」
礼を言ってから、ユイが扉を押さえてくれている間に、喫茶店に体を滑り込ませる。
幾多のライバルに打ち勝ってきた、冷徹とさえ呼ばれるNERVの所長でありながら、ユイの笑顔には勝てない
ゲンドウであった。







それと、ほぼ時を同じくして。
「とゆうことで、中央駅まで迎えに行ってきてね。」
シャワーから上がってきたミサトは、濡れた髪をバスタオルで包み込みながら、キッチンで麦茶を
飲んでいるシンジとアスカに声をかけた。余談ではあるが、ミサトは決して髪の水分をバスタオルで、勢
いよく拭くようなことはしない。髪を傷めるのが嫌だからだ。
今日は8月2日。シンジの両親、碇ゲンドウとユイが、久方ぶりに日本に帰国してくる日であった。
「わかってますよ。ミサトさんこそ、しっかりして下さいよ。そんな格好してたら、母さんや父さんに何を
言われるか判らないですよ」
そう言われて、ミサトは自分の姿格好を見回す。タンクトップとショートパンツからは、形のよい手足が
すらりと伸びている。いつもの、家でくつろぐ時の姿である。
「別に、これでいいんじゃない?」
そう言いながらミサトは、コップに麦茶を注ぐ。テーブルの上に暫くの間出しっぱなしてあったからか、
唇をつけてもそれほど冷たく感じられない。
そんなミサトの姿を上から下まで眺めてから、アスカは口を開いた。
「もっと、女らしい格好したらぁ?」
そういうアスカは、濃紺のデニムのミニスカートに白いシャツを合わせた、可愛らしい服を着ていた。
今度はミサトが、アスカの姿を上から下まで見て、アスカに向かってとびっきりの笑みを浮かべる。
「あらぁアスカ。あたしが女らしい格好なんかしちゃったら、アスカが霞んじゃうわよ?」
アスカは、ミサトがNERVに出社する時の様な服装を思い浮かべる。確かに、凛々しく、しかし女らしく、
しかも知性を感じさせさえしていたように記憶している。
『ミサトの言う事ももっともね』と思いながらも、ここで引き下がるアスカではない。
「でも、アタシには、ミサトにはない初々しさがあるから、だいじょーぶよ」
それを言われると、ミサトも黙るしかない。確かに一回り以上も歳を経ているのは事実だからだ。
「ま、子供っぽさを、『初々しさ』と言い換える事もできるけどね」
「年老いるくらいなら、子供っぽくていいわよ」
本気だか冗談だか判らないような言い合いを続けるミサトとアスカの様子をうかがっていたシンジであるが、
おそるおそる二人の会話に首を突っ込んでみる。
「あの・・・・・・・・・どうでも・・・・・・いいんじゃないですか?」
『わかってる』
シンジの言葉に、ミサトとアスカは声をハモらせて答えた。どうやら、ただ冗談で言い合っていただけのよう
であった。
その言葉を聞いてシンジは、ほっと息を吐いた。
「ふぅ・・・・・・・本気で言い争ってるのかと思った・・・・・・・・でも」
そこでシンジは、ミサトの方に顔を向ける。
「・・・・・・・・・いつもなら、アスカの事、軽くあしらってるのに、今日に限ってなんで相手をしてたんですか?」
ミサトはシンジの言葉を聞いていないかのような素振りで、シンジ達に背を向けて、髪を勢いよくバスタオルで
拭う。それから再び振り返った。振り返ったミサトは、いつもと変わり無いおどけた表情を浮かべる。
「たまには、構ってあげないと、ね」
「まったく、ミサトったら、いつまで子供扱いするのかしら」
アスカは、プッと頬を膨らませる。
そのアスカに笑顔を見せて、ミサトは言った。
「そういう子供っぽさがなくなるまで、よ」
「でも、ミサトさん、父さん達、どこに泊まるんですか?」
テーブル越しにアスカの頬っぺたを突っついて遊んでいるミサトに、シンジは声をかける。
それを聞いて、迷惑そうな表情を装いながらも案外楽しそうにミサトとじゃれていたアスカも、急に真顔に戻った。
「そうよ。いっくらなんでも、ここには泊まれないでしょ」
ミサトの家、ここコンフォートマンションは広い。アスカ、シンジ、ミサトがそれぞれ個室を持っているので、
余分な部屋はないが、リビングも十分に広いので、ユイとゲンドウ、そしてアスカの母のキョウコが来たとしても、
眠るスペースが無いわけではない。しかし、重大な問題として、この家には布団が無かった。夏であるとはいっても、
敷布団もタオルケットも無しというわけにはいかないであろう。
「あ、そのことなら大丈夫よ」
ミサトはそう軽く請け合うと、空になったコップをテーブルにおいてから、電話台の方へと歩んでいく。
「えっと、トレモントホテル」
電話の脇に無造作に置かれていたメモを摘み上げて、ミサトがホテルの名前を読み上げた。
「トレモントホテルって、山の側の?」
「そ。ここからもそんなに遠くないし、今日の分は、二人分、予約しておいたから」
さすがにこの家に泊まるわけにゆかない事はミサトにも分かっていた。それで、山の手にあるホテルに、
予め予約を入れておいたのだ。
「あ、そうなんですか」
素直に納得するのはシンジである。
しかしアスカは、なにか釈然としない物を感じる。
『今日の分は、二人分、予約しておいた・・・・・・・ってなんか変じゃないかしら』
心の中でミサトの言葉を反芻する。何度か思い起こして見てから、どこが変であったのか気が付いた。
「ミサト、何で、今日の分しか予約してないわけ?シンジのお母さんって、一日じゃ帰らないでしょ?」
「あ・・・・・・・」
アスカの鋭い指摘に、シンジから思わず声が漏れた。確かユイとゲンドウは、一週間ばかり滞在する事になって
いたはずである。それが、なぜ今日の分しか予約していないのだろうか。
「それに、キョウコママも明日来るのよ。その分は、予約したの?」
アスカの母親、キョウコは、仕事の都合でユイ達よりも一日後れで到着することになっていた。
「ミサトさん、そうですよ。アスカのお母さんの分も、予約しないと」
アスカとシンジ、二人の子供の視線を一身に受けたミサトは、しばし、目をしばたかせていたが、すぐに
苦笑を浮かべる。
「やだ。アスカもシンちゃんも、あたしが忘れてるとおもってるのぉ?」
「はい」
「ええ」
ミサトの言葉に、二人はきっぱりと首を縦に振る。
それを見て、ミサトは大袈裟にため息を吐いてみせた。
「はぁ・・・・・・・信用ないのねぇ。わたしが、考えてないとでも思うの?」
アスカもシンジも、口に出しこそはしないが、その表情を見るに、ミサトの事を信じていないことは明らか
であった。
「ま、大丈夫よ。たまには信じてみなさいって」
ミサトは気楽にそう言い放ち、空になったコップに麦茶を注ぎ足した。
自信ありげなミサトの様子に、シンジとアスカは、どちらからともなく顔を見合わせる。信じるべきか、
疑うべきか。
顔を見合わせる二人の様子を、複雑な表情で見ていたミサトであったが、フイと視線を逸らす。
暫くの間、といってもわずかの時間であろうが、周囲をさまよったミサトの視線が、ピタリと時計の上で
静止した。
「ちょっとぉ、そんなことしてる場合じゃないわよ!」
その大きな声に、シンジとアスカの体がピクリと動き、視線はミサトに吸い付けられる。
「時間、時間」
焦りを体いっぱいで表現するミサトであるが、シンジとアスカはきょとんとしているだけである。ミサトの
焦りは、二人には全く伝わっていない。
「時間?」
シンジはミサトの指先を目で追い、時計の時間を確認した。
「あぁっ、時間、過ぎてるじゃないですか」
既に時刻は、ユイとゲンドウを迎えに行く時刻を過ぎていた。それを知って、シンジの顔にも焦りの表情
が生れる。慌てて手にしたコップを、流しに置いた。ガチャンという、コップの立てた音が、シンジの焦りを
表していた。
「じゃ、ミサトさん、迎えに行ってきます」
シンジは玄関へと向かう。それをアスカは椅子に座ったまま、瞳の動きだけで追いかける。
「いってらっしゃい」
まるっきり他人事のような表情でそういうアスカの後ろに、ミサトは回り込んだ。そして、アスカの頭を
ポンポンと二回、軽く叩いた。ミサトの手の平の下で、蜂蜜色の髪が揺れる。
「シンちゃん、ちょっと待ってて。」
玄関にいるシンジに向かって、声で呼び掛けてから、手の平の下のアスカに向かって声をかけた。
「アスカ、あなたも行くのよ」
それを聞いたアスカは、ミサトの手の平の下で軽く身を捩り、ミサトの顔を見上げる。
「え?なんで?」
「ユイさん、シンちゃんのお母さんが、あなたに会いたがってたからよ」
腰に手を当てて、ミサトは残っていた麦茶を一気に飲み干した。その姿を見ながら、アスカはゆっくりと
立ち上がるが、その顔を見る限り、まだ、なぜ自分も行かなければならないのか納得していないようだった。
「別にいいけど・・・・・・・・・でも、買い物はどうするのよ?」
これからアスカは、今日の夕食の買い物に行くつもりであった。シンジが書いた、食材のメモもシャツの
ポケットに入っている。
「あら、そんなの私が買ってくるわ」
ミサトの言葉に、アスカは眉をひそめる。
「ミサトに任せるのって・・・・・・・不安よね・・・・・・・」
シンジの書いたメモの通りに買い物をするだけではあるのだが、それでもアスカは、ミサトに買い物を任せ
る事が不安でしょうがない。
以前、同じようにメモを持って、NERVからの帰宅途中に買い物を頼んだ事がある。しかしミサトは、メ
モに書かれていない酒の肴を買ってきた上に、書かれている物を随分と買い忘れていた。
ミサトはそんな事があったなど、きっと忘れているに違いない。
「だいじょーぶよ。安心していってらっしゃい」
自信満々のミサトであるが、見詰めるアスカの視線は疑わしげである。それに気が付いたミサトはため息を吐く。
そしてアスカの近くに歩み寄り、アスカの肩を抱いた。
「ね、アスカちゃん」
妙に優しいミサトの声に、アスカはびっくりする。
そんなアスカの驚きなどお構い無しに、ミサトは声を潜めて話を続ける。
「シンちゃんの事、好きなんでしょ?」
いきなり変化した話の矛先に付いて行けずに、アスカは驚きの表情を浮かべる。それでもミサトは、さらに
アスカの肩を引き寄せて、話を続けた。
「ね?」
「う、うん」
ミサトの強引なまでの念押しに、アスカはぎこちなく首を縦に振る。
「それなら、シンジくんのお母さんに、気に入られておいたほうが、いいんじゃない?」
アスカの顔に、疑問の色が強く浮かぶ。
「なんで?」
「あら、結婚する時、お母さんに気に入られてるほうがイイわよぉ」
ミサトが説明するが、アスカの心の疑問符はなかなか消えない。もう結婚適齢期を過ぎようとしているミサト
にとっては、恋愛イコール結婚であるが、中学生に過ぎないアスカにとって、まだ、好きになる事と結婚とを
結び付けるのは無理な事であった。
しかしそれでも聡明なアスカは、ミサトの言おうとしている事に、すぐに思い至った。
「べ、別に、アタシはそんなことまで考えてないわよ」
頬に朱色を浮かべながら、アスカはミサトから顔を反らした。
その頬に目をやり、「わたしが、こんなに純だったのって、いつの事かしら?」とミサトは考える。しかし、
すぐに、思いをさ迷わせている場合ではない事に気が付いた。
「ま、とにかく。ユイさん、いい人だから。気に入られてきなさい。」
訳の分からない結論を出してから、ミサトは肩にまわしていた手を解き、それからアスカの両肩に手を置いた。
「気に入られてくるのよっ」
ミサトはアスカの頭の後ろでそう言って、アスカの肩を軽く押し出す。
『なに言ってるのかしら』
押された勢いで前に足を踏み出しながら、アスカは心の中で呟く。
「気に入られないと、駄目なわけ?」
足を止めて、振り向いてそう言った時、ミサトは既に自分の部屋へと入る所だった。
『聞こえてないかな』
とアスカは思ったが、ミサトの耳に届いていたようである。
部屋の中から、ミサトは声だけを返した。
「アスカが気に入られないわけないでしょ。だいじょーぶよ」
ミサトの声に含まれている、自分に言い聞かせる様な色に気が付くには、アスカはまだ幼かった。なにか違和感
を覚えるのだが、それが何なのかが判らない。
考え込もうとするアスカの背中に向かって、思考を中断させるかのように、声がかけられた。
「アスカぁ。一緒に行くの?どうするの?」
玄関先からのシンジの声であった。どうやら今まで玄関先で座って、二人の意見がまとまるのを気長に待って
いたようである。
シンジの待ちくたびれた声を聞いたとたんに、アスカの心の中にわだかまっていた違和感が霧散する。
「行くわよ。待ってなさいよ、シンジ」
アスカは部屋に向かいながら、玄関先のシンジに声をかける。
暫く、アスカの部屋からごそごそと物音がした後。部屋からナイロンのショルダーバッグを肩から提げたアスカ
が出てきた。そして、奥にいるはずのミサトに向かって、元気な声で呼びかける。
「買い物、ちゃんとしておいてよ」
やや間を置いて、ミサトの声が響いてくる。
「りょーかい。じゃ、ユイさん達、よろしく頼んだわよ」
「はいはい。じゃ、行ってくるわね」
アスカは、ミサトがきちんと買い物してくるか、一抹の不安を抱えながらも、エアロックを開けて外へ出た。
それに少し遅れて、シンジも続く。
「ミサトさん、よろしくお願いします」
シンジの言葉の後、バシュッという音がして、エアロックが閉じられた。暫くの間、通路を歩いていくアスカと
シンジの声が聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなった。
静かになった葛城家で、ミサトは一人呟く。
「まあ、アスカが気に入られないはずはないわね」
気が強すぎるという面はあるが、ミサトの贔屓目を取り除いても、アスカは、あらゆる面で魅力的な女の子で
ある。シンジの両親、ユイとゲンドウに気に入られないはずはなかった。
「さてと、アスカの心配する前に、自分の心配しないとね」
着替えを終えたミサトは、左手に料理雑誌を持っていた。
「いっつもシンジ君に家事をやらせているなんて思われちゃ、困るしね」
仮にも、ミサトはシンジを預かっている身である。である以上、いつもシンジに料理をさせているなどという
ことがユイに知れるのは、あまり好ましいとはミサトには思えなかった。
「さて・・・・・・おふくろの味・・・・か・・・」
キッチンの椅子に腰掛けて、ミサトは料理雑誌を開く。
しばらくの間、ページを繰る音だけが静かな葛城家に開いていたが、それも長い時間は続かなかった。
「ま、材料を買ってこないと、何も始まらないわね」
どうやら雑誌を読むのに飽きたようである。ミサトはすっくと立ち上がった。
それから、軽い足取りで玄関を出て、近所の商店街へ買い物へと向かっていった。
ミサトもいなくなった葛城家は、静かだった。
この静かな葛城家に、賑やかな二人組み、正確には賑やかな一人と寡黙な一人のお客さんがやってくるのは、
これから一時間の後の事である。



続劇

小説のTopに戻る