第弐拾八話  


『二人は・・・』

 
  第三新東京市中央駅前。研究所とマンションばかりが林立する第三新東京市において、唯一といって
も差し支えがない、いろいろなデパートや店が集中する区画である。
当然その性格上、休日となれば、小さな子供を連れて買い物にくる家族連れが多くなる。もちろん、
仲良く腕をからませて通りを闊歩するカップルの姿も、これまた非常に多い。
そんな人の流れの中をかき分けるように、二人は駅に向かって歩いていた。
「うーん・・・・・・・」
前を歩いている少女は、蜂蜜色の綺麗な髪を揺らしながら、半袖のシャツから伸びたすらりとした白い
両の腕を、真っ青な空に向かって勢いよく突き出した。
「初夏って、最高の季節よね」
そして歩きながら、大きく伸びをする。
少女ならずとも歩きながら伸びをしたくなってしまうほどに、今日のお天気は最高であった。空は綺麗に晴れ
上がり、夏の到来を予感させる日差しが差し込んでいるのだが、吹き抜ける風が爽やかであるので「暑い」
とはまったく感じさせない。
「十分・・・・・暑いよ・・・・・・もうだめ・・・・・・・」
しかし少女の後ろから掛けられた声は、今日の爽やかなお天気とは全く正反対の、ぐったりとした
重苦しい声であった。
その声を聞いて少女は口にこそ出さないが、「あったりまえじゃないの」という色を、その碧い瞳に浮かべる。
「大体、なんでこの七月に、ウィンドブレーカーなんか着込んでるのよ。アタシみたいに、すっきり
爽やかな服装しなさいよ。」
そう言う少女は、Tシャツにナイロンのベスト、それにジーンズというラフな格好であった。「すっ
きり爽やか」かどうかは意見の分かれるところであろうが、ウィンドブレーカーと比較すれば、確かに
「すっきり爽やか」なのかもしれない。
「しっかりしなさいよ。まだまだ買う物はあるんだからね。」
少女は後ろを振り返る事さえせずに、軟らかな髪をふわふわと揺らしながら、歩みを速める。
その背中に向かって、またも疲れきった声が掛けられる。
「大体、なんで・・・・・自分の枕カバーくらい、自分で買えば良いのに・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉に、少女ははピタリと足を止めて後ろを振り返った。豊かな髪が初夏の風を含んで揺れる。
そしてちょっと怒った顔をつくりながら、ビシッと額に指を突きつけた。
「それはこの間、一緒に寝た時に、アンタがアタシの枕によだれを垂らしてくれたからでしょっ」
お気に入りの細かい花柄の枕カバーだったのだが、残念ながら、よだれの染みは洗っても落ちなかった。
「まぁったく・・・・・・買い物に付き合うだけじゃなくて、お金も出して欲しいくらいだわ。」
口ほどには怒ってはいないのだろう。少女の目は少し、笑いの色を帯びていた。
しかしそれでも、「他人の枕をによだれを垂らす」ことに罪の意識を感じたのだろうか。
「す、すいませんでした・・・・・」
頭が深深と下げられる。その下がりきった頭を少女は「ぱふっ」と叩いた。短い髪が風に揺れる。
「反省したなら、さっさと歩きましょ。」
そう言うと少女は、返事も聴かずに再び歩き出す。
「まったく・・・・・・・あんなところで頭下げなくたって・・・・・・・まあ、らしいわね・・・・・・」
少女は歩きながらくすりと笑う。
その背中に向かって、後ろからバタバタという足音とともに、声も追いかけてきた。
「ちょっと!人が頭下げてる間にさっさと行かないでよ、アスカ!」












「ふぃ・・・・・・・・・・・つかれたわね・・・・・・・」
アスカはコーヒーフロートをかき混ぜながら、言葉ほどには疲れを感じさせない口調でそう言う。
「・・・・・・・・ほんとにね・・・・・・・・」
苺サンデーに長いスプーンをグサグサと突き刺しながらアスカに答える声は、本当に疲れきっていた。
この喫茶店”シャンソニエール”の苺サンデーは、贅沢に苺が使われている人気のデザートなのだが、
先ほどから長いスプーンでグサグサと崩されているだけで、ほとんど口には運ばれていなかった。
「かき回してないで、食べたら?」
ストローを口から離したアスカは、サンデーの惨状を見兼ねたかのように口を出す。
「はぁ・・・・・・疲れすぎて食べる気しない・・・・・・・」
ため息をついて短い髪に手をやる様子を見て、アスカは苦笑した。
「まぁったく・・・・・・・・レイなんかついて来ただけじゃないの」
その言葉にアスカの連れの短い髪をした少女、レイは口をぶぅっと膨らませる。
「自分の買い物じゃないから、かえって疲れるんじゃない・・・・・・・」
そして溶けかけたアイスクリームを口に運ぶ。
「さっきも言ったけど、枕カバーは、レイのせいなんだからね。」
アスカの言葉を聞いて、レイは小さく舌を出して苦笑してみせた。
アスカとレイ、この二人は非常に仲が良い。出会ってから未だ数ヶ月とは思えないほどだ。この間も
葛城家に来て泊まっていった。どうやらその時、アスカの枕を傷物にしてしまったらしい。
「まぁ・・・・・そうね。ごめんね。」
「まったくしょうがないわね・・・・・・・・寝相の悪いミサトだって、あそこまで、よだれを垂らすことは
ないと思うわよ」」
アスカの言葉にレイはまた苦笑する。このままではいつまでもその事を突つかれると思ったか、レイ
は話を別の方向へと引っ張っていった。
「そう言えば、アスカのお母さん・・・・・・日本に帰ってくるんだって?」
「そう、そうなの」
レイの言葉を聞いて、アスカの顔が少し輝く。「淋しい」などとは決して口にはしないアスカである
が、母にあえない事で多少の淋しさは感じていたに違いない。
「アスカのお母さんか・・・・・・・・・きっと美人で頭がいいんだろうなぁ」
まだ見ぬアスカの母親の姿を脳裏に浮かべるレイに、アスカが「当たり前でしょ」とでも言いたげな
表情であった。しかしその表情は、突然に不思議そうなものへととって代わる。
「でもさぁ、不思議だと思わない?」
「なにが?」
何が不思議なのか判らないレイは、クリームを口に運ぶ手を止めてアスカの顔を覗き込む。
「アタシのママもシンジの親もそれなりに優秀な研究者だから、NERVに入れたのは当然だと思うんだ
けど・・・・・・・・・どうしてミサトが入れたのかしら?いくら研究者じゃないっても、広報部長よ、部長。
どうやったらミサトがあそこまで出世できたのかしら?不思議でしょ?」
そのアスカの疑問を受けて、レイが口を開く。
「ああ・・・・・・・葛城さん、昔は戦自の超優秀なウェーブだったらしいわよ」
戦自、正式名称で「戦略自衛隊」の事である。PKF(Peace Keeping Force:国連平和維持軍)や
PKO(Peace Keeping Operations:国連平和維持活動)に参加したり災害活動において出動すること
の多い自衛隊に代わり、純粋な戦闘行為のみを目的とした組織であり、一般的に言って、自衛隊よりも
優秀な人材が集まる事で知られている。
ミサトが戦自にいたというだけでも驚きであるのに、優秀なウェーブ、女性士官であったなど、日々
のミサトの姿を見ているアスカには決して信じられる事ではなかった。
「・・・・・・・・・またまた。レイって冗談が上手いんだから。」
「ちょっとぉ、冗談なんかじゃないのよ」
真顔でレイはパタパタと手を振る。
「NERVが民生にも技術を利用する研究所に転向しようとする時に、碇くんのお母さん、ユイさんが戦自
から引き抜いたんだって。ユイさんがそう言ってたから、間違いないと思うけど。」
「信じられない・・・・・・・・・・」
レイの様子から、からかっていたりするのではない事はアスカにも判った。しかしだからといって、
受け入れる事は容易ではない。
「まぁ、わたしも信じられないけどね・・・・・・・あ、でもユイさんたちも、アスカのお母さんと同じ頃に
日本に来るんでしょ?その時に直接、聴いてみたらいいんじゃない」
レイはそう言うと、再び苺サンデーにスプーンを向けた。
「まぁ・・・・・・・そうね。でも、レイ、良くそんな事知ってたわね・・・・・・・」
ストローでコップの中の氷をかき混ぜながらアスカが呟く。回転する氷がぶつかり合って、涼しげな
音を奏でる。
「碇くんの家とは、昔からの付き合いだからね。ユイさん、碇くんのお母さんに教えてもらったの。」
スプーンが唇と苺サンデーの間を往復するスピードをゆるめる事もなく、レイはそう答える。
「あ、そうか。レイって、シンジと幼なじみだったんだっけ・・・・・・・・・」
そして不意に、アスカは目を輝かせて言葉を続けた。
「ね、シンジって昔、どんな子だったの?」
アスカが知っているシンジは、3ヶ月ほど前のシンジからである。それ以前のシンジについては、何も
知らない。何も。だがレイは知っている。そのことにアスカは軽い嫉妬を感じていた。
「・・・・・・・・・」
レイは無言でポケットからハンカチを取り出し、唇に付いていたクリームを拭きとる。そして顔いっ
ぱいに悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「アスカの知らない碇くんを、わたしが知ってるのが心配?」
どうやらアスカの思いは、レイにあっさりと見抜かれてしまうほどに、顔に表れていたようである。
「そ・・・・・そんなことないわよ。」
図星であることにアスカはうろたえながらも、一応は否定する。
そのアスカの言葉がアスカの思いとは別物であることにレイは気が付いただろうが、何も言わずに
ぐっと身を前に乗り出した。
そして真面目な顔をして口を開く。
「碇くんね、女の子にもてもてだったのよ」
レイの言葉を聞いて、アスカは二度三度と瞬きをする。もう一度、そしてもう一度。
その間、二人の間に沈黙の時が流れる。
「えぇっと・・・・・・・・今、『シンジがもてもてだった』っていったのかしら?」
硬直から復帰したアスカは、不思議な事でも聴いたかの様な表情で、レイに尋ねる。
「そうよ。小学校のころは女の子に大人気だったの。それに今だって、碇くんに熱心な子もいるはずよ。
隣のクラスの霧島さんとか・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・なんで人気があったの?」
無意識に問い返すアスカに、レイは苦笑を浮かべた。
「あらあらアスカ、なんで碇くんが大人気だったか判らないの?それって、自分が碇くんを好きな理由
を考えればわかるんじゃない?」
「そ、それは・・・・・・」
頬を染めて下を向いてしまったアスカに、レイは再び苦笑する。
『まったく、アスカも可愛いわよね・・・・・・・・・からかいがいが在るっていうか・・・・・』
そんな事を考えながら、レイはさらに言葉を続ける。
「碇くんって、結構かっこいいし、なんか、頼りない所も母性本能をくすぐるのよね・・・・・・・・一時は、
クラスの女の子の半分くらいが碇くんに夢中だったんじゃないかな。」
レイの言葉を聞いて、アスカが「ギギギッ」と音がしそうな感じで首を持ち上げる。
「もしかして・・・・・・・・レイもその・・・・・・・夢中になったうちの一人だったりする?」
その瞳は不安の色で満ち満ちていた。今までこれっぽっちも考えはしなかった事だが、レイが、幼な
じみであるシンジの事が好きであるということは、十二分に有り得る事であった。
アスカの問いに、間髪入れずにレイは答える。
「そうよ」
その答えに、アスカの瞳の青が揺らぐ。
アスカの瞳が潤むのを見て、レイは慌てて言葉をつないだ。
「ちょちょちょっと、誤解しないでよ。昔は、よ。小学生の頃のことよ。」
確かに小学生の頃、レイはシンジの事が好きだった。より正確に言えば、好きだと思い込んでいた。
しかし時間が経ち、自分の抱いていた感情が、恋情でなく兄弟のような感情である事に気が付いていた。
だが明らかにアスカは誤解している。その事にレイは焦りを感じた。こんなくだらない誤解で、レイに
とって一番の友達であるアスカを失うわけにはいかなかった。
「ほんとだって。信じてよアスカ・・・・・・・・」
長い付き合いではないが、アスカとレイの付き合いは、時間の短さを十分に埋めるほどに深い。真剣に
言い募るレイの紅い瞳を見て、アスカはレイが嘘を付いていない事を悟った。
「そう・・・・・・なのね、レイがそう言うなら信じるわ。」
アスカの声を聞いて、レイは大きく肩で息を付く。
「ごめんね、あすか。何だか、誤解させるような事を言っちゃって。」
「いいわよ。勝手にアタシが誤解しただけなんだし・・・・・・・・・・」
アスカの顔にも安堵の色がありありと見て取れた。一番の友達だと思っていたレイが恋敵。そんな事
にならなくてアスカはほっとしている様であった。
「でもね、いつかは言わなきゃって思ってはいたんだ。わたしが碇くんの事、好きだった事・・・・・・・
いっくら『小学生の頃の事』とはいってもね。」
「え・・・・・・・どうして?」
アスカは怪訝そうな表情を浮かべる。そしてアスカもレイの方へ向かって見を乗り出す。二人の前髪
が触れ合わんほどに近づいた。
「だってさ・・・・・・・」
レイはアスカの瞳をじっと覗き込んだ。
「もしもアスカが、誰か他の人から『綾波は碇のことが好きだった』って聞かされたら、きっとわたし
のこと信じてくれなくなるでしょ。そうしたらわたし、一番大事な友達を失くすことになるもの。だから、
いつかは自分の口からって思ってたんだ。わたしも昔、碇くんの事が好きだったけど、今はアスカのことを
応援してるよ、って。」
レイにとってアスカは、文字どおり一番の友達である。口がキツイ性格が災いしてか、レイにはあまり
友達がいない。たいていのクラスメートは、何か用が在る時にだけ口をきく程度であった。そのレイにとっ
て、初めてと言ってもいいであろう、親友。そのアスカを失うことは出来なかった。親友だからこそ、全て
を話しておきたかった。
「レイ・・・・・・・・」
アスカにとってもレイは、まさしく唯一無二の友人であった。ドイツでは普通の女の子として見てもらう
ことはまったくなかった。腫れ物に触るかのように扱われてきた。日本に来てからは、ドイツにいた時ほど
にはひどくはないにしても、それでも幾らか特別視をされている。だがシンジとレイだけは、まったく
アスカの事を特別扱いはしなかった。それがアスカには嬉しかった。そして二人はアスカにとっての、
『特別な人』になっていった。一人は大好きな片思いの人に。一人は唯一無二の友人に。
二人の間に、今日二度目の沈黙の時が通り過ぎていった。
長い沈黙の後に、アスカが明るい口調で口を開いた。
「レイ、なに暗くなってんのよぉ。明るくいきましょ、明るく。」
それから氷を軽く掻きまわしてから、ストローに口をつける。氷が溶けたからだろうか、コーヒーは随分
と薄くなってしまっていた。
「それもそうね。らしくないよね。」
ストローをくわえるアスカを見て、レイも長柄のスプーンを手に取った。しかしスプーンが向かうべき
苺サンデーはもうない。レイは仕方なく指の上でスプーンをくるくると回しながら、コーヒーを飲むアスカ
を眺める。そしてその視線が、アスカの左手の上で止まった。
「アスカ、そのブレスレット・・・・・・・・・・碇くんに買ってもらったんでしょ?」
レイの妙に鋭い直感が、ブレスレットの出所を即座に言い当ててしまう。
「あ・・・・・・うん・・・・・・・・・なんで判ったの?」
ストローから唇を離し、愛しげにブレスレットを眺めながらアスカはレイに尋ねる。
「だってアスカ、腕が締め付けられるみたいだって、時計をするのも嫌がってるのに、ブレスレットをする
なんてことは、なんか理由ありのモノってことじゃない。」
「う・・・・・・・・」
鋭いレイの直感に絶句するアスカ。そのアスカをみて、クスリと笑みを見せる。
「碇くんもやるわねぇ。実は碇くんもアスカの事、好きだったりして」
「そんなことないわよ・・・・・・たぶん・・・・・・きっと・・・・・・・」
アスカの声は消え入りそうなほどに小さい。そして次第に顔は下を向いていってしまう。
「なぁんか、弱気ねぇ・・・・・・・・アスカらしくもない・・・・・・・・」
レイはじりじりと落ちていくアスカの額を指で軽く小突いた。
「きっと碇くんだって、アスカの事、ちょっとは意識してるんだよ」
「そうかなぁ・・・・・・・・」
いつもは超が付くほど強気なくせに、シンジの事となると急に弱気になってしまうアスカが可笑しいやら
可愛いやらで、レイは思わず笑いがこぼれてしまう。
「そうよ。幼なじみのわたしが言うんだから間違いないよ。信じなさいって。」
笑いながらそう言ってから、レイは立ち上がった。
「そろそろ出ない?」
「そうね。まだ買いたいものあるし・・・・・・・・・」
アスカも隣の席においてあった荷物を手にしながら立ち上がる。
「げ・・・・・・・まだ買い物するの・・・・・・・」
レイの声を聞いたのか聞かなかったのか、アスカは何も言わずに伝票を手に歩き出す。
「アタシがおごるから、もう少し買い物つきあってね。」










二人がドアを開けて外に出ると、また二人の顔にさわやかな陽射しが降り注ぐ。
「まだ日は高いわね。まだまだ買い物できるわよ」
アスカはまだかなり高い位置にある太陽を見上げる。
「・・・・・・・・でも、ずいぶんと喫茶店にいた事は確かね。」
レイは左手に目を落とした。時計の針が陽射しを反射してきらきらと光る。
「そんなに、何を話していたっけ・・・・・・・」
伊勢丹の方へと向かいながら、アスカが不思議そうにレイに尋ねる。
「二人の友情を確認したのよ。」
冗談めかした表情でレイが笑う。
「アタシたち二人は・・・・・・・・親友かな?」
レイの言葉を受けたアスカは笑いながら小首をかしげた。
その様子を見たレイは、おお真面目な表情で首をひねる。
「わたしとアスカ・・・・・・・・二人は・・・・・まぁ、親友って事にしてあげる」
「こっちの台詞よ、それは」
笑みを浮かべながらも軽く睨むアスカを横目に、レイは軽やかに歩きはじめる。
「あとは・・・・・二人が恋人になれればいいのにね」
そのレイのセリフにアスカは怪訝な顔をする。
「アタシ・・・・・・そういう趣味はないわよ」
今度はレイが怪訝そうな表情を浮かべる番であった。暫くしてから、レイは道の真ん中で大笑い
を始める。
「なに勘違いしてるのぉ!アスカと碇くんのことでしょ!アタシだってアスカと恋人になんかなり
たくないわよぉ!」
レイはお腹のそこから絞り出すようにそう言ってから、また笑い転げる。
「そ、そんなに笑うことないでしょ・・・・・・・・」
勘違いをした事に気が付いたアスカは、ばつの悪そうな顔をするが、そんなアスカにお構いなく、
レイの笑いは止まらない。
「ちょっとレイ!いつまで笑ってんのよ!」
アスカは頬を紅くしたまま、こぶしを振り上げてレイを追う。
「だってぇ、おかしくておかしくて・・・・・・」
レイはケラケラと笑いながら、くるくると回りながら、小走りで人込みの中へ消えていく。
「待ちなさいよ、レイ!」
それを追ってアスカも人込みの中へと消えていった。
蜜柑色に変わりつつある陽射しが、二人が消えていった人込みを、やさしげな色に染め上げていた。



終劇

第弐拾九話は、そのうち公開っ!

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