第五話  


『Bild (4)』

邦題 : 絵(4)

 

 「眠らない街」との異名を持つ第三新東京市は、その夜景の美しさで日本中に知られている。
確かに、最先端の科学技術の粋を結集した高層ビルの立ち並ぶ新市街は、夜になると溜め息がで
るほどに美しい。この夜景は、旧世紀末の北海道函館山からのそれをも遥かにしのぐだろう。
 だが第三新東京市も、旧市街の方は一般の住宅・マンションが立ち並ぶ普通の都市であり、そこらの
地方都市と比べても何の変わりも無い。
 その旧市街へと向けて、惣流・アスカ・ラングレーは夜の闇の中を疾駆していた。彼女には、
背後に広がる日本一の夜景を眺める余裕などは無かった。


 「ばかシンジ・・・・・」
 アスカは全力疾走しながら、小さく呟いた。そのつぶやきを聞くものは誰もいない。夜も更けて
きており、時間を間違えたかのように鳴き狂っていた蝉でさえ、その声をひそめ始めている。この
時間に、旧市街のさらに山の手のほうであるこの道を歩いている人など、いるはずもない。
 「こんな時間まで学校にいるなんて、馬鹿としか言い様が無いわね。」
 速度をゆるめることなく、はるかに前の方、坂の上に見えてきた学校へと走り続けながら、アス
カは心の中で悪態をついた。
 「しかも、カヲルの話だと、それがアタシのせいですってぇ?じょーだんじゃないわよ!」
 心の中で怒りを燃やしながら、アスカは、さっきのカヲルとの電話の内容を思い出していた。


 「シンジ君がどこにいるか知らないかって?たぶん学校にいるんじゃないかな。惣流の絵を上手
に描くんだって、随分と頑張っていたからねえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「まったく、ばかシンジっ!絵なんかどうでもいいじゃないのよっ!」
 学校にいるときに自分がシンジに何を言ったかなど忘れたかのように、アスカは心の中で叫ぶ。
 シンジが夜遅くなっても帰ってこないので、アスカはシンジが誰かに絡まれてぼろ雑きんのようになり、
そこらに転がっているのではないかと心配していた。アスカが一緒にいれば、そんじょそこらの不良程度で
は手も足も出ない。アスカは気の強さと同じくらいに喧嘩も強いからだ。だが、シンジ一人ではどうなるか判
ったものではない。
他にもアスカは、シンジが道に迷ったのではないかという考えも抱いていた。レイ達は、シンジを街で見
掛けたと言っている。そのあと、道に迷った可能性も考えられた。シンジは、「超」が付くほどの方向音痴
だからだ。
 だが、カヲルの電話が正しいならば、ぼろ雑きんや迷子という情けない事態ではなさそうである。そう考
えて、アスカは少しは安心していた。
 「それにしても、このアタシを心配させた罪は大きいわよね。見つけたら絶対にびんたをくらわ
してやるんだから・・・・・・・・」
 固く決意しながら、アスカは学校への長い坂道を走り続けた。


 それからいくつの街灯の光の下を駆け抜けただろうか。アスカの目の前には大きな黒いシルエッ
トが広がっていた。
 アスカ達の通う、第三新東京市立第壱中学校である。
 アスカは校門の前で立ち止まり、家から走り続けて来たせいで、すっかり荒くなった息を整えた。
 ようやく落ち着いて顔を上げると、目の前には真っ暗な学校がそびえ立っていた。
 生徒の騒ぎ声が休むことなく聞こえてくる、昼間の学校とは全く別の建物のようだ。
 「ほんとに・・・シンジ・・・ここにいるの?」
 夜の学校の異様な雰囲気、そして電気が全く付いていないことが、アスカの不安を増大させる。
 「カヲルはここにシンジが居るんじゃないかって言ってたけど・・・・そういえば、レイたちは
街で見かけたって言ってたし・・・・・・・」
 カヲルの言葉を聞いて、一目散に学校へと駆けつけたが、それは正しかったのだろうか。もしか
したら、シンジは全く別の場所に居るのではないだろうか。
 そんな不安がどんどんと胸の中で膨れ上がっていく。
「美術室は裏のほうだし、ここから見て電気が付いてないからって、いないって決まったわけじゃ
ないわよね。とりあえず行ってみましょ。」
 ともすれば暗い不安に飲み込まれそうになる自分の心を奮い立たせるかの様に、アスカは大きな声
でそう言って、校門の鉄柵へと歩を進めた。
 少しためらいながらも、意を決したように、アスカは白い鉄柵に手をかける。初夏とはいっても、
夜ともなると鉄柵は冷たい。鉄の冷たさが、再びアスカの不安を膨らませかける。
 つのる不安を振り払いながら、アスカは鉄柵を開けるために、両手に力を込めた。
 「ぐんっ」という鈍い音を立てながら鉄柵は数センチ動く。
 だが、それだけだった。
 鉄柵は重いが、一人で動かせないほどではない。動かない理由は鉄柵の左側にあった。
 鉄柵の左側、門柱と接した部分には、しっかりとロックがかけてあった。
 校門にロックがかかっている、即ち、校内には誰もいない。
 この結論をアスカの優秀な頭脳が弾きだすのには、さしたる時間を必要とはしなかった。
「いないいないいないいないいないいないいないいないいない・・・・・・」
同じ言葉がアスカの脳裏を、壊れたオルゴールのようにぐるぐる回り続け、不安はどんどんと膨れ上
がっていく。
「だいたいこんな夜遅くまで学校にいる訳なんかないのよあのたれ目のナルシスホモの言う事を
聴いたあたしが馬鹿だったわそれにしてもあのバカシンジったらどこにいっちゃったのかしらこの
アタシにここまで心配かけるなんて生かしちゃ置けないわ」
喋っている内容と顔つきは強気ないつものアスカだが、しゃべり方は不安な心を表しているかのよ
うに、上ずった声で異様に早口であった。
そのまま校門の前を、サルのようにグルグルと何周も回ってやっと落ち着いたのか、ふっと軽く
ため息を吐いた。しかしその顔色は、夜の闇の中でも青ざめている事が見て取れる。
「とにかく、ここには居ない訳だし、次にどこを探すか考えなきゃね。」
誰も聞く人は居ないのに、ぴっと人差し指を立てながら大きな声でアスカは独白した。
きっと、誰も居ないからこそ、自分の気持ちを奮い立たせる為にそんな行動をとったのだろう。
アスカは暗い学校の前で、シンジがいそうなところを考える。
考える・・・・
考える・・・・
だが思い付かない。思い付かないと言うより、思考が全くまとまらない。
「むー・・・・・展望台にいってみよっか・・・・・・」
思い付かない事にいらついたアスカは、展望台から町を眺めれば、シンジがいそうな具体的な場所
が思い付くかもしれないと考えて、展望台へと足を向けた。展望台と言っても、道路の脇にちょっと大
きな公園があり、そこから第三新東京市の全景を目にする事ができるので、市民に通称として「展望台」
と呼ばれているだけの場所である。
「ここでならきっと超グッドでナイスなアイディアが浮かぶわ・・・・・」
そんな事を考えながら、しっかりと地面をふみしめつつ、公園の端の手すりへと歩いていく。
そこからなら第三新東京市全域が一望できるからだ。
もっとも、「しっかりと地面をふみしめつつ」というのは、アスカがそう思っているだけであり、
第三者が見たら、「ふらふらと」という表現がふさわしい足取りであった。
いつもは若いカップル達が多いこの公園だが、アスカの目には人影は映らなかった。
「はぁ・・・・・」
小さく息を吐き出し、アスカは手すりに肘を乗せて頬杖をつきながら第三新東京市の夜景を見つめた。
シンジの行方が分からない事で暗く重く沈んでいるアスカの心など知らぬげに、第三新東京市の灯りは
煌煌ときらめき続けている。
「まぁったく・・・・・バカシンジったら・・・・・どこいっちゃったのかしら・・・・・」
はじめから判ってはいた事だが、場所を移っても、シンジのいそうなところなど思い付きはしない。
金属製の手すりが、異様に冷たく感じる。
「どこいったのよ・・・・・・シンジ・・・・・・バカ・・・・・」
泣くつもりなど全く無かったのに、アスカの目からなぜか涙がこぼれて、目の前の夜景が滲んで溶け
ていく。
アスカは、自分がシンジを意識している事には気が付いていた。しかしそれを認めるのは嫌だった。
アスカにとってシンジは、あまりに頼りなく情けない存在でしかなかったから。
しかし、シンジが帰って来ない、行き先も分からないという今の状況になって、アスカは初めて
気が付いた。自分がいかにシンジに依存していたかと言う事を。自分のすぐ隣にシンジがいる、それ
だけのことが、いかに自分にとって安心を与えるものだったかを。
「・・・・バ・・カ・・・・」」
ぽろぽろと大粒の涙がアスカの瞳からこぼれ、第三新東京市の灯を受けて煌きながら落ちていく。
しばらくの間声もなく泣き続けた後、アスカはハンカチで涙を乱暴にぬぐってから顔を上げた。
「泣いててもしょうがないわね。シンジがどこにいるかも判らないのに。探しに行かなくちゃ。」
口では強がって「泣かない」と言ってはみても、不安な心に押し出されるかのように、涙はあふれ、
てアスカの頬を再び濡らしていく。
その涙を手の甲でごしごしと拭いながら、
「もしかしたら帰っているかもしれないわね・・・家に電話してみよっかな・・・・・」
そう呟いてポケットからPHSを取り出し、鼻をグスグスならしながら、葛城家の番号を押した。
シンジが帰っていないであろう事は、判っていた。レイやヒカリが家にいる間にシンジが帰ってくれば、
レイ達がPHSでその事を連絡してくれるだろう。また、誰もいない家にシンジが帰っていたとしても、
アスカがいない事を不審に思ってPHSで呼び出すだろう。しかし、PHSのベルは鳴るそぶりさえも見せ
ない。ベルが鳴らない以上、シンジは帰ってはいないのだ。
そうは思ってもアスカは、一縷の望みを抱いてPHSを耳に押し当てた。
公園があまりにも静かなので、回線に接続する微かな音が妙に大きく聞こえる。
呼び出し音が一度も鳴りきらないうちに、葛城家の受話器があがる。
「もしもし碇君?今どこにいるの?」
電話の向こうで上がった声はレイの声であった。
「・・・・やっぱり・・・帰ってないのか・・・・」
「アスカ?アスカなの?今どこにいるの?大丈夫?」
いつもと違って弱々しいアスカの声を聞いて、レイは心配そうに問い掛けてきた。
アスカはレイに、これまでのいきさつを途切れ途切れながらも話した。
「ねえ、レイ・・・・見つからなかったらどうしよう・・・・どうしよう・・・・・」
「んなわけないでしょ。どこかで遊んでるだけだって。とにかく、私たちも一緒に探すから。20分後
に駅前のコンビニの前で待っててね。」
弱気なアスカの発言に内心驚きながらも、レイはテキパキと話を進める。レイは、普段は無神経な様に
しか見えないが、実際にはヒカリに負けず劣らず頼りになる。
「わかったわ・・・・・・・・」
レイは、なおも弱気なアスカに喝を入れるように、
「あんたバカぁ?アスカが弱気になっても碇君が見つかるわけじゃないのよ?」
と、アスカの口調の真似をする。
「そう・・・・そうよね。アタシが泣いてたってどうなるわけじゃぁないわよね・・・・」
「な、泣いてたの?・・・・・アスカが?」
レイはかなり驚いている。
「う、うっさいわね!と・に・か・く、コンビニの前で待ってるのよ!あ、ミサトにも一応連絡入れとい
てくれる?NERVに電話して広報部長の葛城って言えばいいわ。」
急に元気になってしまったアスカに向かって、
「なんで、アタシが電話するの?」
と、心の動揺を押し隠すようにしてレイは尋ねる。
「あんたバカぁ?アタシはここから駅前までダッシュしなきゃぁなんないのよ?レイの方が駅まで近い
んだから、レイが電話するのが当然でしょ?」
訳の分からない理屈に、レイは黙り込む。
その沈黙を肯定と受け取ったのか、アスカは言葉を重ねた。
「それと、アタシが泣いてたなんて誰かに言ったら承知しないわよ。」
取り敢えず、何で自分がNERVに電話するのか分からない、という問題を蒸し返すよりも、シンジを
探す事の方が大切である事に気が付いたのだろう。
「・・・・りょーかい。じゃ、20分後に。」
レイはそれだけ言って電話を切った。
レイと話をして少しは落ち着いたのだろう。アスカは、PHSの電源を切ってポケットに戻し、ハンカチ
を取り出して、もう一度、目の周りを拭いた。涙の痕跡を見られるのがよほど嫌なのだろう。
拭き終わってハンカチをしまうと、左手をぎゅっと握り締めながら気合をいれる。
「よしっ!」
そうやってカラ元気であっても元気を出してから、公園を出て駅までダッシュする為に、アスカはくる
りと後ろを振り向いた。
振り向いた目の前には、顔があった。黒い髪の少年の顔、碇シンジの顔が。
あまりに唐突なシンジの出現に、アスカは口をぱくぱくさせているだけである。
「ねえアスカ、こんな時間に、こんな所でなにやってるの?」
心底不思議そうな顔でシンジは尋ねた。
アスカはその声を聞いて、やっと放心状態から復活し、凄い形相でシンジに詰め寄る。
「あんた今までなにやってたのよ!学校にいるかもってカヲルが言うから学校に来てみたら、学校は
閉まってるし、アタシがどれだけ心配したと思ってんのよ!このバカ!」
そういって右手を振り上げた。
「叩かれるっ」
そう思ったシンジは、とっさに左手で顔をかばう。
だが、いつまで経っても叩かれた衝撃は感じず、「バチン」という音も起こらなかった。
恐る恐るシンジが左手をどかしてみると、目の前にアスカはいなかった。
「アスカ?」
尋ねる声に答えたのは、シンジの足元からのすすり泣く声だけだった。
「アスカ・・・・・」
アスカはしゃがみこんで泣いていた。シンジには判らない事だが、勝ち気なアスカが一日の内でこんな
に泣いたのは、生まれてこのかた初めてのことであろう。
「・・・・・・アタシが・・・・どれだけ・・・どれだけ心配したと思ってるの・・・・」
涙声のアスカに、シンジはどんな言葉をかけたら良いのか判らなかった。
だから、自分が思った事を一言だけ口にした。
「ごめん、アスカ。」
夜の公園に、アスカの小さな泣き声と、鳴く時間を間違えた虫の声だけが響いた。


4,5分も経ち、落ち着いたのだろう。アスカはハンカチで涙を拭いた。今日、何度も涙を拭ったせい
で、ハンカチは濡れ、その上くしゃくしゃになっていた。
立ち上がったアスカは、いつもの強気なアスカだった。
「で、今まで何をしてたわけ?」
アスカはシンジに、もっとも大事な事を聞いた。さっきは不覚にもシンジの前で泣いてしまったが、
ろくでもない理由だったら絶対にびんたしてやる、と思っていた。
「その・・・・・絵を描いてたんだ・・・・学校で。でも、7時になったら追い出されちゃって、・・
・・・しょうがないからそこのベンチで続きを描いてて・・・・・そしたら「あんたバカぁ?」って声が
聞こえて・・・来てみたらアスカがいた・・・」
しどろもどろな調子でシンジは自分の行動を語った。
「カヲルも言ってたけど、まさかアンタ、今までアタシの肖像画を描いてたわけ?でもレイ達が、街で
アンタを見かけたっていってたけど?」
アスカは、疑いのまなざしでシンジを見る。
「あぁ。これを買ってきたんだ。」
シンジはごそごそと鞄の中を探って、一組の色鉛筆を取り出した。「一組の」といっても、12色入り
ではなくて、何十色も入った色鉛筆である。
「なんか、黒い鉛筆じゃあ感じが出なくって。色が付かないとイメージが湧かないんだよね。」
嬉しそうに色鉛筆を見つめているシンジを見て、アスカは大きくため息を吐く。
確かに「ちゃんと描くのよ」と言いはしたが、ここまでするとは思ってもいなかった。
「で、絵はできたわけ?」
呆れた表情で問い掛けるアスカに、シンジは満面の笑みを浮かべながら、スケッチブックを開いた。
「ほら。」
開いたスケッチブックの中には、アスカがいた。金髪というより蜂蜜色をした美しい髪と、碧い眼を
した可愛い女の子がいた。
「う、うまいわね・・・・・・・」
アスカは、シンジがこんなに可愛く自分の事を描いてくれたので嬉しかった。お礼の言葉を言わなけれ
ばと思うのだが、学校で描いていた絵とのギャップの激しさに驚き、声も出ない。
「でしょ?アスカの可愛い感じがでるように描いたんだ。」
スケッチブックを抱えたアスカの顔が、シンジの「可愛い」という言葉に反応して紅くなった。どうせ
シンジの事だから、アスカの事をどうこう思っているわけじゃなくて、パンダやコアラが可愛いのと同じ
ような意味合いだろうとは判っている。でも、アスカも女の子だ。「可愛い」といわれて嬉しくないはず
はない。
「その・・・あり・・・・」
消え入るような声で何か言ったが、シンジにその言葉は聞こえなかった。
「ね、アスカ。この絵、先生に褒められると思う?」
シンジは、やっぱり何の裏も無く「可愛い」といったらしい。アスカの顔が紅い事など気が付きもせず
に、全く関係ない言葉を続ける。
そんなシンジを見ながら、アスカは苦笑した。
「アタシって、こんな鈍感男のどこがいいのかしら?」
人を好きになる事に理由などはないのに、アスカはそんな事を胸中で考えてみる。
「ね、どう思う?」
返事が無いので再び問い掛けるシンジに、
「ま、学校には出せないわね。」
スケッチブックをまじまじと見ながらアスカは答えた。
「どうして?こんなに上手に・・・・」
アスカは、むきになるシンジの顔の前にスケッチブックを突きつけて言葉を遮る。
「あんたバカぁ?肖像画は、黒鉛筆で描けって言われたでしょ!色鉛筆なんかで描いたのを提出できるわけ
ないじゃないの!」
「あ・・・・・・・・・・・・・・」
シンジは口を開けたまま立ち尽くし、ショックを隠せない。
がっくりと肩を落とすシンジの様子を見てクスリと笑い、アスカはスケッチブックを小脇に抱えた。
「ま、なかなかいい出来だから、アタシがもらってあげるわ。」
「そんな・・・・そのスケッチブック、まだほとんど使ってないのに・・・・・」
シンジは不満のありそうな顔をするが、アスカは全く取り合わない。
「これくらい、アタシを心配させた罪滅ぼしってえもんよ。」
スケッチブックを手に入れたこと、正確に言えばシンジの描いた肖像画を手に入れた事がよほど嬉しい
のか、にこにこ笑いながら、アスカは更に続ける。
「まだ夜は寒いわね。体も冷えたし、アンタのおごりでラーメンでも食べに行きましょっか。」
そう言うと、シンジの答えなど待たずにすたすたと歩き出す。
「待ってよ、アスカ」
ばたばたと追いかけてくるシンジの足音を背中に聞きながら、アスカはスケッチブックを胸に抱きしめた。
初夏とは言え寒い夜であったが、胸はなぜか暖かかった。
「ま、こんな絵を描いてくれたんだし、アタシがおごってもいいわね。」
アスカはそう思い、後ろを振り返ってシンジに、
「シンジ、アタシがおごるわよ。」
と言った。
「ホント?」
やっと追いついたシンジが嬉しそうな顔をする。
「ホントよ。じゃ、街まで走るわよ。」
アスカはその言葉を残して、目の前に広がる新市街の光の海めがけて走り出す。
一足遅れて、シンジもアスカを追って走り始めた。
そんな二人を見守るように、星は静かに瞬いていた。




ちなみに、レイとヒカリはアスカに完全に忘れられていて、2時間もコンビニの前で待ち続けた挙げ句、
風邪を引いてしまった。
レイから「シンジが帰って来ない」という連絡を受けたミサトは、「事件に巻き込まれたんだわっ!」と
勘違いして、NERVの警備員と一緒になって、第三新東京市中を探し回り、ラーメンの屋台で二人が仲良
くラーメンを食べているところを見つけて、怒り狂ったということだ。
しかしこれらはまた別の話である。


終劇

あとがき

Bild編、完結です。いやぁ、なかなか終わらなくて、苦労しました。
本当は、もっと速く終わるはずだったんですけどねぇ。なぜか、4部にも膨れ
上がってしまいました。しかも、時間的にも結構かかりました。Bild
編は、小説の中でも重要な話なので、時間をかけて書かざるをえませんでした。
次の話は、あまり本筋と関係ない話なので、早く公開できると思います。でも、
最近、嘘吐きになってきたので、どうだか判りませんが、努力はします。
待ってて下さい。




第六話「宿題(1)」をよむっ!

小説のTopに戻る

感想とか、ここまで送って頂けると嬉しいです。