エルニド旅団
登場人物紹介
名前 | 出身地 | 先天属性 | 使用武器 | 利き腕 | 身長 | 体重 | 説明 |
シータ少佐 |
パレポリ | ソード | 右 | 170 | 56 | エルニド旅団第1連隊参謀。パレポリ村時代のタータの子孫。ガルディア王国との戦争で戦果を上げ、少尉から少佐まで一気に昇進。 | |
バサラ中佐 | チョラス | アクス | 右 | 181 | 74 |
エルニド旅団第1連隊隊長。典型的な軍人タイプ。一般兵から成り上がった叩き上げの軍人。熱血豪傑で、曲がったことが大嫌い。 |
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ボルマン中佐 | パレポリ | 銃 | 左 | 176 | 91 | エルニド旅団第2連隊隊長。他人を蹴落として今の地位にまで登りつめた狡猾な男。収賄をしている疑いもある。 | |
ヘス少佐 | トルース | ロッド | 両手 | 167 | 50 | エルニド旅団第2連隊参謀。細かいことに気が利く男でボルマン中佐をサポートする。尻拭いをさせられることもしばしば。 | |
カイテル准将 | サンドリノ | ショット | 右 | 190 | 75 | エルニド旅団長。ガルディア王国との戦争では中佐として参戦。その後も順調に功績を挙げ、第2師団の下でエルニド旅団を任せられる。 | |
蛇骨 | エルニド | ソード | 右 | 201 | 98 | 時を喰らうものとの戦いが終わったあと、アカシア騎士団を再編しテルミナを奪回する。が、それが原因でパレポリからその地位を剥奪される。 | |
ファルガ | 不明 | ソード | 右 | 184 | 74 | セルジュとの冒険の中で、蛇骨とも協力して戦ったことにより、多少お互いに歩み寄りを見せるようになった。現在では『エルニドを大陸の侵略から守る』という点で蛇骨と合意。エルニドの平和維持に努める。 |
砂漠の真ん中を一台の軍用ジープが砂埃をまき散らしながら走っていく。 車はやがて舗装された道へと入り、遙か彼方には堅固な建物が乱立しているのが見える。 朝だというのに既に暑い。今日も典型的な南方の夏の1日になりそうだ。 この地に赴任してから既に5年が経つ。しかしこの気候にはなかなか慣れないものだ。故郷のパレポリが懐かしい。 そんなことを考えながら走っているうちに目的の建物の前まで辿り着いた。入口の守衛が敬礼をして車を中に誘導する。
「バサラ中佐は?」
「はっ!第1連隊会議室にてお待ちになっております!」
車を降りて8階までエレベーターに乗る。作戦会議室の前で立ち止まりノックをする。
「誰だね?」
「シータです。」
「入ってくれ。」
「はい。」
見慣れた部屋の中に入っていく。また今日もここで缶詰めになるのだろうか。どちらにしてもここで話す内容など決まっている。先日の「星の塔」の報告以来、その話題で持ちきりだ。
「どうだ?実際に見えたのか?」
「はい。南端の岬まで行って来ましたが、宙に浮かぶその姿が肉眼で確認できました。しかも偵察の報告通り、以前よりも外観が堅固になっている様相があります。」
「やはり、もうぐずぐず言っていられないか。すぐにでも対応して行動に移さなければ敵に機先を制されてしまうかも知れない。」
「敵……。やはりあれは我々に対しての要塞なのでしょうか?」
「そう考えるのが適当だろう。星の塔の姿が確認される直前に蛇骨からの連絡が途絶えている。これはヤツの裏切りと考えて間違いないだろう。」
「しかしアカシア龍騎士団はパレポリに所属しています。階級的に言えば蛇骨大佐は私や中佐の上官になるわけで、事実確認を取る前に軍を進めるのは早計かと……。」
「キミ、我々第1連隊の軍則は?」
「『エルニド地方の監視、及び不穏事態時には侵攻』です。」
「そうだ。不穏事態時にはエルニドへの侵攻が認められている。そして今がその不穏事態時ではないか。」
「しかし上官への反逆罪は死刑です。我々にはエルニド侵攻の明確な権限がありません。」
「なにを言ってるんだ!既に第2連隊はエルニドに侵攻してテルミナを占拠している!やつらには侵攻権限が無いにも関わらずだ!我々第1連隊の面目は丸潰れではないか!」
「確かに第2連隊の行動は目に余ります。しかし、先ほど申し上げた通り参謀本部が蛇骨大佐の階級を解除していない以上、彼はまだパレポリの大佐なわけです。独断行動は慎むのが得策でしょう。」
「では第2連隊のことはどうする?」
「旅団長出席の上で第1連隊と第2連隊の合議を開いたらいかがでしょうか?」
「そこで第2連隊の越権行為を糾弾するわけか…。」
「そうです。」
「わかった。今から旅団長に連絡を取ってみる。キミは自分の参謀室で待機していたまえ。」
「はっ!失礼いたします。」
【7階:第1連隊参謀室】
自分の部屋に戻ってきてやっと一息つく。だが休んでいる暇はない。すぐにでも第2連隊を責め立てる材料を用意しなければならない。そもそも第2連隊の軍則は『エルニドの内偵、及び軍事調査』であり、行動として認められているのは誘拐、盗聴、暗殺等のスパイ行為のみである。が、今回のテルミナ占領では兵器を持ち込み、あからさまな侵攻をしている。
Trrrrr Trrrrr
そのとき電話のベルが鳴った。たぶん中佐からだろう。
「はい、こちら第1連隊参謀シータ少佐」
「バサラだ。シータか?」
「はい」
「会議は本日の2230に作戦本会議室にて行われる。それまでに色々と練らねばならないから2100には私の部屋まで来てくれ。」
「はっ、了解しました。」
2100か……、今が午前10時だからまだ11時間ある。それまでに書類の整理と各大隊の訓練報告書に目を通しておくか……。
【22時30分 10階:作戦本会議室】
本会議室には既に全ての出席者が揃っている。エルニド旅団長カイテル准将、第1連隊長バサラ中佐とその参謀である私、そして第2連隊長ボルマン中佐に参謀ヘス少佐の5名である。カイテル准将が口を開く。
「さて、今回はバサラの呼びかけでこの会議が催されたわけだ。バサラにはその趣旨を説明してもらう。」
「今回は第2連隊への質問があってこの会議を提案いたしました。」
「で、その質問とは?」
「テルミナを占領したというのは本当でしょうか?どうでしょうか、ボルマン中佐?」
「ああ、本当だ。」
その質問を予想していたかのように動揺する様子もなく答えた。バサラ大佐の眉間にシワが寄る。
「武力侵攻は我々第1連隊の領域だ。君たち第2連隊は軍則通りスパイ行動のみに徹してもらいたい。」
「武力侵攻というほど本格的なものではないよ。相手は銃さえ知らない未開人だ。実際テルミナの一般市民の被害者はほとんど出ていない。」
「そんなことは問題ではない!君たちは事実上テルミナを制圧したんだ。それは越権行為であり我々第一連隊への挑戦とも受け取れるが…。」
「別に第1連隊の領域を侵そうとしたわけではないさ。私たちは同じパレポリの軍人だ。今回の占領はパレポリのためを思って行ったことだ。軍則に固執して気を逸するよりも早急に対処して成果を上げた方がよっぽどパレポリのためになると思うがねぇ。」
なかなかの反論をする。さすがは第2連隊長を任されるだけのことはあるな。まあその裏に潜む保身の影を見落としはしないけれど……。
「そうか、だが越権行為には違いない!それに蛇骨大佐はれっきとしたパレポリの大佐だ!テルミナへの武力侵攻は立派な上官反逆罪に値するのではないかね?」
「たしかにエルニドはパレポリの領地であり、自警団であるアカシア龍騎士団はパレポリに帰属している。しかし黒き風からの報告によるとアカシア龍騎士団の反逆は明白だ。既に蛇骨の階級は剥奪したものと見て問題はないだろう。」
「黒き風?」
初めて聞く名だ。そこへ参謀のヘスが口を挟む。
「私たち第2連隊のエリート部隊です。初期の頃からテルミナに潜入し、詳細な内部情報を収集しています。信頼の置ける優秀な集団ですが、何しろ隠密活動が主なため、他の連隊へは極秘にしております。」
「反逆は明白だというが、証拠があるわけではないし、蛇骨に直接確認をとってもいないのだろ?それでは反逆の意志を確定することは出来ない。」
そこでまたボルマン中佐が口を開く。
「だが、占領後、蛇骨大佐は行方不明、同じく蛇骨四天王の四人も行方不明だ。事実確認が取れない以上、反逆がどうかが確定するまで緊急処置として臨時に占領しているだけさ。」
「わかった。では、旅団長はどうお考えですか?」
バサラ中佐に促されカイテル准将が答える。
「まず侵略行動は緊急時の対処策として認可しよう。しかし越権行為であり、第1連隊の領域を侵しているのは確かである。ゆえに1週間後に統治軍の交代を行い、テルミナには第1連隊が入ってもらう。アカシア龍騎士団の処分については証拠が揃うまでは保留とする。第1連隊はそれで異論はないか?」
「はっ、承知いたしました。」
「第2連隊は?」
「結構でございます。」
「うむ。それでは閉会とする。各自今後の準備を開始するように。」
こうして会議は終わった。我々は1週間後の第2連隊との交代に対しての準備に取りかかることになった。
【4日後】
3日後に迫った交代について旅団長と話し合っていたときに密偵が駆け込んできた。
「蛇骨率いるアカシア龍騎士団がテルミナ駐在中の第2連隊を急襲!第2連隊の80%が壊滅いたしました!」
「なんだとっ!戦闘の詳細は?なぜ銃も使えないアカシアにパレポリの精鋭が負けたのだ?!」
「敵は強力な魔法のエレメントを使用!召喚獣も出現した模様です!」
「なにぃ…。おい!今すぐ各連隊長と参謀を本会議室に集合させろ!」
30分後、本会議室に第1〜第3連隊長と参謀、そしてカイテル准将が勢揃いした。
「我々エルニド旅団は、本日をもってアカシア龍騎士団を敵対軍とする。第一連隊はただちにエルニドに進軍。第2連隊は散開した兵を招集後、負傷兵の回復、連隊の立て直しに全力を計れ。第3連隊は第1連隊の後方支援に回れ。以上。」
こうして第1連隊はテルミナに侵攻することになった……。
蛇骨館裏 【第1大隊】
深夜3時。蛇骨館裏の絶壁は海岸に面していて絶えず波が岩肌にぶつかっている。 その中にボートで接岸する一団がいる。深夜の闇と波の音に紛れ、俊敏にボー トから出てくる。その者たちは黒装束に身を包み、数メートル先から見ると全く の闇と化している。
「隊長。我々はテルミナを奇襲するのではなかったのですか?ここはまだ蛇骨館 ですが・・・。」
「アカシア龍騎士団は蛇骨館を本拠地としているらしい。蛇骨や四天王もこの館 にいるはずだ。ここを落とせばアカシア龍騎士団は崩壊。テルミナは落ちたも同 然になる。」
「しかしこの要塞は堅固です。やはりテルミナをまず落し、そこを拠点として蛇骨館と争えばいかがでしょうか?」
「この作戦はシータ参謀長からの提案だ。それとも副隊長。君は参謀長の作戦を しりぞけるだけの根拠を持っているのかね?」
「参謀長からの・・・…。出過ぎた真似をして失礼しました。」
「まあいいさ。まずはここを落とすことが先決だ。敵はテルミナを奪回したばか りで戦勝気分に浸り油断している。今こそが反撃のチャンスだ。この闇と波では 多少音を立てても気付かれまい。できるだけ素早く上まで登り一気に決着をつけ る!行くぞ!」
今回、断崖の上まで登って行くのは20人。奇襲であるが故に少数で忍び込み敵を 混乱に陥れなければならない。あらかじめ選出された20人が身軽に断崖を登って 行く。その中には大隊の隊長と副隊長も含まれている。
ズガァァァァァァァ−−−−ン
それは雷鳴の音ではなかった。蛇骨が放ったライトニングであった。それが合図の信号かのように崖の上から蛇骨兵が一斉に弓を放つ!完全に虚をつかれた第1大隊は混乱状態に陥った。
「隊長、敵は奇襲が来るのを予測していたようです!このままでは・・・」
「わかってる!今回の計画は失敗だ!全隊員をボートに集め、連隊本部にまで退却する!」
「はっ!!」
待ち伏せされている奇襲ほど脆いものはない。第1大隊は這々の体で敗れ、北東に位置する連隊本部へとボートを進めた。
波は穏やかでこのまま行けば無事本部に辿り着けると思われたが……
ドォォォーーーーーーーーーーーーン
第1大隊ボート群の中央に大砲が撃ち込まれた。朝霧の中から大きな甲板が顔を出す。その甲板には【天下無敵号】と書かれていた……。
【第1連隊本部 連隊長室】
コンコン
「誰だ?」
「シータです。作戦結果報告に参りました。」
「入れ。」
ドアを開けてシータ中佐が部屋の中に入る。
「今回の作戦は第1大隊を囮にして第2、第3大隊で古龍の砦を陥落するというものだったな?」
「はい。その通りです。作戦はほぼ成功し、古龍の砦の奪取に成功しました。」
「ほぼ?」
「はい…。第1大隊の被害が予想以上に大きかったことが唯一の失敗です。蛇骨の奇襲は計算のうちでしたが、ファルガの海賊まで蛇骨に協力するとは計算外でした。こちら側の情報によると蛇骨とファルガは犬猿の仲であり、ファルガが蛇骨に手を貸すことはないと踏んでいたもので……。」
「全滅しなかっただけでも良しと思わなければな。とにかく古龍の砦は奪取できたんだ。これからの作戦を考えねば…。といっても古龍の砦は天然の要塞だ。攻め込まれにくいが逆にいえば攻めにくいということだ。」
「長期戦になりそうですね。」
「ああ。まあ気長にいこう。強攻策をとってエルニドの人々の不信感を募らせてはまずいしな。」
「はい。」
こうしてエルニド旅団は古龍の砦を最前線としてアカシア龍騎士団との睨み合いを続けることになった……。