北風と太陽
text / tagotago
2 読心術
「ねえ、浩平くん、わたしでオナニーしたことある?」
掃除当番の浩平は、チリトリを持った聡美の質問に、また
かよ、という表情で答えた。
「ない、ない」
聡美は意味ありげに微笑みながら浩平を見上げている。
「昨日もしてない?」
「してないって」
「そっか」
「ばーか、毎日同じこと聞くなよ」
浩平は聡美に背を向け、得意のフォームでホッケー選手の
ようにごく適当に床を掃き散らしていく。
「ふふーん。わたし、目を見ればわかるんだ。正直に話し
てるか、嘘ついてるか」
ちょっと自慢げな表情で聡美はつぶやいて、制服のポケッ
トからカラフルな手帳を取り出した。
大好きなミュージャンの歌をハミングしながら、蛍光ボー
ルペンで手帳のカレンダーにひとつ○をつける。
……××○×○○×○○○○
ここ4日間連続して○が付いている。
掃除用具入れにホーキのフリースローを慎重に決め、帰ろ
うとする浩平の背中に、いたずらっぽい口調で聡美が声をか
けた。
「ありがと、浩平クン」
微笑む聡美から逃げるように立ち去る後ろ姿が、耳まで赤
くなっていた。