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時事フランス語(第29号)
(1998年10月29日発行)
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今回から翻訳文の検討を始める予定でしたが、お一人の方の翻訳原稿が未着(?)であ
ることがわかりましたので、本来は範囲外だった序の一文だけを読んでみましょう。その
後で、翻訳という世界について、少しご紹介します。

L'ordinateur fait-il des petits genies ?

Avec la ruee des familles sur les machines a 4 000 francs, avec Internet a
la portee des debutants, avec l'informatisation acceleree de l'ecole, voici
venir la bit generation. Revolution pedagogique ou abetissement
numerique ?

[Oさんの訳例]
コンピュータは子供を天才にするか

4000フランのマシンに一般家庭が殺到し、インターネットは初心者にも手の届くもの
となり、学校のコンピュータ化は加速する。こうしてビット世代がやってくる。教育
界の革命か、それとも数学音痴を生み出すのか。
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Oさんは一番長い訳文を提出していただいて、しかも全体的にとてもよくできているので
感心しました。この部分もほとんど問題はないですね。あえて取り上げるとすれば、最初
のタイトルをもっとひねってもいいですね。コンピュータから小さな天才?のような疑問文
でもいいかも。雑誌の記事のタイトルなので、人目をひく訳がいいでしょうね。
読者の方々のアイデアを募ります。こうしてビット世代がやってくる。のとこ
ろは、ぼくの好みとしては、ビット世代の登場であるのようにするだろうと思います。で
も単なる好みの問題ですね。

文の構造としては、Avec..., avec...., avec....で状況を素描してから、本題を出すとい
う古典的なやりかたですね。abetissement numerique は数学音痴とすると、前の
教育の革命とあわなくなりますね。こういう時のouでつないだ語句は、正反対の意見
を提示することが多いのです。ここではコンピュータを教育に使うことが革命なのか、
それともデジタル白痴を生み出すだけなのかが問題とされているのです。教育の革
命か、それともデジタル白痴か

それと時事的な文章は多くの人の目に触れるので、差別用語は嫌われますね。自主規
制が激しくて、やりにくいのですが、職業としては使わないようにしなければしょうがない
ところがあります。この白痴、馬鹿などもかなり使えない表現なので、翻訳にはなか
なか苦労するところです。最終的には編集者との相談になるでしょう。

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翻訳の世界(1)

翻訳に関心をもっておられる方がかなりおられるようなので、職業としての翻訳者になる
ための方法とか、心構えのようなものを、少しお話ししてみましょう。関心のない方は読
み飛ばしてくださいね。細かにいうと、言語によって少し違いがあるのですが、まずおお
ざっぱなところから。

まず業態としては、翻訳者には二つの大きな種類があります。出版翻訳と産業翻訳と呼
ばれるのが普通ですね。その中間に、このマガジンの対象分野である時事翻訳の分野
があるのですが、これはその両方の特徴を兼ね備えているので、この二つの分野につ
いてご説明すれば、だいたいどんなものか、お分かりになるのでは。

出版翻訳というのは、字をみてお分かりのように、書物を翻訳して出版する仕事です。
翻訳というと、たいがいこの翻訳を考えられることが多いですね。翻訳者が出版者と契
約して、外国語の本を訳して、出版する(ただこの契約というのは、単なる口約束のこと
が多いですね。日本ではまだ契約書を交わす風習が根付いていないのです。だから編
集者が交替したりすると、印税でもめたりすることもままあります)。出版社はこの訳書を
販売して、消費者がこれを購入する。この代金のうちの一部が訳者に印税として支払わ
れます。

これに対して産業翻訳というのは、企業の翻訳のニーズに答えるために翻訳者がエー
ジェントを通して仕事をするというのが、一般的な形です。一番分かりやすいのは、コン
ピュータやさまざまな機器のマニュアルでしょうか。これは企業が消費者のために提供
しなければならないもので、翻訳が必要ですね。

でもそれだけでなく、企業は研究開発のために多量の報告書を理解し、読解し、作成し
なければなりませんよね。最近のように国際化がすすんでくると、海外の事情や法律や
制度を認識していないと、巨大な損失を出したりすることもあります。子会社の税務など
は、よく注意していないと数億円単位で二重課税されたりすることもあるくらいですから。

ですから産業翻訳では、翻訳会社が企業から仕事をとってきて、それを翻訳者に回し、
あがってきた翻訳をチェックして、企業に提出するわけです。だからお金を払うのは企業
で、エージェントが仲介して、翻訳原稿料を訳者に払います。企業が出す翻訳の仕事は、
数百万円単位の仕事が多いので、大手の翻訳会社では多数の営業マンをクライアント
にはりつけています。談合のように、大手の翻訳会社の間で仕事を回したりすることもあ
るのだそうです。

この二つの世界は、同じ翻訳という作業をするのに、非常に業態が異なることがお分か
りいただけたでしょうか。片方は読者向けの書物という最終製品になりますし、もう片方
は企業が製品を作るための中間財のような位置を占めることがおおいのです。出版翻
訳の世界はどこか牧歌的なところが残っていますし、産業翻訳は完全なビジネスの世界
です。ですから翻訳者の仕事も、心構えも、必要な機器類も、かなり違ってきます。そし
て収入も。

今回はまず収入の面からご説明しましょうか。出版翻訳では、印税という形をとります。
さまざまな比率がありますが、4%から8%というのがよく聞くレートですね(これは著書
のときのほぼ半分です)。マイナーなところでは、特に訳者が企画を持ち込んだときには、
訳者の持ちだしとか、再版になってから支払うとか、翻訳者の側に負担を求めることもあ
るようですよ。

2000円の本を2000部翻訳出版するとしますね。今は不景気だから、堅い本ではどう
しても最初はこのくらいでしょうか。2000円に5%の印税だと、1冊うれて100円、それ
が刷った部分が全部うれて20万円です。出版社によって、刷った部数をそのまま支払
ってくれるところと、実売部数しか払ってくれないところがあります。もしも実売契約だと
500部しかうれないと、5万円にしかなりません。しかもそれが出版してから3か月以降
に支払われますし、中小ではいつ払ってくれるかのわからないことも。

ひどいでしょう? 最初からこんな話をして、挫けてしまう方がおられたらすみませんね。
でもぼくのところによく、翻訳者になりたいのだけどという相談にこられる方がよくあるの
ですが、かなり夢のようなことを考えておられる方がおおいのです。夢をもつのはとても
いいことですけど、生計についてはシビアに考えておくことが必要ですよね。

でも出版翻訳でもいい話もあります。部数が売れさえすれば、なにもしなくても、どんど
ん収入が入ってきます。これは特に小説やノンフィクション系であたった場合ですね。さ
きほどの例では、2万部ならいくらになり、20万部ならいくらになるか、お分かりですね
よね。ぼくの知り合いの翻訳者は、最初の仕事にもらった小説がバカ売れしました。だ
れもやり手がいなくて、初心者に回ってきたのですね。その後映画にもなったし、だれも
が知っている小説です。それで彼は家を建てました。それからもどんどん仕事がきて、う
れっこになって、たしか今はもう、「翻訳なんかあほらし」と(笑)、売れない小説を書いて
いるはず。なんとも贅沢。

たくさん本を訳していて、それが売れていれば、あとは利子が入るように、版を重ねるご
とに収入が入ってきます。落とす経費がないので、税金の処理に困りますが。でも同じノ
ンフィクション系の(少し堅めの)本を訳している別の知り合いは、「ぼくはもう五十冊訳し
ているが、まだ暮らせない」とこぼしていました。再版しない本の訳者は、労力から考え
ると、かなり持ちだしになる傾向があります。

要するに、出版翻訳にはかなりバクチのようなところがあるのです。いつ、いくら入ってく
るのか、分からない。だから来月の生活をどうするのか、印税では予算が立てられない
ことがおおいのです。ですからこの分野に携わる方は、他に仕事をもっているか、自分
が家計を負担しなくていい恵まれた(失礼)立場にある方ですね。主婦の方とか、大学の
先生とか、その他にいろいろな形態が考えられますが、大当たりしない限り、印税を生
計の基本の収入として見込むのは、とてもリスキーだということです。

これに対して産業翻訳の場合には、確実な収入が見込めます。400字換算で1枚いく
らという契約(こちらも口約束ですね)をして、エージェントから仕事を受けます。特に問
題がなければ、翌月末には確実に金額が支払われます。もちろん信頼できる邦訳会社
を探さなければだめですよ。こちらは来月の収入がいくらになるのか予算が立てられま
すし、家族を養っていける仕事です。

ただし、ビジネスなので品質についてはシビアですよ。誤訳だらけの本がよくでています
が、読者からクレームからつくということもあまりないし、業界内でも他の人の訳を指摘
することは通例としてはありません。しかしビジネスの世界で誤訳をしていると、クライア
ントの企業は厳しくクレームをつけます。エージェントは仕事を失いたくないから、翻訳者
を変えざるを得ませんよね。

それに納期はぎりぎりのところをいってくるのですが、約束した納期を守らないと次から
仕事はこなくなりますね。もちろん、自分でできると思う量を引き受けるのだから、納期
は守れるはずですし、翻訳者もそのつもりでいます。でも日常の世界にどんな出来事が
あるかもしれないし、どんなハプニングがあるかもしれないでしょ。昔の恋人から電話が
かかってきたたら、どうしても会いたくなりますよね。突然熱を出して寝込むかもしれない
し。

例としてぼくのしくじりをご紹介しましょう。しばらく前のことですが、ぼくが翌日納期の仕
事を引き受けて、順調に半ばまで終わったところで、昼の3時頃に、夕食のしたくを始め
たのです。ぼくは料理は好きだから、かなり凝るんですね。しかしその時は包丁が滑っ
て小指に怪我をしてしまったんですよ(まだ傷跡が残ってます)。どうってことないと思っ
て、絆創膏をしてワープロに向かったら、まったく打てない! ワープロの場合は、小指
は大事な働きをするのですね。

これでは間に合わないとおもって、スミマセーンと電話で謝ったら、笑いながら他の人を
見つけてくれました。長年の付き合いのある懇意なエージェントなのでよかったのです
が、エージェントも翌日にクライアントにその仕事を提出しなければならないわけですか
ら、ほんとは大迷惑なのですね。

それと、多くの場合、翻訳者は複数のエージェントに登録するので、一つの仕事を受け
ている時に、別のエージェントから仕事がくることがよくあります。一度は断れても、二度、
三度と断ると仕事はこなくなるので、二度目には引き受けざるを得なくなります。すると
二つの仕事を同時に抱えるので、納期がとても厳しくなるのは、お分かりですよね。

それに経験者に仕事が集中して、始めたばかりの頃はなかなか仕事がこないのは、フ
リーの仕事にはつきものですね。バブルがはじけて不況になった時に、最初に削られる
のが翻訳などの費用のようで、最近は厳しいようですよ。フリーの翻訳者になっても、エ
ージェントが仕事を回してくれないと、干上がってしまいます。これもなかなかつらい。そ
れに翻訳者は志望者が多いので、競争もはげしいし、原稿料も叩かれていますね。それ
でも一か月に二百万円もかせぐ「剛の者」もいるとか。

業態としては、時事翻訳もこの産業翻訳と同じ場合が多いですね。やった枚数はきちん
と翌月に支払われるはずです。あと、産業翻訳や時事翻訳の場合には、社内でこなす
場合も多いので、翻訳会社からサラリーマンとかOLとして雇用される道があります。そ
れも製品として外部に出すものを社内で作る場合と、社内で参照する資料を作る場合が
あります。研究レポートを企業に提出する研究組織などの場合ですね。

こういう内勤の翻訳の仕事は、翻訳の仕事をしながらお給料をくれるので、いずれ独立
するにしても、とても有益ですね。お給料ですから、こなした仕事の量よりも、勤務時間
が尺度になりますね。派遣で働かれる方でも、かなりの時給になるのでは。それにフリ
ーでやるほどストレスもないですし。産業翻訳や時事翻訳を手掛けられる場合は、最初
は内勤の翻訳者を募集している会社にポストを見つけるのは、名案だと思いますね。

さて、次回はこの二つの翻訳の仕事につくための心構えとか、必要な「装備」(笑)とかを
ご紹介します。読者の中にはいま翻訳を勉強中の方も、プロの翻訳者の方もおられるの
で、なかなか取り上げ方が難しいのですが、ご感想とかご質問とかありましたら、お寄せ
くださいね。

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時事フランス語第29号 [1157部]
寺田 駿 official:terra@cyberdude.com
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