私がとある電機メーカーの関連会社、T社に就職したのは、1993年のことです。まず、そのころの業界がどうなっていたのか、書いておかなければなりません。
そのころは、Windowsなんて無かったはずです。パソコンはMS DOS。
MS Officeもないから、ワープロは自社製品。もちろんGUIではありません。マウスもウィンドウもありません。みんなガチャガチャキーボードをたたいていました。
「ネオダマ」がこれからのキーワード、と言われていたころです。
ネットワーク、オープン、ダウンサイジング、マルチメディア。
ですが、システム開発のメインはホストコンピュータ。
そして、これが重要。いまでは必須のインターネットも、このころは全く普及していなかったの
です。 いちおう、NIFTYは積極的に使われていました。
さて… 私は文系出身なのに、SE(システムエンジニア)などになってしまいました。
その理由も一応書いておきます。
私の行っていた大学は、3年になると研究室が決まります。私の配属される研究室は、文系なのにコンピュータを使うことが多くて大変だと聞いていました。そこで、友達から古くて不要になったパソコンを貰って、通
信教育で勉強したのです。よく新聞に折り込まれている、あれの「パソコン入門」を申し込んだんですね。内容は主にBASICのプログラミングでした。
はじめてプログラムを組み、デバッグとか体験。へぇ、コンピュータっておもしろい!これが始まりです。
やがて就職の季節。私はそのころ、せっかく漫画家デビューしたのに続かず、就職なんて考えたくないのでやる気まったく無しでした。勝手に届けられる、大量
の就職雑誌を眺めていると「SE」という文字が目に入りました。
「SEになりたいという文系の君。君の考えは正しい!ますます情報化の進む今、SEはまさに必要とされている職種だ!」
SE?どうも、文系出身者でもコンピュータでプログラム作ったりできるお仕事のようだ。給料もそこそこ良い。へぇ、この仕事だったら、面
白いかも。それだけの理由で数社受け、一番給料のよかったT社に入社したというわけです。
周りの同級生たちは東京に出ていきましたが、私はZ市で就職しました。理由は、東京が嫌いで、Z市はそこそこ便利で住みやすいから。
文系の人がシステムエンジニアになって、なにが期待されるかというと、
お客さんとの折衝とか、要求を聞くとか、そういう人と対話できる能力です。
会社案内にも書いてました。「文系だからこそお客さまとの打ち合わせなどで
能力を発揮できる」と。
しかし、文系だからって対話が得意、ということはまったく関係ない!
私ははっきりいって対話とか会話とか大の苦手。社交性はほとんど×。 子供の頃から友達が少なかったし、大人になった今でも、喋るのは嫌いだし一人でいるのが好き。
配属の時は、人と接する機会の少ない開発部隊に行きたいと思ったものです。
しかし、たかが通信教育でBASICをやった文系の人間が、専門学校でバリバリプログラム
組んでた人や、子供の頃からコンピュータに触れ理系の大学に進んだエリートと
同列になれるわけがない。はっきり言って、プログラミング能力は落ちこぼれに近かったんです。
そして配属は…あるアプリケーションのユーザーサポートをする、システム四課でした。
ま、当然でしょう。幸い、親切な先輩達に恵まれ、なんとか仕事を覚え、 嫌いな電話対応も慣れてきました。それなりに感謝されることもあり、やりがいも感じてました。
でも、コンピュータが面白そうでSEになった私としては、「『ちゃ』ってどう打てば出るんだぁ?あれ?漢字にならないよ〜」というおじさんの相手や、自分のせいでもないのに「申し訳ありません、バージョンアップによって解決しております」と謝ったりとか、マニュアルの作成のため来る日も来る日もワープロ打ちとか、そういうのは、どうも、つまらないなぁ…と思っていたのです。
それに、サポートだけでは、コンピュータのスキルは上達しませんでした。バリバリ開発をやっている同僚はプログラミングのスキルも上達しているのに、私は配属されて一行もプログラムを書いていません。まだ、メジャーなアプリケーションならいいのですが、私の担当は非常に特殊なものだったのです。OSなんてMS
OS/2ですよ。御存じですかこんなOS?IBMのOS/2 Warpじゃないですよ!!…他にだれも使っていないっつーの。それに同僚の話についていけないんです。「○○で××使っててさー」「えっ、なにそれ?」「知らないのー?」いまでこそ、分からないことはネットで検索すればすぐ分かるようになりました。でも当時、そんな便利なものはありません。
パソコンに詳しい友人にも「システムエンジニアやってて、なんでそんなにコンピュータのこと知らないの?お前の仕事、システムエンジニアじゃなくってサービスエンジニアだね」と、馬鹿にされ…悔しかったです。
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